新しいゲームを始める時のワクワク感って凄い

『【The Secret Keys of Your Life Online】 へようこそ!』


 目の前にメッセージウィンドウが浮かび上がる。


「シークレットなんちゃら? ……そういえばそんな名前だっけこのゲーム」


 あまりにも『石油王ゲー』としか呼ばれていないから忘れていた。


『新規アカウントを作成します。

 プレイヤーネームを入力して下さい。』


 プレイヤーネームね……考えてなかった。適当に思い浮かんだモノからつけることにする。


『プレイヤーネーム【オールディ】を登録しました。

 ログインします。』


 よし、ゲームスタートだ。




   □ □ □




 まずはOPオープニング。

 壮大なBGMと共に、次々と幻想的な風景が映し出されていく。


 広大な草原。砂嵐吹き荒ぶ砂漠。岩肌に囲まれた渓谷。天を衝く大山脈。鬱蒼としたジャングル。オーロラが揺らめく雪原。灼熱の溶岩地帯。星々が輝く宇宙空間。


 いや、違う。風景が映し出されているのでは無い。

 俺の方が、空間を移動しているんだ!


 静謐せいひつな大教会。崖上に高くそびえる古城。石像が林立する遺跡。神秘的に光る海底都市。信じられない程に巨大な大樹と、その根本にある森林都市。浮遊する岩石の上に広がる空中都市。


「す、すっげー……」


 没入型フルダイブVR体験はスゴイとは聞いていたが、想像を遥かに超えていた。こんなファンタジーな風景を実際に訪れるかの様に体験できるとは。公式情報によるとOPの風景は全て、実際に行けるフィールドの一部らしい。本当かよ。この世界をゲーム内旅行するだけでも一生遊べそうな程だ。



 そして場面は切り替わり、どこかの洞窟の中。大きなドラゴンと対峙する4人の人間達。ドラゴンの咆哮と共に、戦いが始まる。戦士達はドラゴンの牙を、振るわれる腕を、尻尾を、吐き出される火弾を、高速で走りながらも瞬時に、的確に掻い潜っていく。


「おおっ、はっえー!」


 超人的な動きに驚いている間に、戦士達は次々とドラゴンに攻撃を加えていく。ある者は剣で何回も斬り付け、ある者は巨大なメイスで頭をかち上げ、ある者は魔法で生み出した光弾をぶつける。明らかに強力そうなドラゴン相手なのに、一歩も引けをとっていない。これはきっと、英雄達の戦い。


 確かにすごい。すごいけど……いや、すご過ぎないか?


 迫力のある光景を前にして興奮する気持ちもあるが、同時にそんな冷静な感想も浮かんだ。


 いや、だって……こんな風に戦うの無理じゃない?


 自慢じゃないが、俺は人生で運動らしい運動をした事が無い。「こんな風に機敏に動いて戦闘? 無理無理!」と、思ってしまう。

 これまでの普通のゲームではボタンポチポチ押すだけでキャラが良い感じに動いてくれた。だが、これは没入型フルダイブVRゲームだ。自分の体を動かす様に、アバターを動かさなければならない。モーションアシストとかあれば良いんだろうが……今のところそんなシステムは確認されていない。あんな超人じみた動き無理だろ。公式は「OP戦闘の動き? 頑張れば誰でも出来るでしょ?」とか言ってるけどな。お前基準で語るな。


 っていうか出来る出来ない以前に、例えゲームの中であっても、ボタンポチポチじゃない運動なんて面倒臭い。あとモンスター怖い。脇で見てるだけでも俺はドラゴンの迫力にビビリまくっていた。リアリティのある没入型フルダイブVRゲームであるだけに、その辺の怖さも増してしまうのが辛いところだ。


「んー……やっぱ生産プレイにするかなー」


 戦闘メインは無理そうだ。幸い、このゲームはとんでもない自由度があるらしい。戦闘しないでも、生産とか色々楽しみ方はある。丁度とあるアクションゲームを遊び倒した反動で、まったり生産系のゲームをやりたいタイミングでもあったし。俺はコロコロとジャンルを変えて遊ぶタイプのゲーマーだからな。


 そんな事を考えていると、タイトルロゴが表示されてOPは終了した。

 続いてメッセージウィンドウが表示されると共に、音声ガイダンスが内容を読み上げる。


『キャラクタークリエイトを開始します。

 アバターの見た目を設定して下さい。』


 なるほど、早速キャラクリね。

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