第64話 聖女とホーリー
「当分の間はあそこのエリアは6級以上での討伐になるということ、ですか?」
「ま、そうなるでしょうね」
「変異種の存在は?」
「もちろん、公開します」
「あー、それは危険度も含めて?」
「ええ。6級以上とした理由、ああ、おふたりの件以外の部分。5級以上のハンターがほとんどいないからという部分ですね。これも含めて公開します」
「でもそれだと実質6級ハンターの参加は期待できなくなるのでは?」
「それは良いんですよ。けが人くらいならともかく死者を量産したいわけではありませんから」
瑶さんの質問にアレッシアさんはスラスラと答えるのだけど、これはつまり、あくまでもあたし達が参加できるようにするためって事ね。思わずため息をついたあたしは仕方ないと思うの。
「えと、アレッシアさん。もしホーリーを使える人に会ったら、人目に付かないように言ってあげるようにって言われましたけど、具体的にはどんなとこを選ぶように言えばいいんですか?」
あたしは質問しつつ、なんとなく頭痛を感じたわ。はあ、この猿芝居いつまでつづけるのかしらね。
「そうですね、エリアの入り口付近はギルドの係員の目がありますので、少し奥。そして時間も早朝が良いですね。間違っても日の出前や日の落ちた後は避けるべきでしょう。あの魔法は結構光が目立ちますから」
「あら、アレッシアさんはホーリーの発動を見たことがあるんですか?」
「え、ええ。1度だけですけど。ここから東へ馬車で1週間ほどの場所にオークどころかオーガの変異種が発生したことがありまして。王都から高位の神官を呼んだ時にですね」
「へ、へえ、そんなになんですね。知り合ったときには注意しておきます」
うわあ、ホーリーって王都から神官を呼んで使ってもらうほどの魔法って事よね。これはもう秘匿決定ね。絶対に人の目のある時には使えないわ。
「アレッシアさん、それで、用事はこれで全部ということでいいんですか?」
「あ、はい。これで全部です。変異種への対応もご検討いただけると助かります」
「まあ、検討はします。受けるとは約束できませんが」
「はあ、まあそうですよね。それでも検討していただけるだけでも助かります」
「では今日はこれで失礼しますね」
瑶さんが確認をしてくれたので、あたしも軽く頭を下げて部屋から出られたわ。
「朝未、ちょっと座って」
宿に戻ったところで瑶さんが少し難しい顔で備え付けの小さなサイドテーブルについて口を開いた。
「え、瑶さん。怖い顔でどうしたの?」
「さっきのアレッシアさんとの話の事だよ」
「アレッシアさんとの?あのオークの変異種討伐の事?」
「それもあるけど、魔法の事だよ。朝未はホーリーを使えるのかな?」
「きちんと発動させたことは無いけど。多分使えます」
「効果は、さすがに分からないよね」
「え?さっきのアレッシアさんの話だと魔物全般にダメージを与えられるって……」
「ああ、そこは私の言い方が悪かったか。同じ魔法でも強さというか強度というかが違うよね」
「そういう意味ですか。それはさすがに使ってみないと……」
「そうだよなあ……」
瑶さんはつぶやくと、何か考えに没頭し始めてしまったわ。
「宿の部屋でならいいかしら。ホーリー」
あたしは最低魔力でホーリーを発動させてみた。
「あ、綺麗」
そこに現れたのは直径1メートルほどで高さ2メートルほどの円筒状の青い光。
あたしは、そこに手を伸ばし
「朝未!」
瑶さんに手をつかまれてしまったわね。
「瑶さん、なんで?」
「怪我でもしたらどうするつもりだ」
「大丈夫ですよ?ホーリーは邪なるものに対してだけ働く魔法です。あたしに害はありません。……たぶん」
「いや、多分じゃ……」
「それに、ちょっとした怪我ならあたしは自分で治せますから。たぶん腕一本くらいなら再生できますよ。そこまで魔力を使うとたぶんぶっ倒れますけど。まだリザレクションは使えそうもないので死んだらどうにもできませんが」
「いや、腕一本はちょっとした怪我じゃないし、リザレクションが使えても、朝未が死んだらダメだろう」
「まあ、それはそうですが、ほら何ともありません」
「あ、こら」
「ふふ、非公式ですけど、あたしは聖女ですよ。聖属性魔法ではダメージなんか受けません。……それに多分瑶さんも……」
ホーリーの光の中に手を突っ込んで見せたあたしに慌てる瑶さんをちょっと可愛いと思ったのは内緒にしておいた方が良いわね。
「え?私が?」
「いえ、まだそちらは確信はないんです。ただ、基本的に聖属性魔法はまっとうな人間にあまり害を与えることはないですよ?」
「いや、基本的にとか、まっとうなとか、あまりとか付いてる時点で補助魔法や回復魔法以外を人間に使うのは気を遣うだろう」
「ふふふ、大丈夫ですよ。そしてホーリーは発動するだけなら思ったより消耗しないですね。これならホーリーの光の中から魔物に攻撃し放題です」
あたしはホーリーの光の中に全身を入れてフフフと笑った。
そんなあたしを瑶さんは、呆れたような目で見てきたけど、平気なものは平気だもの。
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