第38話 街歩き①

エルリックで近づいてはいけないエリアを説明してもらった後、ミーガンさんにエルリックと言う街の大雑把な説明を聞いたの。

街の中央にある領主様の屋敷を含む行政区。その周りの富裕層の居住区。南側の区画が商店などの集まる商業区、西側が職人の工房の集まる職人街、東側が飲食店の多い飲食店街、北側は傭兵ギルドやハンターギルドがあり、その関係の店が集まるハンター・傭兵区。そして傭兵ギルドやハンターギルドがある関係で物騒な人たちが北門の近くに集落をつくっているということらしいのよね。

そして、お店は中央に近いほど高級な傾向があるそうなの。

そして何故か北西のエリアにはあたし達は行かない方が良いって言われたの。ミーガンさんが瑶さんに軽く目配せしてたから瑶さんは理由も察しているかしらね。


説明が終わると、ミーガンさんはしばらく商談が立て込んでいるとかで、あたし達と一緒に行動できないって何度も謝っていたわね。お仕事なんだから優先するのは当たり前だと思うのだけど。


「朝未。どこから行きたい?」

「え、あたしが決めていいの?」

「必要な買い物は終わってるし。特に目的があるわけでもないしね。この世界に来てから朝未もストレス溜まってるでしょ。少しは気晴らししよう」


あら、やっぱり瑶さん優しいわね。


「ありがとうございます。そうですね。現代日本ならウィンドウショッピングを楽しみたいところですけど。この世界のお店ってどんな感じなんでしょうね」

「うーん、私の予想だと、例えば衣類は富裕層以外は古着を着まわす感じかな。富裕層はオーダーメイドの服を出入りの業者に作らせる。だから新品の吊るしの既製服は無いか限定される感じじゃないかな。まあ、あくまでも地球の過去と同じような感じになっていればだけどね」


「カフェとかありそうですか?やっぱりトレトゥールくらいまでですかね?」

「お、朝未はトレトゥールを知ってるんだ。あまり知られていない知識だと思うんだけど」

「ふふ、以前読んだ中世ヨーロッパを舞台にした小説の中で出て来たんです。それをどんなお店かなって気になって調べて知ったんです」


「でも、日本だと茶屋の時代なんだよね」

「茶屋、ですか。あの時代劇なんかで出てくる簡単な椅子があってお菓子とお茶を食べながら休憩する?」

「そう、その茶屋。時代によって多少の違いはあるけどね。この世界だと魔物が襲ってくるようだから街道茶屋は無さそうだけど、街中はどうかな」


うーん、それでも女の子としてはファッションに興味があるのよね。あとはこの世界にも一応お菓子があることは分かったので普通に手に入るお菓子がどんなのかにも……。


「その、この世界のファッションに興味があるので最初は服屋さん見たいです。ミーガンさんが何着か準備してくれるって言っていたので買わなくてもいいですけど」

「うん、朝未も女の子だね。よし、じゃあまずは商業区でブラブラしながら見て回ろう」


ふふふ、異世界のファッション楽しみね。


「あ、瑶さん、出かけるときって荷物は置いていって良いのよね」

「そうだね。基本的に荷物は宿の部屋に置いておいて大丈夫らしい。このあたりは宿のグレードにもよるそうだけど。ミーガンさんも商人だからね。そういうところに気を使って宿を選んでいるって言ってたよ。それでも日本から持ち込んだ物と護身用の短剣。それと現金は持っていった方がいいだろうけどね」


あら、瑶さんってばいつの間にかミーガンさんからそんな情報を聞き出していたのね。


「えーと、そうすると。バッグにこの辺りの物を入れて。短剣を腰に付けていけば良いかしらね」


日本だったら銃刀法違反で捕まっちゃうところね。


「うん、それで良いと思う。じゃ支度をして出かけようか」



そうしてあたし達は出かけたのだけど、瑶さんの予想通りなのね。普段使いの消耗品とか食料品は表から見えるように並べて売っているお店もあるけど、服を売っている店は見当たらないわね。


「庶民用の服はああいった店じゃないかな?」


しばらく見て回ったところで瑶さんが指さしたのは、ちょっと古ぼけた感じのお店。

あ、確かに表に服の絵が書いてあるわね。


「ちょっと入りにくいですね」

「ん、多分大丈夫だと思うよ。売っているのは古着だとは思うけど、あまりしつこくしなければ」


はい、入りましたとも。あたしも女の子ですから。


「こんにちは。見せてもらっても良いですか?」

「ああ、勝手に見な。ただし破いたり汚したりしたなら買い取ってもらうからね」


ちょっと不愛想なおばさんに確認をとって見て回ってるのだけど。

がっかりしてしまったわ。だって古着なのは分かるけど、破れに当て布さえしてないのだもの。破れていないものも向こうが透けてしまいそうなくらいまで着古してあるし、あたしはこれを着て外を歩く勇気ないわね。


「お邪魔しました」


一応挨拶だけはね、しておかないとね。どんな時に別のことでもお世話になるか分からないもの。


「ああ、何かあったらまた来な」


瑶さんに首を振ってみせて店を出ることにしたの。


「あれが庶民の普通?」

「いや、さすがに予想以上だったね。あれは多分最終処分的なのじゃないかな」


瑶さんも苦笑いしてるわね。


「さ、気を取り直して別のお店もみてまわりましょ」

「はいはい、お姫様。お望みのままに」


瑶さんがふざけているけど、1軒くらい楽しめるお店があると良いなあ。

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