第68話 自意識過剰?

「で、それがその魔法用の的なのか?」


ニコレッタさんの魔法講義のあと、2つの的を譲り受けて、ハンターギルドの紹介で借りた家に持ち帰ったの。それを見た瑶さんがちょっと微妙な顔で見てるわね。


ああ、そうよね、瑶さんも魔法が使えるのだもの感じるわよね。


「そうらしいです。耐魔法の処理がされているそうで、ニコレッタさんの放ったファイヤーランスに問題なく耐えていました。でも……」

「うん?ファイヤーランスと言えば中級の火属性魔法だろう。結構な耐魔法性があるってことじゃないのか?」

「はい、そこは多分間違いは無いと思うんです。でも、その……」


あたしが口ごもると、瑶さんが怪訝な顔でこちらをうかがってきた。うう、言い難いけど、これは大事な情報よね。


「その、魔法の威力が低いというか、固定というか……」

「うん?朝未は同じ魔法を色々な威力で使うよね」

「あたしはそうなんですが、どうやらこの世界の魔法って威力も魔力消費も固定で、このまえあたしがやったみたいな魔力を盛大に込めて効果アップなんて出来ないそうなんです。その代わりじゃないでしょうけど、魔法を使って倒れるとかも無いということで、一部例外があるのは聖属性魔法だけで、それも普通は僅かな違いだそうです。そして、ここからがまた問題で大幅に威力効果を上げられるのは聖女だけだそうです。さらに普通は聖女は聖属性魔法以外は使えないそうなんです」


「魔法と魔力の事はともかくとして、聖女は聖属性魔法以外使えない?」

「ええ」

「どういうことだ?ステファノスさんは、そんなことは言わなかった。むしろ他の属性魔法に聖属性が乗るのを気にしていた?」

「ひょっとすると……」

「ん?朝未。何か気付いた事がある?」


「いえ、それほどではないのですけど、この世界って元の世界と比べて明らかに情報の伝達速度が遅いですよね」

「ああ、そうだね。テレビもネットも無いし、一般庶民はごく近くのこと以外にはほとんど関心が無いし、ほとんど街から移動しないうえに電話なんかもないから口コミで広がることも無い」


「例えば王族とか神殿の高位の神官?司祭?そういった人ならある程度正確な情報を持っていると思いますし、ギルドマスタークラスなら一般的な情報はかなり持っていると思います。でもこの世界で聖属性魔法ってかなりレアみたいじゃないですか。ましてや聖女関連となればなおさらですよね」


あ、瑶さん頷いて、考え込んだわ。


「つまり、情報の精度は元の世界に比べるとかなり落ちる可能性が高いと、朝未はそう言いたいのかな?」


あたしが頷くと、瑶さんは顎を手でこすりながら口を開いた。


「私としても一般論としてはそうだと思っている。ただ、聖女の情報あたりだとかなり重要性が高くなるから、朝未の言う王族や高位の神官あたりはある程度の正確な情報を持っていると思う。だからと言って市井に正確な情報を流すとは限らないけどね」

「つまり、ニコレッタさんの魔法の技術理論はともかくとして情報に関しては信憑性が必ずしも高くないってことですか?」

「そうだね、むしろハンターギルドのギルドマスターという地位をもつステファノスさんの情報の方が多少は信憑性が高いかな」


「ぶう、それじゃ今日あたしがニコレッタさんのところで勉強したのも支払ったお金も無駄だったってことですか?」

「それは、また別だよ。この世界での一般的な魔法について知ることが出来たし、エルリックにおけるナンバー1魔法使いの中での聖女の位置づけも聞けたんだから。それはそれで有益な情報だと思うよ」

「そ、そうですよね。よかった。安くないお金使って全部無駄なんて言われたらどうしようかと思いました」

「今回は実際に有益な情報もあったけどね、もしこれで有益な情報が無くても、それはそれで私たちの経験になるから無駄にはならないよ。そういう面まで含めてこの世界の常識を知っていく必要もあると思うからね」

「はい、何事も経験ですね」





「それで、変異種討伐にはまだ1回しか行ってないですけど。どうしましょう?行くんですよね」


「そうだね。ただ、すぐにというのは危険かな。とりあえず、朝未が魔法に込める魔力の感覚を掴んでからにしたいね。本当は出来るだけホーリーは使わずに済ませたいとは思うけど、必要に迫られることも想定するべきだと思うしね。だから朝未は、家の中でホーリーの練習をすること。家の中でなら誰かに見られて気付かれることもないだろうからね」

「う、そうですよね。魔法2発でぶっ倒れるとか、それこそどこの地雷だって感じですもんね」


あたしはちょっと俯いて気合を入れなおした。うん、頑張る。


「私は、他にもちょっと気になることがあるので、朝未が練習してる間に別で検証しようと思う」


え?別行動?それはちょっと嫌なんだけど。


「ふふ、そんな不安そうな顔しなくてもいいよ。別にどこかに行くわけじゃないからね。ちゃんと朝未は守るから」


うぐ、なんか最近の瑶さんちょっと違ってきてないかしら。そりゃこの家を借りる話をしたときも甘えちゃった自覚はあるけど。だんだんとただのバディや子供に対するのと違ってきてない?それともあたしの自意識過剰?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る