第23話 門

しばらく目を瞑って瑶さんは考えをまとめていたようね。目を開くとミーガンさんに質問を始めたわ。


「私達は、この国について何も知りません。そこで教えていただけると助かるのですが、異国からの来訪者がこの国で生活をする方法、言い換えればお金を稼ぐ方法はどのようなものがありますか?」


瑶さんの直接的な言い方にミーガンさんが目を見張り、エルリさんは何か言いたいみたいね。でもミーガンさんが止めたわね。


「そうですね。特に珍しいものは無いとは思いますが、いくつかあります」


そう言うとミーガンさんは、例を出しながら説明してくれたのよね。


ひとつめ。

どうにかして、街の人とつながりを持って、普通に店や工房で働く。

普通の生活が出来るようになるわね。

ただ、どうやってつながりを持つかという最初の部分が難しいし、人を探している職場を見つけることも難しいということね。そもそもがこの世界の職場では基本が縁故採用だそうなので異世界人のあたし達にはほぼ無理ね。


ふたつめ。

傭兵ギルドに登録して、傭兵として働く。依頼によって害獣駆除から護衛まで戦闘関係なら何でも請け負うということね。傭兵ギルドへの登録費用なしで、斡旋された仕事で仲介手数料を取られるということね。

ミーガンさんが言うにはあたし達の実力は2人合わせれば、普通の傭兵10人分にはなりそうだそう。

でも、都市外に出ることが多いそうなので言葉の問題がネックよね。


みっつめ。

商業ギルドに登録して商人として物を売り買いする。登録費用が1万スクルド、そして年会費が店舗の規模によって1万から100万スクルド。登録後にもお金がいるのね。

しかもどうやら、この世界では商売をするには行商や露店であっても商業ギルドに登録しないといけないらしいのよね。そしてこの中には日本でいうところの仲卸のようなものも含まれるようで、あるお店で仕入れて別のお店に卸すのも商業ギルドに登録している必要があるそうなの。

でも登録程度だけならともかく、商品の仕入れや、輸送用の馬車、売る場所の保証金なんかの初期費用が必要になるので、この世界のお金を全く持っていない今のあたし達にはちょっとハードル高いわね。

そもそも、言葉が通じないから街の外での仕入れも出来ないのもマイナス要因よね。それに街から街を移動して仕入れと販売をするとなると魔獣や盗賊に襲われるリスクも大きいとのこと。あたし達なら襲われても返り討ちに出来ると思うと言われたけれど。


よっつめ。

ハンターギルドに登録して、ハンターとして狩猟や採集をして素材としてお金に変えるということらしいわね。動物や魔獣を狩ってお金を稼ぐ日本のラノベでいう冒険者が一番近そう。

ミーガンさんの見立てではあたし達なら十分に稼げそうだと言われたわ。

ただし、ほぼ常に街の外で活動するので強い魔獣や盗賊などに襲われる危険が大きいと言われたわ。


「わたしとしましては、瑶様、朝未様であるならばハンターが一番活躍できるのではないかと思います。何にしてもワイルドウルフの群れから救っていただいたお礼も兼ねて、わたしたちがこの街にいる間はせめてお世話させてください。エルリックは何度も来ていますので詳しいですから街の案内もできます。ギルドへの登録のお手伝いもさせていただきますよ。っと、そろそろ私たちの順番ですね。街にはいるのに門で簡単なチェックがありますが、身分証明書などはお持ちではないでしょう。そのあたりうまくやりますからお任せください」


そう言ってミーガンさんは、片目を瞑って見せたわ。あら、この世界でもウィンクってあるのね。そしてさりげないウィンクが似合うミーガンさんは、大人の魅力だわね。あれ、大人よね。護衛付きとは言え街から街へ行商に回っているのに子供って事は無いわよね。というかこの世界の成人年齢って何歳かしら。


あ、もうミーガンさん、門の衛兵と話を始めたわね。


「行商人のミーガンです。これがギルド証です」

「ふむ、事前の届け出には従者1人と護衛の傭兵が4人となっているが」


衛兵があたしと瑶さんに目を向け眉間にしわを寄せているじゃない。そりゃああたし達は護衛には見えないでしょうからね。


「街道でワイルドウルフの群れに襲われましてね。そこで護衛の4人は……」


そう言ってミーガンさんは首を横に振ってため息をついて見せてるわ。あれ多分演技よね。

あ、衛兵は同情的な顔に変わってしまったわ。


「そこで、わたしどもももうこれまでと覚悟を決めたところに、あのお2人が現れて、助けていただいたのです。それはもう、あれよあれよという間に討伐され、10頭近いワイルドウルフが討伐されるのに5分とかかりませんでしたわ。そんな恩人ですが聞けば山で道を迷われ身分証も失ったとの事でせめてもの恩返しにとお世話をさせていただこうとお連れしたのです。ダメでしょうか?」


いや、これダメって言ったらとんでもない冷酷な人間ってことになっちゃうのではないかしら?


「うう、わかりました。そういった事情であれば。身分証や審査は結構です。しかし、保証金として1万スクルドをお支払いいただく必要があります」

「ああ、それはかまいませんよ。そのくらいわたしがお支払いしますとも」


大きなもめごとになることなく、あたし達はベルカツベ王国ヴァンキャンプ辺境伯領領都エルリックに入ることができたのよね。


「ヨウ様、朝未様。わたしはこれから傭兵ギルドと商業ギルドに到着の連絡と、護衛の傭兵の死亡報告をしに行かないといけません。その際に少し事情聴取があると思うのでご協力お願いできますか?」

「その程度はもちろん協力させてもらいますとも」

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