第104話 冒険者とハンター
「”暁影のそら”さん。これが今日1日の戦果ですか?」
あたし達が持ち込んだ魔物素材や討伐証明にパオラさんが目を見張っている。
「ああ、状態が悪すぎますか?」
瑶さんがちょっと気まずそうね。
あたしの魔法の実験で特に素材は穴あきだったり焼けこげたりしてるものね。
「い、いえ、そういう事ではなくてですね。クリフでの討伐初日ですよね。肩慣らしって言ってましたよね」
あら?ちょっと方向が違いそうね。瑶さんもちょっと不思議そうな顔で首を傾げているわ。マルティナさんだけは楽しそうな笑顔だけど。
「ふふ、だから言ったでしょうパオラ。アサミ様もヨウ様もわたしよりも強いって」
「それにしてもマルティナ、初日からこれだけの数のゴブリンやオークだけじゃなくオーガやトロールまで複数狩ってくるなんて思わないじゃない」
「まだまだよ。これは”暁影のそら”としては肩慣らし。特にアサミ様は、まだご自分の力の上限を確認すらされていないくらいだし、ヨウ様にしたってその実力に武器がついてきていないしね」
そんなドヤ顔で言わなくても良いとは思うのだけど、なんかマルティナさんが楽しそうだからいいか。
パメラさんに驚かれるという場面はあったけど、特にトラブルということもなくギルドで少なくない報酬をもらって今は宿で休んでいる。家を借りるという話は”もう少し待って”とのこと。早く家を借りられると良いのだけど。
「さて、今日の狩りで朝未の魔法の威力がわかったわけだけど……。わかったんだよね?」
瑶さんが、少し不安そうに聞いてきた。
「えと、わかったと言えばわかったんですけど。わかっていないと言えばわかっていないです」
「それは、どういう意味?」
どう説明しようかしら。少し考えてからあたしは口を開いた。
「とりあえず、発動しただけの中級魔法の威力はわかりましたけど、他の魔法でやっていた魔力を練り上げてつぎ込むことはしてませんから、どこまで威力を上げられるかはわからないです」
「ああ、前にも言っていたやつだね?」
ああ、瑶さん覚えていてくれたのね。
「あと、感覚なんですけど、あたし少なくとも今のままだと魔力が増えても、いわゆるゲームで言うところのレベルみたいなものが上がっても多分聖属性魔法以外は中級魔法までしか使えない感じがします」
「いや、あれだけの威力があれば十分じゃないかな。あれでも相当な威力だったよね。しかも朝未の場合、さらに魔力をつぎ込んで威力を上げられるんだよね。ねえ、マルティナさん。朝未の魔法の威力ってどのくらいのレベルに見えるかな?」
「そうですね、わたしは魔法使いではありませんし、魔法についてそれほど詳しいわけではありませんのでハッキリとした事は言えませんが、過去に聞いた話と比べるなら、今日見せていただいたアサミ様の魔法は少なくとも上級魔法に匹敵すると感じました。もっと言わせていただくのなら、初級魔法として使われている魔法の数々が威力としては伝え聞く中級魔法を凌ぐように感じています。加えて言わせていただくのなら、アサミ様の魔法には聖属性が付与されますよね。あれは魔物や魔獣への効果が高くなります。さらにアサミ様は極めて強力な聖属性魔法を使われます。欠損した腕を再生するなぞ少なくともわたしは聞いたこともありません」
マルティナさんの勢いに腰が引けてしまったわ。
「えーっと、つまり?」
「防具さえ整えば、このクリフでもかなり奥まで狩場にできると思います。あ、アサミ様は防具無くても油断さえしなければ何とかなりそうですが。でも、アサミ様も人間……ですよね。なのでできる準備はしたほうがいいと思います。ただ、現状では攻撃をアサミ様の魔法頼りになりすぎるのが悩むところですね。ですから」
「ですから?」
ちょっと途中に気になる部分はあったけどそこは聞かなかったことにします。あたし人間よ。この世界のじゃないけど。
「装備が整うまでは浅いエリアを狩場にしましょう」
「結局のところ結論は一緒なのね」
「朝未、結論は一緒だし、やることも一緒だけど、意味が違うよ」
「え?」
瑶さんが言うには、理解したうえでやるのと、手探りでやるのは違うそうな。まあ、言われてみればその通りね。
「でも、冒険的なワクワク感は無くなるわね」
「そりゃ、この世界では冒険者じゃなくてハンター、つまり狩人だからね」
あ、そういうことね。ストンと腑に落ちたわ。
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