オルタナティブソード

アカツキ

第1話 夢の世界

ユウリは夢を見ていた。

ユウリが見ていた夢はここよりもはるかに遠い世界での物語……

その世界はここでは無いような幻想的な世界がどこまでも広がっている。

そこでは現実と同じように人間などの生き物がs生活をしている……

だがしかしこんな世界も必ず終わりが訪れる……

永遠に続く夢というのはどこにも存在せず、いつか人の記憶から消えてやがてその世界は消滅してしまう。

だから今から話すこの物語もいつかは消えてしまうだろう……

けれども君に話しておこうと思ったよ。

永遠ではないけれどもとても長い物語を……



ユウリは自分の寝室のベッドで目を覚ました。

ユウリの目にはいつもと変わらない木でできた天井がある

ユウリはベッドから起き上がると同時にふとある違和感に気づく……

いつもなら外から聞こえてくる市場にいる人たちの声が聞こえてこない。

ユウリはカーテンの隙間から微かに光が差し込んでくる窓に近づきカーテンを開けて窓の外を眺めてみる。

今ユウリがいる寝室は市場から見れば二階ぐらいの高さにあって窓から市場を見下ろせるようになっている。

その市場にはまだ人が集まっておらず店の人が開店準備を始めているのが見える。

ユウリはどうやらいつも起きている時間より早い時間に起きてしまったらしい。

部屋にある時計を見ても時刻は【朝の一刻】を指していた

普段から起きる時間は【朝の二刻】になると市場に集まって来た人達の賑わい出してそれで起きる。

早起きできない自分にとっては珍しいなと思いながらもいつもより早く起きてやることがないのでとりあえずユウリは顔を洗うため洗面台に向かった。

ユウリは洗面台の前に立ち蛇口をひねろうとした手を一瞬止めた……

ユウリが見ている鏡の自分の目の下に涙の跡が残っていた。

昨日何か悲しいことでもあったのかと思い返してみてもなぜか記憶に靄がかかっているかのように昨日のことが思い出せない……

まあそんな深く考えていてもしょうがないのでユウリは気にすることなくすぐに蛇口をひねり顔を洗った。

ユウリはタオルで顔を拭くと鏡を見る、ふと鏡に映る自分の背後にあるカレンダーに目が行く。

振り返りカレンダーを見ると月終わりの週初めに「トーナメント 予選日」と書かれていた。


「今から特にやることないし、演習場で型の訓練でもするか」


そういうとユウリはクローゼットにかけてある騎士見習いの制服とアカデミーを卒業した記念に贈呈された剣を持ち水筒などの荷物をまとめて玄関に向かいまだ騎士見習いになってからそんなに履いていない革靴を履いてドアを開ける。

ユウリは行ってきますと言って宿を出てすぐ横の市場に続く階段を駆け下りていった

ユウリはこの時、今日が特別な日になるとは思ってもいなかっただろう。


ユウリは階段を下りて路地から市場がある大通りに出る途中に背後から声をかけられた。


「おっユウリ!こんな時間に会うなんて珍しいな」


うしろを振り返ると親友の≪アキラ≫が手を振っていた。


「おはよう!アキラ今日はなんかいつもより早く起きちゃったからトーナメントももうすぐだし演習場で訓練しようかなって思っててさ」


アキラと一緒に路地から大通りに出るここからだとさっきここを見ていた自室の窓が見える位置にいる


「そういえばもうこの時期はトーナメントに向けていろんな人が演習場に来るんだっけ、俺たち【センス0】は権力ないしなかなか使えなくなるよな」


トーナメントの時期が近づくと多くの人が演習場で訓練をするために集まってくるため俺たちが使えるようになるのはこの時間から行くしかない。


「俺も言って相手になってあげたいけどゴメン、今日は早く農場に行かないといけなくてさ」


アキラが手を合わせて謝ってきたがもう農場の仕事上忙しいのは重々承知なので仕方がない。


「いや、毎度だけどしょうがないよ仕事終わりにたまに来てくれるだけで十分嬉しいよ!」


アキラとはたまに仕事終わりに剣術の相手をしてもらっている。演習場はいつも人がいて使えないが演習場から離れた場所にある広い草原で打ち合っている

ユウリは騎士として剣術を訓練しているがアキラは俺のために相手をしてもらっている感じだ。


「そういえばさっき来る途中噂に聞いたんだけど今朝ここ【シリウス領】で

ベテルギウスさんを見たって聞いたんだよ。もしここにいる用が領土間の事だったら城でもしかしたら会えるんじゃねえの?」


それを聞いてユウリは驚いた。

ベテルギウスさんとはユウリとアキラが幼少の頃から俺たちに剣術を教えてくれた人で剣術の基礎である≪スタンス≫の構えや剣の振り方をアカデミー卒業までの間に教えてもらった。

