聖女

第46話 キツネ狩り

「おはようございます」


まずは自分たちが強くなることと、この世界の常識を手に入れることに決めたあたし達は翌朝いつもより早い時間に朝食を済ませてハンターギルドに足を向けたの。だって強くなるにしても生活費は必要だもの。そう、お金大事。


「私達が受けられる依頼は何かあるかな」


あたし達が向かったのは採集・討伐・素材回収の依頼が貼り付けられた掲示板。この辺りは異世界あるあるのテンプレみたいね。

でも、問題なのは


「マッドボアーの素材回収。20万スクルド?」

「こっちはベイドウィード。1袋7000スクルド」

「ねえ、瑶さん」

「朝未が言いたい事は分かるよ」

「ですよね」


翻訳の結界のおかげで言葉は分かるし、文字も読めるのだけど、そもそも書いてある対象が何なのか分からないと依頼を受けてもターゲットが分からないじゃないの。


あ、瑶さんが受付に向かって行ったわ。


「すみません。討伐や採集に関する資料ってありませんか?」

「はい、ありますよ。ただギルド会員専用です。ご利用の場合はギルド証を確認させていただきます。利用料金は1人1日1000スクルド。メモ用の羊皮紙は1枚200スクルドとなります。また資料を破損させた場合は補修費用の実費と罰金5万スクルドが掛かりますのでご注意ください。もし破損している資料を発見した場合は、そのまま安置し受付にご連絡ください。放置されますとあなた方が破損させたとされる場合もありますので特にご注意ください」


うわあ、厳しいわね。やっぱりこの世界ではこの手の物は貴重品なんでしょうね。


「はい、では利用は2人。それと羊皮紙とりあえず20枚ください」

「はい、合わせて6000スクルドになります」


6000スクルドを支払って代わりに渡されたのは入室許可証と大体A4サイズくらいの羊皮紙。A4用紙1枚400円って思うととんでもなく高いと思うのだけど、それが皮って思うと微妙ね。


「こちらです。先ほども言いましたが、資料は丁寧に扱ってくださいね。では、わたしはこれで失礼します。何かありましたら、受付で承ります」


案内された資料室には大きな机と本棚が……ちっさい。厚さ5センチくらいの本が20冊くらいと1冊薄いのがあるわね。これで資料室の利用料1人2000円ってさすがに暴利じゃないかしらね。


「魔物辞典が初級・中級・上級に特別編、こっちは、お、基礎魔法理論、地属性魔法書、水属性魔法書、火属性魔法書、風属性魔法書、闇属性魔法書、聖属性魔法書、属性魔法書は初級と中級が1冊ずつか、上級は無いんだな。それと薬草辞典だけど、これは薄いな」


多少の愚痴をこぼしながらもあたし達はすぐに知りたい情報を優先的に調べて羊皮紙にメモを取っていったの。途中で羊皮紙を追加して1日で50枚くらい写し取ってクタクタになってしまったわ。


「とりあえず、最低限の情報は手にいれられたね。あしたからハンターとして活動開始かな」


瑶さんの言葉にあたしもそっと頷いたの。



次の日、あたしと瑶さんはエルリックから街道を南へ2時間、そこから街道を外れて入って1時間ほどの森の中で慎重に足を進めているの。


「日帰り出来る範囲で出来るだけ稼げる場所で狩りを」


という瑶さんの方針で、ここに来たの。狙うのはスリーテールフォックス。常設依頼で1頭あたりの標準報酬が6万スクルド。50センチくらいの大きさで2本から5本の尻尾がある狐で尻尾が多いほど高いらしいのよね。注意するのは爪にも牙にも毒があって引っかかれたり嚙みつかれたりして毒を受けないようにすることね。あとギルドの資料では藪に潜んで人が近くを通ると襲い掛かるって書いてあったわ。でも、今の季節(春)だと体毛の色が紛れきれずによく見れば分かるそうなの。


「朝未、あれだろう」

「あ、そうね。緑の藪の下に茶色い毛並みが見えますね」


100メートルくらい先の藪の中で尻尾が揺れているわ。


「50メートルくらいまで近づいてあたしが弓で射ます」

「うん、私は風下から近づくから20メートルくらいまで近づいたところで1射目を頼むね。そこからは臨機応変に」


あたしが頷くと、瑶さんは少し遠回りして風下に周ったわ。

少しずつ慎重に距離を詰める瑶さんを気にしながらあたしも、そっと距離を詰めた。

あたしが50メートルくらいまで距離を詰めて、弓を準備済ませると。ちょうど瑶さんが風下20メートルくらいについてあたしに視線を向けて手で合図をくれたわ。


あたしは深呼吸を1つして弓を引き絞り藪と草に僅かに隠れたスリーテールフォックスの頭を狙って”今”

あたしが矢を放った次の瞬間瑶さんが剣を手に距離を詰め、でもその剣は振るわれることなく鞘に収まったの。


「相変わらず、いや、弓を新しくして更に朝未の弓は凄くなったな」

「瑶さんがいてくれて安心して集中できるからですよ」


あたしが近寄ると既に4本の尻尾を持つ狐の解体を始めていた瑶さんが褒めてくれたわ。でも本当にあたし1人だったらここまで集中して狙えないものね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る