第105話 装備を整える前に

クリフに来て、およそ1カ月。あたし達「暁影のそら」は、森の浅いエリアでの狩りを続けてきた。とは言っても少しずつ活動エリアを広げてきてはいるのだけど。


「多少は減ってきているのかしら」


初日こそオーガやトロールも出てきたものの、そのあとはほぼゴブリンやオークとその変異種。変異種にしたところでエルリックで相手をしたような強力な個体は出会ったことが無いのよね。あ、ちょっと大きな猪も出てきたわね。ゴブリンやオークを軽々と蹴散らすようなの。さっくりと斃してあたし達のご飯にしたけど。ご馳走さまでした、美味しかったです。


「さすがにこれだけ狩ってきていますので、全体としては敵影は薄くなっているとは思いますが、元が多いですからね」

「それよりも、そろそろ、朝未の防具を揃える金は十分に貯まったと思う。明日にでもグライナーに注文をしに行こうと思うんだがどうかな?」


マルティナさんの答えに微妙に方向を変えた瑶さんの言葉が重なったのだけど、あたしとしては全員の装備を同じレベルにそろえたほうがいい気がしてるのよね。


「あたしの防具だけ先にグレードアップしても仕方なくないですか?これまでのマルティナさんの説明から察するに森の奥に行くには瑶さんやマルティナさんの装備も強化しないといけないでしょ?逆に今の狩場で活動する分にはあたしの装備も今のままでも問題ないわけですし」

「それもそうだね。もう少し貯めて全員の装備をまとめて強化するほうが効率的かな」



そんな話をした更に1か月後、あたし達はグライナーの街で装備を見繕っているのだけど。


「まずは朝未の防具からだね」


そんな瑶さんの言葉にマルティナさんも頷いたので、今あたしは防具のためのサイズを測定中。


「ふむ?これまで使っていた鎖帷子がこれか。随分と窮屈だったんじゃないか?サイズが合わなくなったなら早めに調整するものだぞ」

「え?5か月前に大き目で作ったんですけど」


確かに少し窮屈になってきたかなって思ってはいたけど、そんなに言われるほどだったのね。


「ふむ、なるほど、嬢ちゃんアサミといったか。まだ成長期ってことかの。そうするとどうするのがいいか。ピッタリに作るとあっという間に合わなくなるかもしれん、かと言って大きめに作ってそこまで成長しなんだらもったいないが、どうする?」


店主のアルベルトさんが選択を迫っている。たった半年でそれほど身体が成長したとなればこれからもまだ大きくなることが期待できるのよね。あたしは自分の身体を、特に最近育ってきているある部分を見下ろして考えた。


「うん、大き目でお願いします」


そのあと、瑶さんとマルティナさんの採寸を済ませ、いよいよ詳細の打ち合わせに入った。


「まずはヨウの防具からでいいか?」

「いや、朝未の防具を最初にしてくれ」

「ん?アサミは後衛だろう。それほど大げさなものはいらんと思うんだが」

「それなんだが、朝未は割とやんちゃなんでな。後ろでじっとしていてくれないんだ」


ん?アルベルトさんに対する瑶さんの返事がちょっと気になるわね。


「ねえ、瑶さん。やんちゃってどういうことかしら?」

「だってなあ。訓練でのはともかく、朝未、戦っているとすぐに前に出てくるじゃないか。ハンターに登録してからこっち半年ばかりで何回骨折した?アバラをやったのだって1回や2回じゃないよね」

「う、だって瑶さんのフォローをするにもあのくらいの位置にいないとだし。そもそも、あたしだって瑶さんほどではないけど剣でも戦えるもの」


あたしが反論したら瑶さんが肩をすくめてアルベルトさんに声を掛けた。


「な、こういうことだ」


アルベルトさんの呆れたような視線が痛いわ。そしてため息をついて諦めたような口調で口を開いた。


「わかった。とりあえず、おまえたちの戦い方を説明しろ。それに合わせて見繕ってやる」

「理想的な進行だと、目視した段階であたしが弓で先制攻撃ですね。そこからは迎え撃つか、攻め込むかで多少の違いはありますけど、瑶さんが前面で剣を振るい、マルティナさんが槍でサポート、あたしが魔法で相手の中間に攻撃をしつつ、回り込んでくる敵には剣で対応って感じですかね」


あたしが使う魔法の内容は説明しないわよもちろん。そんなの話したら面倒が山ほどやってくるのは間違いないものね。


「うーん、嬢ちゃんは後衛から前衛までこなすのか……。となると本来は前衛としての装備が良いんだが」


そう言いながらあたしを頭のてっぺんから足の先まで見て悩んでいるわね。


「ま、とりあえず、3人とも動きを見せてくれ」



と言うわけで、お店の裏手の中庭(?)に来ているのだけど、なにをしたら良いのかしらね。剣の素振り?


「まずは、3人の武器を振って見せてくれ」


ちょっと迷ったけど、とりあえず補助魔法は無しで振って見せる。

しばらく振って見せていると、アルベルトさんが倉庫らしき建物から剣と槍をいくつか出してきた。


「色々な重さの模擬剣と槍を持ってきた。自分に丁度よさそうなものを選べ」


あらアルベルトさんちょっと微妙な顔ね。

それでも言われた通りに剣を選んで持ってみる。今までの短剣も随分と軽く感じるようになってきてるし、威力を考えれば少し重めがいいかしらね。


「嬢ちゃん。その短剣を選んだ理由は?」

「そうですね。まずあたしの身長じゃこれより長いのは扱いにくいので短剣を選んだんです。で、重さですけど、今までつかってきた短剣が軽すぎるので少し重い物をって思ったんですが、正直言えば、ここにある短剣はあたしとしては軽すぎるんですよね。それでも一番重い物を選んだ感じです」

「全部軽すぎるだと?よく言ったな。ならこれを付けて模擬戦をしてみせろ」


そういってアルベルトさんが持ち出してきたのはなんか袋を皮ひもで繋げたもの。それをあたしの肩から下げて縛り付けた。


「これなんですか?」

「嬢ちゃん達の体力を見る道具だ」


瑶さんと、マルティナさんにも同じものを付け終わったアルベルトさんは、あたしにつけた袋にドサドサと何かを入れながら説明してくれる。

あ、これあれだわ。日本でパワー何とかって言って売られていたのの異世界版だわ。よく見ると袋に入れているのは鉄の塊じゃない。結構な量を入れているわね。いったい何キロくらいあるのかしら?


「よし、これで動きをみせてもらおう」

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