第63話 バレてた?

「例の魔物討伐依頼の件だがな。ランク規制を8級以上から6級以上に変更することになった」


つまり、それはあれよね。あたし達を6級に上げたのは。


「私達に討伐に参加しろ、と?」

「強制はしない。少なくとも現状ではな。もちろんできれば参加して欲しいし。参加してくれるのではないかという期待もあるがな」


瑶さんが確認してるけど、これもう参加しなかったら強制するって言ってるようなものじゃないかしら?


「大体、私達は戦闘力自体にはある程度自信ありますが、経験はありませんよ」

「あー、まあぶっちゃけるとだな。天使ちゃん。あんただ」

「え?あたし?」

「朝未がどうかしましたか?」


あ、瑶さんの顔が警戒モードだわ。


「まあ、表でなく、ここに来てもらった理由のひとつでもあるんだが。天使ちゃん、あんた聖属性魔法使えるだろ?それもかなり高レベルの」

「え?」


いきなり核心を突かれてあたしは固まってしまったわ。


「な、んで、そう思われるんですか?」


辛うじて返したあたしの問いにステファノスさんは、優しい微笑みで返してくれたのだけど……。


「あんたたちが色々と隠し事をしていることは分かっているが、そうだな。例えば、天使ちゃんが魔法の練習をしている時だな。生活魔法を使うとキラキラしたものが周囲に現れるだろう。他にも聖属性魔法の習得が異常に速い。というより使おうと思うだけで最初から使えるとか、他の属性魔法を使っても聖属性が同時に乗っていだろ。さらに言えばヨウも聖属性魔法の初級は最初から使えて、使うと天使ちゃんほどじゃないが光が周囲に現れるとかな」


あ、瑶さんが立ちあがって腰の剣に手を置いたわ。

あたしも瑶さんの後ろに下がって魔法の準備をしておこうかしら。

ただ、このステファノスさん、結構強そうなのよね。


「ああ、慌てるな。秘密を漏らすなんてことはしないし、それをネタに強制なんかしない。むしろこれは警告というか忠告だな。オレでさえ気づく事だから。慎重に使えっていうな。これからはギルド内では練習も控えろ。家を借りるんだろう。ギルドの訓練スペースで練習する必要はもうないだろう。今はまだ他に気付いている奴はいないようだが、これ以上ギルド内で見られたら気付くやつも出てくるぞ」


うう、やっぱりステファノスさん気付いてたのね。瑶さんも剣から手を離したわ。ただ、まだ表情は険しいわね。


「ま、そうは言ってもこれだけの重要な内容だ。簡単には信用できないだろうし、簡単に信用されるようでも逆に心配だ。これからのギルドの対応で判断してくれ」


そう言うとステファノスさんは席を立った。


「あ、そうそう、新しいギルド証は、アレッシアから受け取っておいてくれ」


最後にそう言うと部屋を出ていったわね。


「では、おふたりのギルド登録証、あ、簡単にギルド証と呼ばれることも多いですが、分かりますよね」

「まあ、さすがに」


あたしも瑶さんも、さすがにその程度の言葉に混乱はしないわ。


「こちらが新しいギルド証になります。今のギルド証と交換ですが、今日はお持ちですよね」

「さすがにギルドに来るのに無しでは来ませんよ」


瑶さんが苦笑しつつクレジットカードサイズの銅の板をテーブルに置いたわ。あ、あたしも出さないと。


「はい、お預かりいたしました。こちらの新しいギルド証をお持ちください。これで今からおふたりのランクは6級です」

「はあ、ありがとうございます。でもさっきも言いましたがこんな短期間で6級なんて良いんですか?」

「あはは、実はあまりよくありません」

「なら」

「でも、おふたりを8級にしたままにしておくよりはマシです」


やっぱり嫌な予感は当たりなのかしら。


「あー、それは高難易度の依頼への対応的に?」


瑶さんの直接的な表現にアレッシアさんは苦笑しつつ頷いているわね。


「実際のところハイオーク案件は5級以上が適切なんですよ」

「それを6級に引き下げた理由は、まさか私達ですか?」


ここでもアレッシアさんはコクリと頷いた。


「もちろん、強制はしません。ただ不運なことに現在エルリックには高位のハンターが少ないんです。6級まではそこそこの人数いるのですが、5級となると長期間掛かる依頼を受けていたり、遠方での依頼を受けていたりで数名しかいないのが現状なんです」


「いや、だからと言って私達をあまり当てにされても」

「いえ、おふたりなら上位ハンターに勝るとも劣らない働きが出来ると確信しております」

「根拠もなくそういう事を言われても戸惑うだけなんですが」


瑶さんのそんな言葉にアレッシアさんは少し言いにくそうにしながら言葉を継いだの。


「アサミ様。ホーリーという魔法をご存知でしょうか?」

「え、ええ。中級の聖属性魔法ですね」

「その効果はどの程度ご存知でしょうか?」

「え?邪なるものへの浄化。ですよね。まあ言葉上だけしか知りませんけど」


あら、アレッシアさんがウンウンと頷いてるわね。


「では、その邪なるものとはなんだかご存知でしょうか?」

「え?それは、アンデッドとか?」

「ええ、確かにアンデッドは邪なるものの代表的な存在ですね。ですが、実は魔物全体が基本的に邪なるものなのです。まあ他にも邪法による呪いなんかも対象ですが、めったに出会う事はないので今は忘れていただいて構いません」

「うえ?そうなの?」

「はい、そしてホーリーが対象にするのは個体ではないですよね?」

「え、ええ。たしか範囲魔法ですね」


段々嫌な方向に向かっているわね。ホーリーは使えるけどギルドでは使ったことないはずなのだけど。


「使用者のレベルによって効果は変わるそうですが、その範囲にいる魔物の行動阻害から強力になると魔物を消滅させたりもできるという話ですね。まあ、どこまでの効果があるのかは魔物の強さと使用者のレベルの関係で変わると聞きます。さすがに消滅させるレベルだと伝説の聖女様レベル必要そうですが」

「へえ、魔物全般に効果があるとは知りませんでした」


でも最後にさらっと物騒な言葉が追加されてるわね。これつまりあたしのホーリーの効果を確認して消滅しないレベルで使えって事よね。


「まあ、ホーリーレベルの聖属性魔法を使えるような人は神殿や王家が黙っていないので、そういう人がいたら人の目の無いところで使うようにアドバイスしてあげてくださいね」


うん、つまりギルドはあたしが聖属性魔法自体は認識しているけど、実際のレベルは知らないということにするから、人に見られるなってことね。


「わかりました。そういう人を見かけたら注意するようにしますね」


アレッシアさんがやっとニッコリと笑顔を見せてくれたわね。


「えと、ひとつ質問いいですか?」


あら?瑶さん、何か気になったの?


「今回の変異種対応は私達が見たオークの変異種を討伐したら通常になるのですか?」

「うーん、そこが微妙なところなんですよね。変異種が間違いなく1体だけならそれでも良いのですが。変異種が出現しているということ自体が、現状変異種が出現しやすい状況だという証拠みたいなものなので」

「つまり他にも変異種が出現している可能性がある、と?」

「そういう事です」


あんなおぞましいものが他にもって勘弁してほしいわ。

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