第54話 打ち合わせ室
「受けるかどうかは少し相談してからにしたいのですが」
「もちろんです。十分に打ち合わせをして判断してください。もちろん受けないという判断をされてもペナルティ等はありません。ご安心ください」
「部屋借りますね」
「はい、今なら全室空いていますが、そうですね8番をお使いください。鍵はこちらです」
あたし達はロビーを横切り、指定の打ち合わせ室に向かった。
「さて、朝未としては実際のところどう思う?」
「え?いきなりね。でもそうですね。今のあたし達なら野営をしなければある程度は大丈夫ではないかと思います。補助魔法や各属性の初歩にある探知魔法を駆使すれば不意打ちされることもないでしょ」
「まあ、そうなんだけど、その辺りほとんど朝未頼りになるけど、魔力はもちそうかな?」
「ああ、そういう事も確認する必要がありますね。一度試してみましょう」
風魔法のウィンドイヤー、土魔法のグラウンドセンス、火魔法のヒートアイ、水魔法の……?あら水魔法の探知系魔法ウォーターソナーは水中用だから今は用は無いわね、いいわ、あとは聖魔法のマナセンスと、闇属性のマインドサーチ。重ね掛けして様子を見ましょう。
「うわあ、今のあたしのレベルでも半径50メートルの範囲ならどこにどのくらい強い人がいて何をしているか何を話しているか丸わかりですよ」
本当に壁だって関係ないし、話している内容だって聞き放題じゃないの。
「あれ?隣の部屋に誰か入ってきた」
「ん?他にも空きがあるのにわざわざ隣にかい?ちょっと不自然だね」
「二人組ですが、うーん、少し様子をうかがってみますね」
あたし達が使っているのは一番奥の部屋なので奥側には部屋は無い。もちろん屋外で聞き耳を立てることは出来るけど、あまりに不審で目立つから事実上むりよね。それに普通こういう打ち合わせ室を使う場合空きがあるなら隣は使わないものだと思うのよね。
あたしはウィンドイヤーに少し多めに意識を裂いて聞き耳を立てたわ。
「おい、大丈夫か?相手は魔法使いなんだろう?」
「さすがに、個室に入った後でまで警戒しないだろ」
「まあ、そうだろうけどなあ。あのアサミってのも怒らせるとヤバいってのは聞いたし」
「まあ戦闘力自体はあるみたいだけどな、弱み握ればどうにかなるだろ」
隣から聞こえて来たのは先日魔法の練習中に絡んできたジュゼとかいうハンターね。
どうしてくれようかしら。
「どうも先日絡んできたハンターが聞き耳を立てているみたいです」
あたしは瑶さんに耳打ちしたの。さすがにこれくらいなら隣で聞き耳立てたくらいじゃ聞こえないでしょ。
「ふむ。どうする?」
「風魔法にラウドネスという魔法があります。それを少し弄って収束させれば一人だけに効果が出るように出来ると思うんです」
「ああ、ラウドネスか」
瑶さんは、あたしの提案に人の悪い笑顔で頷いたわ。ラウドネス、声や音を任意の倍率で大きく出来る魔法。つぎ込む魔力によって、その範囲の大きさと倍率をコントロールできるのよね。通常は遠くにいる仲間に声を届けるための魔法なのだけど。範囲を隣のジュゼの耳周りのみに限定、倍率はそうね囁き声が確か30デシベルで近くでの落雷が130デシベルだったわね。記憶違いでなければ20デシベル差でエネルギーが10倍だったから10万倍で持続時間は0.1秒くらいなら気を失う位ですむかしら。
あたしは魔法を練り上げる、ちょっと特殊な運用なので集中力が必要なのよね。発動時にはその範囲に対するあたしのウィンドイヤーをブロックしないといけないしね。
「バカ」
あたしが魔法を発動すると隣で何かが倒れる音がしたわ。ショック症状でも起こしていなければ気を失う程度で済んでいるはず。盗聴の罰としてはこんなものかしら。
その後、隣からバタバタと慌てて出ていく音が聞こえ、地面からの振動で一人が人一人を背負って走り出すのを感じ、マナセンスで生命反応が2つくっついて移動していくのを確認したわ。間違いなく失神したジュゼを連れの男性が背負って逃げていったのでしょう。
あら瑶さんが苦笑いしているわね。瑶さんも隣の部屋くらいが対象ならあたしと同じ探知魔法を使えるはずだから何が起こったのか分かっているのでしょうね。
「非殺傷とは言え、朝未容赦ないな」
「あら、他パーティーの打合せを盗聴していたら何されても仕方ないと思うのだけど。むしろ、まだ優しいでしょ。多分後遺障害も残らないわ」
瑶さんはこの話はここまでとちょっと肩をすくめ、表情を戻したわね。
「さて、邪魔者は排除したわけだけど、どうかな?魔力の消耗具合は」
「うーん、そうですね。発動してまだ30分も経っていないので正確にはなんとも言えませんが、あまり気にならない程度の消耗ですね。多分1日中発動していても平気だと思います。戦闘にもほとんど影響は無いと思います」
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