今となってはベテルギウス領の領主に抜擢されて俺たちも仕事があり会うことが少なくなっていった。

そんな俺たちからすれば師匠とも呼べる人と久しぶりに会えるのかもしれないとのことでユウリは少し嬉しかった。


「そうかベテルギウスさんと……それにしてもおかしくないか?事前に評議会から発表も無しに……この時期的にトーナメントの事だとは思うけれども……」


「いったい何のことなんだろうな…実際に会って聞いてみないとわからないな」


そうこう話しているうちに二人は市場を抜け、噴水広場に着いた。


「よし!じゃあ俺はこっち」


アキラの仕事場は噴水広場から東に進んだ先にある農場で

ユウリは噴水広場から北にある城の近くにある演習場に向かうため、二人はいったんここで別れることになる。


「うん仕事終わったらいつもの場所で待ってるから、それじゃまた」


そういってからアキラは東、ユウリは北へ向かって歩き出した。


ユウリは噴水広場でアキラと別れてから大通りを進んでいき城まで続く橋の前にある広場まで着ていた。ユウリの仕事場はこのまま城に向かって橋を渡ることになるがユウリが向かっている演習場はこの広場を右に抜けて少し進んだところの右手側に設立されている。

普段はこの辺りは騎士の人が訓練をするために集まっているが

ユウリが演習場入口前に着くとまだ数人程度しかおらずとても静かで訓練をするにもちょうどいい環境だともいえる。

騎士を仕事にしている人は周りを細心の注意を払えば真剣を使っての訓練は可能なのだが今日は仕事前ということもあり無理をしないように訓練用の木剣を使用しようと思い木剣を保管庫に取りに行こうとしたら先客が木剣を手に取って選んでいることに気がつくとその人に見覚えがあり正体が分かった瞬間にユウリはその人の名前を呼んでいた。


「ベテルギウスさん!?」


ベテルギウスさんの見た目は白髪にひげも白く老人のような姿の人だ。

ベテルギウスさんは声をかけてきたのがユウリと気がつくと優しく礼をして返事をしてきた。


「ユウリくんですか?お久しぶりですね、ベテルギウス領にいた時よりだいぶ大人な雰囲気になりましたか?」


ベテルギウスさんの口調もあの時と何も変わっていなくて安心した。


「一、二年じゃさほど変わらないですよ…ベテルギウスさんもすぐに気づいていましたし……ところでベテルギウスさん…どうしてこんなところにいるんですか?」


ベテルギウスさんと会えたことの喜びで完全に違和感が無くなっていたがベテルギウスさんが評議会での会をすっぽかしてこんなところに来るわけもないと思っていないのでその訳が気になった。


「あぁ……今ちょうど親友が来るのを待っているところな

んですよ……それで暇をつぶしにここへ来た感じです」


親友……?


「あれっ今日って評議会があるからここに来たんじゃないんですか?」


ユウリはてっきり評議会関係でシリウス領へ赴いているのだと思い何かしらの件でここ演習場に来ているのとばかり思っていた。


「いえ、今日は親友がシリウス領に戻ってくるとのことでこちらにこっそり赴いたんですよ」


「そうだったんですね……」


ユウリの予想が外れてその場で硬直しているユウリの手に持っている木剣を見てこう言ってきた。


「ユウリくんもしこれから訓練をするようでしたら私と相手をしてもらいませんか?ユウリ君がどれくらい成長しているのか気になりまして」


ベテルギウスさんが急にそう言い出すものだから驚きはしたがユウリもそう思っていたのも事実だ。


「もちろん喜んで、こちらからお願いしようと思っていましたから」





ユウリとベテルギウスさんは互いに舞台の中心に上がり木剣を構えた。


「準備ができましたらいつでもいいですよ」


そういうとベテルギウスさんは防御の型の最高位ともいえる≪ガーディアン≫の構えを取る。

ベテルギウスさんが構えた瞬間ユウリに緊張が走る。

ユウリはそもそも戦う前からベテルギウスさんから一本取れず負けると思っていた

その理由としてベテルギウスさんはこの世界の七領土の一つベテルギウス領の領主である。

そもそもその領主になる条件が今月にあるトーナメントを優勝することと領主からの推薦で評議会で領主にふさわしい人材かどうかを審議され領主になることができる、しかし領主が希望で選抜した相手と交えることができその結果次第で領主になることができることもあるだいたいは後者になることが多いが。

