いっちょかましますか。とっておきのやつをね。
「んっ、もう着いたのか」
一瞬だけ光に包まれるような演出があったが、転送はすぐに完了した。読み込み時間とかほぼ無いのね。気軽にファストトラベルが捗りそう。
「ここが、始まりの街……」
などとそれっぽく言ってみる。
正式名称は交易都市クロスド、とか説明があったはずだ。聞き流してたからあんまり覚えてないけど。まあ、大体始まりの街みたいなもんだろ。
目の前には何やら光っている大きな噴水。多分あれが各街にひとつ以上はある転移ポイントってやつだろう。プレイヤーは行ったことのある街であれば、転移ポイントを通っていつでもノーコストで移動できる、らしい。その噴水を中心として、この辺は広めの広場になっている。広場の周りには西洋風の建物が並んでおり、地面には石畳が敷き詰められている。いかにもファンタジー世界の街って感じだ。
「まだ他のプレイヤーはいないみたいだな」
この街は俺が一番乗りかな?
多分キャラクリで時間を取られてる人が多いんだろう。俺は適当なモブおっさんアバターにしたから時間かからなかったけど。別に友達を待つとかでも無いし、さっさと行動を開始しますか。
☆ ☆ ☆
「かっじやー、かっじやー」
鍛冶屋はどこだ?
鼻歌混じりに歩くだけでも結構楽しい。俺、ゲームだと新しい街に着くたびに、隅から隅までまで探索するタイプなんだよね。んで何故か高い建物の屋根の上に隠しアイテムがあったりするの。ああいうの好き。
このゲームはリアル志向?らしいのでそういった要素は期待できない。しかしフルダイブ故のリアリティがあるためか、街並みを眺めながら歩くだけでも観光気分で楽しめてしまう。
服屋、本屋、雑貨屋、装飾品店に……色々な店があるなあ。全部見て回りたいけど、とりあえずは後回し。あっ、でもあの瓶詰めの怪しいモノ並べてる店とか超気になる。『金でも溶かす邪蛇の酸液』とか並べてあるし。いやいや、今は我慢我慢。
と、そんな感じでブラブラしていたんだけど。
……うーん、困った。
しばらく歩いてみて分かったが、この街は結構……いや、かなり広い。適当に歩けば鍛冶屋が見つかるだろうと思っていたけど、この調子だと日が暮れてしまう。土地勘ないしなあ。
そんな事を考えていると、前方に地元民っぽい銀髪幼女を見つけた。このゲームで地元民って事は、つまりNPCなわけだが。丁度いい、彼女に道を教えて貰おう。
「へい、そこのお嬢さん!」
陽気に声をかけてみる。だがしかし、幼女は華麗にスルーして歩いていってしまう。泣いていい?
いや、おじさんは泣かない。聞こえてないだけかも知れないし。ワンモアトライ!
「待って待って! おじさん怪しくないから! 怪しくないおじさんだから!」
必死で言ってみたけど……これ、逆に怪しくない?
怪しくないっていう奴が一番怪しいんだよね。幼女に必死で言い募るおじさんって絵面が既に不味い気がするし。このゲームさあ……何かやらかすと普通に憲兵に捕まるんだよ。うわ、まじでヤバい気がして来た、
ち、違うんです。おじさんね、ロリコンとかじゃないんですよ。ちょっとだけ、ね? ちょっとだけ道を聞きたいだけなんですよ。いや、ほんと他意は無くてですね?
だから……初日から前科は勘弁してつかあさい!
「ん? なんじゃ、
ま、まずいぞ。幼女に不審がられている。一歩間違えば憲兵コースだ。
冷や汗が背中を伝うのがわかる。うわあ、こんな感触までリアルぅ。嬉しくな〜い。
「お、おじさんね、今日初めてこの街に来たんだ。それでね、道が分からなくて困っているんだよ。良かったら、この町で一番の鍛冶屋がいる店を教えてくれないかな?」
しゃがんで幼女に目線を合わせた上で、精一杯爽やかな笑顔を向ける。
ほ〜ら怖く無いよ〜。
「なんか胡散臭い笑顔じゃのお」
え、ひどくない? 割と渾身の爽やか笑顔なんですけど?
おじさんの心は繊細なんだぞ(泣)
「ん? その質素な服……お主、もしや【ぷれいやあ】か?」
「あ、はい。プレイヤーです」
「そう言えば、今日から来るんじゃったのお。どおりで見覚えのない顔じゃ」
この世界の
「で、鍛冶屋じゃったか? そこの角を右に曲がってすぐにあるぞ。妾も馴染みの店じゃ」
「おお、ありがとうお嬢さん! 今度飴ちゃんあげるからね!」
「構わんよ。ん……そうだな、これをお主にやろう」
「うん? ありがとう?」
唐突なプレゼントに語尾が疑問形になる。
「お主は妾が初めて会う【ぷれいやあ】じゃからな。これもきっと何かの縁じゃ」
「な、なるほど? えーっと、これ何?」
渡されたのは、小さなガラス瓶に入った鉛色の……鉱石?
3センチ角くらいの物が何個か入っている。
「そのうちわかる。お守りと思って持っておればよい」
「あ、はい。わかりました」
堂々と言う幼女の言葉には、不思議と素直に従ってしまう威厳がある。
と、言うかこの子は本当に幼女なのかな? なんか老人みたいな言葉遣いだし。見た目も声の感じも完全に幼女ではあるんだけど。
「君は一体……?」
「妾の事はいいから、さっさと鍛冶屋に行かんか。用事があるのじゃろう?」
「あ、そうだった」
確かに、幼女の正体はまた今度でいいか。
なんか勿体ぶりたいお年頃みたいだし。
「ありがとね、またね〜!」
幼女に手を振りつつ、鍛冶屋に向かう。
幼女(暫定)も小さく手を振り返してくれた。正体不明だがとりあえずカワイイ。
しかし……NPCが高性能AIを積んでいると噂は聞いていたが、本当に人間と話しているのと変わらないくらい自然に会話出来るな。これなら鍛冶屋での計画も上手く行きそうである。
★ ★ ★
「へいらっしゃい」
店の扉を開けると、いかにも職人気質っぽいおっさんが、カウンターから無愛想な表情で声をかけて来た。
「俺は……この街一番の鍛冶屋を探している。あなたで間違いないか?」
「うん? 一番の定義にもよるが、そうだな……まあ確かに、そんじょそこらの奴に負けるつもりはねえよ」
おっさんは考えながらも、しっかりと胸を張って答える。間違いない。自分の腕に自信のある、本物の職人だ。
「……師匠」
「あん? なんて言った?」
「師匠と呼ばせて下さい! 俺を、あなたの弟子にして下さあああい!!!!!!!!!!!」
絶叫と共に、流れるように渾身の
「は、はああ!? 何言ってんだ、おい。やめろ、いい歳して土下座なんて、おい!」
「やめません!!!!!!!」
「はあっ!?」
「弟子にして頂けるまで、俺は土下座をやめません!!! ここから、動きませんから!!!」
「は、はあああああ!?」
この混乱っぷり……落ちるのは時間の問題だな。
動揺して一言、「わかったから勘弁してくれ!」とでも言ってくれればこっちのもの。
言質を盾に、押し掛け弟子入りライフを堪能できるって寸法よ!
クククククククク……ハーーーッハッッハッハッハ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます