第9ステージ おうち探しは掛け違い!?②
今までは気にしなかった、街中の不動産の「〇DK、〇万円」「徒歩〇分」など書かれた物件情報、図面がやたら目に入るようになった。
大学3年生になって、一人暮らし。
唯奈さまのライブばかりを考えていた自分だったが、そればかりではいけなくなった。いつまでも子供ではいられない、と現実を突きつけられたようだ。まだ社会人になっていないのに、社会の過酷さを勝手に味わっている気分になる。
「……恵まれていたんだな」
オタクライフを何も考えずに満喫できるくらいに、俺は恵まれていた。バイトもしていたが、それは趣味のためだ。学費も、家も、食事も、家事も家族に甘えっぱなしだった。時間を、お金を全力で注げたのは家族のおかげだ。
社会人になってオタクを続けるのって大変なのだろう。仕事を始めて、オタクをやめた人の話はよく聞く。仕事に、家庭。人生の節目で、生活が変わっていくのだ。
同じことはありえない。
「あ、あずみちゃんがもういる」
待ち合わせ場所に向かうと、まだ待ち合わせ時間の5分前だったが、すでにあずみちゃんがいた。ライブじゃないからか、春っぽいワンピースだ。彼女だけ、明るく見えるのはきっと俺の目にカメラフィルターがかかっているからだろう。
今日は、俺の物件探しのお手伝いだ。
「ごめん、待たせちゃったね」
「ハレさん! いえいえ、今来たばかりです」
もっと早くに来ていそうな返答だ。
あずみちゃんに会って早速だが、聞いてみたくなった。
「あずみちゃんってさ」
さっきまで将来のことを考えて、ちょっとセンチメンタルな気持ちになっていた。ふとした興味で、あずみちゃんはどうなのかなと軽い気持ちで質問したのだ。
「将来のこと、考えている?」
「えっ!?」
大きな声で驚き、そして石化した。そんなに驚くことだろうか。
「え? 変な質問だったかな」
「待って、早いですよハレさん! 私たちの将来のことって!」
「ちがーう! 将来って就職とかそういうこと!」
今日も相変わらずなあずみちゃんで、俺は安心するのであった。
× × ×
賃貸を探すにあたり、まずはWEBサイト見た。が、図面、写真を見ただけではよくわからなかった。WEBで見ても、実際に現地で見てみなければわからないこともあるだろう。
なので、手っ取り早く駅近くに構える不動産を訪れ、聞いてみることにした。
「初めての賃貸探しなんです」
俺とあずみちゃんの前に、俺たちとさほど年齢が変わらなそうな見た目のお姉さんが座り、まずは条件確認となった。
「弊社に来ていただき、ありがとうございます。今回はお二人で住むお家ですか?」
訪れたのがひとりでなく、あずみちゃんも一緒だから勘違いされたのだろう。
俺が口を開く前に、あずみちゃんが答えた。
「はい、同棲を始めるにあたって、新居を探しているんです」
「同居しないよ!? 俺の一人暮らしだよ!?」
いきなり嘘をつくでない! 正面のお姉さんも困惑しながら、返してくる。
「仲良しなカップルさんですね。付き合って長いんですか?」
「いえ、違いますよ!?」
お姉さんの悪ノリか? と思ったが、勘違いかもしれない。
今日の格好はあずみちゃんから指定がなかったので、福岡に行った時のような女の子らしい服装ではない。いつものボーイッシュといえば聞こえがいいが、ジーパンに上はパーカーなラフな格好だ。ぱっと見、男子。
だから、カップルに見られたのかもしれないと言い訳を心の中で並べる。
「このカップル割が気になります!」
「気にならないで! 話が進まない!」
あずみちゃんを連れてきたのはミスだったかと早くも後悔しだす。
話をしていても進まないとお姉さんも思ったのだろう。アンケート用紙に記入することになった。予算、広さ、そのほかの条件。実際に探したことがないので、どれぐらいが相場か、どれぐらい広いと不便無いのか、などわからない。親からはだいたいこれぐらいの家賃ならOKと言われているが、果たしてその金額で適切か判断できない。
わからないなりに書いて、お姉さんに提出する。
「住むのにこだわりはありますか」
空白が多くて困ったのだろう、お姉さんが質問してきた。
「ないです」
が、俺は即答だ。けど、それに反論したのはあずみちゃんだった。
「ハレさん、こだわりを持ってください! 女の子の一人暮らしなんですよ。できるだけオートロックに、1階はNGで2階以上は絶対。もちろん駅からの近さ、アクセスの良さも重要です」
「でも、どれも高くなる要素だよね?」
「高くても、安全第一です! ハレさんは自覚してください!」
すごい圧だ。けど、そういった情報が知りたかった。勉強になる。
「唯奈さまがオートロックもない、外から簡単に見える1階、洗濯物が干しづらい1階だと嫌でしょ?」
なるほど、唯奈さまに置き換えればいいのか。
「高層ビルの屋上階、ベランダからはレインボーブリッジや夜景が見えて……」
「そういうことじゃ、ありません!」
「そうだな。意外と狭い家に、散らかった部屋に住んでいる唯奈さまもいいかもしれない。狭い湯舟に体育座りする唯奈さま。うん、ギャップだよな!」
「ギャップだよな、じゃないですよ! 笑顔で言わないでください!」
例えが悪かった。唯奈さまならどんな場所でも似合うし、合っていなくてもギャップ最高と昇華できてしまう。推しには盲目、とよく言ったものだ。
「まずは見てみるのが、いいかもしれませんね」
お姉さんにまずは色々な家を内見してみましょうと、提案された。
話していては埒が明かない。有能なお姉さんだ。このお店で選ぼうと、勝手に決心したのであった。
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