魔力回復薬を作ろう!

 はい、では大人しく魔力回復薬を作るとしましょう。

 まずは、魔力草の根についている魔力のあるコブ――魔コブ(俺命名クソダサネーム)を取ってみよう。

 そう思い、魔コブに触れた瞬間――。


「んっ」

「どうしたんですか、オールディさん!?」

「……いえ、ちょっとムズムズとしただけです」


 何だろう、触れた瞬間にむず痒い感じが……。

 まあいい、とにかくちょっとかじってみるか。もしかしたら、このまま食べるだけでも魔力回復薬として使えるかもしれないし。いやまあ、持った感じで既にかなり固いし、口にする前から苦そうな感じがあるけど……ええい、ままよ!


「固っ、ピリっ!」


 そんな謎の奇声をあげながら、思わず魔コブを取り落としてしまう。

 固くて全然噛みちぎれないし、なんかエグミがすごいし、口の中がピリピリするんだけどぉっ!?


「オールディさん、手が腫れてますよ!?」

「うわぁっ、真っ赤だニャー!?」


 ココネルさん達の慌てた声に、魔コブを持っていた手を見てみる。

 ああ……腫れるっていうか、見事にかぶれちゃってるなコレ。道理でムズムズするわけだ。いやあ、ゲームでこんな状態異常あるんだね。おじさんびっくり。


「ど、毒がありましたか!? はやく治療を!」

「お医者様ーっ!? お医者様はいませんかニャー!?」

「2人とも、落ち着いてください。こんな時はポーションを使えば……あ、今日は上級ポーションじゃないとダメか」


 この程度なら、慌てず騒がずポーションで即回復。リアルの体でもないし、落ち着いて対処すればどうって事はない。

 インベントリから上級ポーションを取り出し、手に少量かける。すると見る見るうちに、手のかぶれは治まった。


「はい、この通りです」

「わー、ポーションってすごいニャー!」

「は〜、良かった〜。あれ、でも何で上級ポーションを使ったんですか? 上級って魔法使いの方向けじゃなかったですっけ?」


 ああ、それね。上級ポーションが魔法使い向けってのは、間違ってはいないが正確でもない。


「正確には、上級ポーションは魔力を使い果たしている人向けのポーションなんですよ。だから、魔法使いでも魔力が残ってるうちは初級か中級で良いし、逆に魔法使いじゃなくても魔力が残っていなければ、上級ポーションじゃないと効果が無いんです」


 今日の俺の魔力は、上級ポーション作りで使い果たしてあるからな。初級・中級ポーションをかけても、残念ながら回復しない状態だった。


「ええっと……どうして魔力を使い果たしていると、上級じゃないとダメなんでしょう?」


 うーん、どう説明したものやら。単純な話ではあるんだけど。


「……さっきポーションを使っている光景を見て、何かに気がつきませんでしたか?」

「はいはいはい! スクスクはわかったニャー! ポーションの魔力の色が、どんどん消えていったニャー!」

「おっ、正解。つまり、ポーションの効果が発揮される時には、魔力が消費されているわけです」


 使用者の魔力が残っているうちは、自身の魔力を消費して治療が行われる。しかし魔力が残っていない時には、ポーションそのものに魔力を含む上級ポーションじゃないと、効果を発揮できないわけだ。


「へえ〜。あっじゃあ、魔力回復薬があれば、上級ポーションはいらないんですか?」

「魔力を回復させてから、中級以下のポーションで治療すれば良いって場面は多いでしょうね」


 戦闘中だと即効性が大事だし、魔力を消費せずに回復したい事も多いだろうから、上級の需要が無くなるわけでは無いけど。

 うん、考えれば考えるほど魔力回復薬はむっちゃ使える。ぜひ作りたいね!


「なるほどなるほどニャー!」

「あー、でも残念ですけど、その魔力草は……口に出来そうに無いですね?」

「いえいえ、何とかできると思いますよ」


 かぶれ、エグミ、ピリピリ。問題はこの辺りか。あと固さ。

 と言っても、原因も対処法も大体予想がつく。ひと手間かける必要はあるけど、ちょっと料理してあげれば問題はないだろう。


「えっ、本当ですか!?」

「ええ。俺の予想が正しければ、ですけど」


 さて、検証開始といきますか。




    □ □ □




 まず、手がかぶれないようにしっかりと手袋を装着。

 魔コブを手にとり、洗いながら表皮を剥ぎ取る。適当な大きさにカットしたら、じっくり時間をかけて熱湯で煮る。十分に柔らかくなったら、お湯に混ぜながらおろし金ですり下ろす。


「で、ここに灰をひと握り入れる」


 灰は適当な雑草を魔法で燃やして用意した。灰を入れたら沸騰しない程度の温度で1時間くらい煮る。いわゆるアク抜きだな。かき混ぜながら煮ていると、トロトロとした感じになってくる。

 しっかり煮たら、次は水にさらす。時々水を替えながら半日以上さらすと、エグミが綺麗に無くなってくれた。うん、これで完成かな。

 出来上がったのは、トロッとしたスムージーの様な魔力回復薬だ。


「魔力メガネで見ても……よし、しっかりと魔力は含んだままだな」

「うん、特に変な味はしないニャン」

「ピリピリする感じも全然しませんね」

「そのためのアク抜きですからね。上手くいってよかったです」


 かぶれ、エグミ、ピリピリ。現実でも、アク抜きをしないとこれらの問題がある作物は多い。山菜とか……強烈なのだと、こんにゃく芋とかな。あれは魔コブと同じように、素手で触るとかぶれるし、少し齧っただけでもピリピリとする。原因物質はシュウ酸カルシウム等だと言われている。で、それだけ強烈な物になると、普通に茹でたり焼いたりするだけでは食べられない。でもまあ、人類の食の歴史は長いからな。そんなゲテモノでも食べられるように、しっかりと対処法が研究されてきた。今回はそれらのアク抜き方法を試してみたところ上手くいった、ってわけ。


「じゃあこれで――魔力回復薬の完成、ですね!」

「おっめでとうニャー!」

「2人の協力のお陰だよ。ありがとう!」


 しかし――気にかかるのは、出来た魔力回復薬の魔力濃度が、しっかり濃厚って事だ。

 生産ギルドのカリナさんは言っていた。魔術ギルド秘伝の魔力回復薬は、『それほど魔力濃度は高くない』、と。

 おそらく魔術ギルドの魔力回復薬は、この魔力草を使った物では無いのだろう。もしかしたら……魔力草を探している時にたまに見つけた、うっすらと魔力を含んだ草。あれを使った薬なんじゃないか? そしてこの魔力草は、あの『うっすら魔力草』を品種改良等で、人工的・・・に性能を向上させた草……なんじゃ無いか?


 だとすれば。この魔力草を作ったのは、あの立派な館に住んでいた『昔の偉い人』に違いない。

 ……うーん、ますます怪しいなあ、あそこ。それだけの事をできた人物の館だ。何が隠されていてもおかしくは無い。有益な物も、あるいは――恐ろしい物・・・・・も。

 やっぱり、あの館にはなるべく近づかない様にしておこう。触らぬ神に祟りなしって言うしね。くわばらくわばら。


 さて、こっちはとりあえず上手くいったけど、ソレイユとリュンネの方はどうなったかな。護衛は問題ないと思うけど、もうひとつ・・・・・の件は運も絡む。上手くいくと良いなあ。

 もっとも。

 上手くいった時には……否応なく、しかし劇的に。

 ――この世界ゲーム変革かわっちまうんだけど、な。

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