第11話 手当
あたし達は初めての戦闘のあと、急いでその場所を離れたわ。
ただ、情けない事にあたしは足を怪我してしまったから、またしても影井さんに背負われての移動なのよね。申し訳ないわ。何か役に立てるといいのだけど。
そしてふと見ると影井さんの頬にいくつかのひっかき傷があるのが見えたの。そうよ、影井さんは、あたしをかばって1人で3羽のウサギと戦ったのじゃない。
「影井さん。あのケガをしてますよね。手当をしないと」
あたしの言葉に影井さんは首をまわしてチラリとあたしを見ると
「ありがとう。でももう少し先まで行ってからにするよ。ここだと多分まだあの場所が近すぎると思うから」
そう言うと、また黙々と足を動かし始めたわ。い、痛くないのかしら。それに野生動物に引っかかれた時にはたしか早めに傷口を洗わないといけないって何かの本に書いてあった気がするわ。
1時間ほど移動したかしら、影井さんが足を止めてキョロキョロと周囲を見回しはじめたわ。
「影井さん?」
あたしが疑問をくちにしたのが聞こえたのね、あたしに意識を向けてくれたわ。
「ああ、華さん。ごめんね。今日は、この辺りで野営にしようと思ってね。ちょっと周りの様子を見てたんだ」
そういう事ね、でもそれなら
「影井さん、距離はもう良いって事ですよね。なら先にすることがあるんじゃないですか」
「先にすること?ああ、ごめんね、おぶわれたままは嫌だよね」
そう言ってあたしをそっと降ろしてくれたけど
「そうじゃないです。いえ、それもですけど。あ、いえ、影井さんにおぶわれるのは別に嫌ではないです。少し恥ずかしいだけで。って違う。それよりも傷を見せてください」
前に周って確認すると頬に傷があるだけでなく、あちこち服が切り裂かれているわね。あのウサギの歯は随分と切れ味が良かったようだわ。他にも手足に巻いてあった竹もだいぶ拉げているじゃないの。あれだけでも随分と違ったでしょう。でも今はそれよりも少しでも治療をしないと。
「影井さん。上着を脱いでください。あ、水と傷薬、それと綺麗な布かガーゼとタオル、あとできればサージカルテープはありますか?」
「ああ、リュックの中に入っているよ。化膿止めの軟膏も一緒に入ってる。でも、ちょっと意外だな」
リュックを下ろし中を探すあたしの後ろから聞こえた影井さんの声にあたしも疑問を感じてしまったわ。
「意外、ですか?」
「ああ、そうだね。インドア派で文芸部の女の子がこういった傷の治療方法を知っているって不思議な感じだよ」
「あたしは、本を片っ端から読んでましたから。その中で知識だけは色々とですね。知識だけで実践はからっきしですけど。だから上手に出来ないのは我慢してくださいね」
あたしは、上着を脱いだ影井さんの傷をボトルに入っていた水で丁寧に洗う、中にはちょっと”うっ”ってなるような傷もあったけど、時々傷に入り込んだ汚れを掻きだすようにしながらひとつひとつを汚れをあらいながした。
キレイになったところでタオルで水を拭き取って軟膏を塗っていく。さいごに傷の上にガーゼをテープで貼って完成。”あ、そうだ”あたしは影井さんがあたしの足の手当てをしてくれた時の事を思い出して、”早く治りますように”と思いながらそっとガーゼの上から手を当てたわ。
きっと日本でなら、あたし自身でも笑っちゃうくらい真剣に。手をあてているとひんやりしていたガーゼがほんのり温かくなる。そうしたら次の場所に手を当てて”早く治りますように”全部の傷に手を当て終わったところで、影井さんにシャツを渡そうとしてちょっと躊躇してしまったわ。だって破れてるしよごれているんだもの。
「影井さん。着替えはありますか?怪我している状態ではキレイなシャツにしたほうが良いと思うので」
「ああ、大丈夫。リュックの中に何枚か入れてきてるよ。華さんもサイズは合わないと思うけど、今日は無理でも水場が使えるようになったら自分の服を洗ってる間なんかには着替えが欲しいだろうから使っていいからね」
そう言うと影井さんは自分でリュックの中からシャツを取り出して着ちゃったわ。まあさすがに、あたしが着替えさせてあげるのは変だから手を出すのは控えたのよね。
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