さらに領主になれば領主間で行われるトーナメントにも参加することができそこで領主間での位ができる。

今の領土間の順位を見てみると首位≪シリウス≫、次位≪プロキオン≫、三位、≪アルデバラン≫、四位、≪ベテルギウス≫、五位、≪カペラ≫、六位、≪ポルックス≫、七位、≪リゲル≫となっている。

そう、これを見て言うまではないがベテルギウスさんは四位でありユウリは底辺ともいえる≪センス0≫の称号を持っている。

これがユウリが勝てないと思っている理由であるがそれでもユウリは世界で四番目に強いベテルギウスさんが俺なんかのために教えてくれたことを無駄にさせたくなかったため期待に応えたかったというのがあった。

ユウリは呼吸を整え冷静になると木剣を構えた。


「それじゃあ遠慮なくいかせてもらいますよ」


ユウリは地面を蹴りベテルギウスさんの間合いに入り込んで剣を振うがベテルギウスさんはそれを片手で持った木剣で軽々止めてくる。

力で押そうとするが重い岩に打ち付けているかのように押し込むことができない。

ユウリのスタイルは基本の型である≪スタンス≫であるがこれは基本の防御の型でありその最高位の≪ガーディアン≫とではどうしても分が悪い。

ユウリは力では無理だと判断し連撃をして隙をついて強打を打つことに切り替える。

ユウリが放つ連撃をベテルギウスさんはすべてはじき返す、ベテルギウスさんからは一向に反撃してくる気配がない。

さきほどからこちらが一方的に連撃を繰りだしているはずがベテルギウスさんの圧に押し負けこちらがじりじりと後退してしまっていて、同時に連撃を繰りだし続けないと隙が生まれるため休憩がなくスタミナも持っていかれているる。

ベテルギウスさんはユウリの疲れをすぐさま読み取るとユウリの剣の動きを予測しユウリが持つ木剣の柄の部分を自分の持つ木剣の剣先に引っ掛け目にも止まらぬ速さでユウリの手から抜き取り地面に落とさせて勝負がついた。


「これで勝負ありですかね」


ユウリは何もできなかったことを悔やみ

息を荒くしたままその場で座り込んだ。





ユウリはベテルギウスさん協力のもと舞台から降りて自宅から入れてきた水筒を取り出し一気に中の水を飲みこむ。

ユウリが休憩をしていると木剣を返しに行ってくれていたベテルギウスさんが戻ってきてユウリの隣に座る。


「それにしてもこの間にずいぶんと腕を上げましたね」


ベテルギウスさんは自分の顔を伺って励ましてくれた。

あまりにもあっけなかった試合で気分が上がらなかったが何とか振り払い話そうとした。


「それでもベテルギウスさんの足元にも及ばないですしトーナメントもこんな調子じゃまだまだですよ」


そうユウリが言うとベテルギウスさんは演習場の天井を見ながら言った。


「私はですねユウリくん……君に可能性を感じています。たとえ魔法が使えず身体強化できずとも君は自分の信じる力で私をも超える剣士になるはずです必ず……」


ベテルギウスさんは俺に剣術を教えてくれているときに何回も言っていた、剣術に魔力や魔法は関係ないと……

その言葉に何回も救われたベテルギウスさんだからこそ救われただからその気持ちに応えたいと思っていた。

だが現実はそううまくいかなかった魔法も使えずにいた……けれども信じている夢を現実にするために。

ユウリはその場で立ち上がって言った。


「ぼくはベテルギウスさんの言っていた通り自分を信じてこれからも進みます」


そのユウリの姿を見てベテルギウスさんは安心したのか少し笑い立ち上がった。


「さてと、私はそろそろ客を出迎えに城に戻ることにしますがユウリくんはどうします?」


ベテルギウスさんがそういうのを聞いて少しユウリは疑問に思っていたことを聞く。


「そういえば、ベテルギウスさんが待っているって【親友】っていったい誰なんです?」


「そういえば言ってなかったでしたねその人はですね……」





その男はシリウス領の全貌が見える丘に来てシリウス領を眺めていた。

「ふぅ~…ようやく帰ってこれたか」

その男の着ている服には【一等星】のしるしである紋章があった。この一等星の印は代々領土間のトーナメントの優勝者に捧げられるものでありこの者こそシリウス領の領主であり【世界最強の剣士】の称号を持つものである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る