第9話 戦闘開始

「ねえ、影井さん。ウサギって人を襲うのかしら?」


あたしの勘違いでなければウサギは草食だったと思うのだけど。


「地球のウサギは草食だから基本的に人を襲うことは無いけど。ここのウサギはどうかな?」


そう言うと影井さんは、そろりそろりとその巨大ウサギから距離をとるように動き始めたわね。あたしは言われたように影井さんの後ろになるようについていくしかないわ。


影井さんは、このウサギをどうする気かしら。


そんな事を考えていたら、影井さんが突然動いたわ。見るとウサギがあたし達に飛び掛かろうとしたようね。この世界のウサギは人を襲うってことね。それを出足をくじく形で影井さんが竹やりを突き出したのね。どうも逃がしてくれる雰囲気ではないわね。となればあたしも竹やりを振り回す心の準備をしておかないといけないかしら。


影井さんは竹やりで突いたり払ったり。ちょっとこの人本当に現代日本人かしら?

影井さんの動きはびっくりするほどだけど、巨大ウサギが3羽ではちょっと止めきれなかったみたいで、1羽が影井さんの竹やりのスキをぬって後ろにきちゃった。となればこれはなんとかあたしが竹やりを振り回して追い払うしかないのよね。

あたしが覚悟を決めて深呼吸をしたところで


「ギュギュギィガァアアア」


ハッと見たら影井さんの竹やりが1羽のウサギに深く突き刺さっているのがみえた。でも、その竹やりは深く突き刺さりすぎて簡単に抜けないみたいだわ。あ、影井さんが竹やりを諦めて手を離した。チラリとこちらを見た影井さんはベルトに差してあった細くて短い竹やりのミニチュアみたいなものを両手にとったわ。


「華さん、悪い。後ろに1羽抜けさせてしまった。さっきも言ったけど、無理に戦わなくていい。竹やりを振り回して牽制だけして。どうしても危なそうならあっちに逃げてもいいから」


そう言うと影井さんはウサギに向かって駆けだしていったわね。えっと、この場合あたしは影井さんの後ろについていったほうがいいのかしら?


ああ、もう、考えてる暇もないわね。影井さんがどんどんウサギに向かって行ってしまうわ。いいわもう、どのみち影井さんと離れたらあたしは生き延びられそうもないものね。影井さんの後ろについていってあたしはいつの間にか影井さんの背中に背中を合わせていたわ。


「な、華さん。なぜ逃げない」


影井さんの責めるような言葉だけど、逃げられるわけないわ。


「あんな、ウサギからあたしが逃げられるわけないじゃないですか。守ってくださいよ」


あたしが言うと、影井さんはふっと雰囲気をやわらげたわね。


「わかった。私の後ろに張り付いていなさい。決して離れないように。あと後ろのウサギには槍を振り回して近寄らせないようにそれだけ頑張って」


そういうとたった30センチの竹やりのようなものを両手に影井さんはウサギに向かったわ。あんな短い武器ではウサギの前脚や口での攻撃をよけるのも大変なはずよね。そう考えたところで気づいたわ。あたしの背負っているリュックの横にもう1本あるじゃないの。


あたしは後ろを向く余裕もリュックを下ろす余裕もないけれど、あたしの方に向いているウサギが少し距離をとった時にならなんとか取れるんじゃないかしら。そんなことを考えていたら、ウサギが後ろを向いたわ。あたしはサッと右手をリュックの横に括り付けてある竹やりに伸ばして”エイッ”と力を入れて引ぱった。あら、わりと簡単に抜けたわ。あとは影井さんに手渡せばいいのよね。


あたしは目の前のウサギに集中して、竹やりを右に左に振り回す。でもこれ、さっきまでは両手で振り回していたのを片手にしたからちょっと辛いわ。徐々に息が上がってきているのよ。早くチャンス来ないかしら。

あ、うさぎが何かに気をとられたわ。今ならこの竹やりを影井さんに渡せる。


「か、影井さん。これを使って……。」


息切れで普段でも小さいあたしの声が更に小さい。でも影井さんには聞こえたはず。あたしが伸ばした手から竹やりを受け取ってくれたもの。あとはあたしは、この手に残ったあと1本の竹やりを振り回していれば……。

あ、視線を戻したあたしの前にウサギが……。ダメ、あたしは目を瞑ってしまった。

”ドン”衝撃にあたしは吹き飛ばされた。

「華さん」

影井さんの驚いた声が聞こえた気がしたけれど、”うう、痛い”槍を両手で抱えていたのと、影井さんの作ってくれた竹の防具のおかげでそれでもどうにか打撲くらいだけで済んだみたい。そう思って立ち上がろうとしたら


「うくぅ」


足首を捻ったみたいね。これじゃ影井さんの後ろについていくのも難しいわ。そういえばあたしに体当たりしてきたウサギはどうしたのかしら?それに影井さんは?


あたしがなんとか立ち上がって周りを見回すと竹やりが刺さったまま動かないウサギが2羽、そして短い竹やりを両手に持って最後のウサギとやり合っている影井さん。よく見ると影井さん、何か所かケガをしているじゃないの。あたしが油断したせい?それでもせめてあたしが持っていた竹やりを渡そうと思って確認したら、あたしの竹やりは見るも無残につぶれていたわ。ウサギに吹き飛ばされたときにやられたのね。となれば……


あたしは、そっと這うように少し離れたところに倒れて動かないウサギに近づいていった。

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