VRMMOで始める魔工技術革命! 〜気ままに生産するおっさん、ファンタジーだけどリアルすぎるフルダイブRPGで技術革新を起こしまくります〜

数奇ニシロ

そのおっさん、激ヤバ/そのゲーム、異端

「ふぅー……」


 正眼に剣を構えた剣士が、目を閉じ、深呼吸で息を整える。眼前には、試し斬り用の巻藁が立てられている。しかし、奇妙なのはその位置・・だ。巻藁は剣士から10メートル以上離れた場所にある。一足一刀の間合いからは遠く離れた距離だ。


 集中が極限に達した、その一瞬。気合と共に剣がきらめく。


「ハアッ!」


 目の前の巻藁を切るかの如く、剣が空を斬る。

 と、同時に。

 斬撃の軌道からは、赤い斬撃波が飛び――遠く離れた巻藁を、スッパリと切り裂いた。




「な? 斬撃が飛んだ・・・ろ?」

「わ〜、あんなに離れてるのに綺麗に斬れましたね」

「これ、稲刈りとかに使えないかな?」

「な、ななななななな……なんでそんな平然としてるのよ、あんた達!」


 ゴスロリ魔女娘が何やらわめいているが、あの『斬撃が飛ぶ剣』を造ったのは俺だ。驚く筈もない。とはいえ……。


「俺が使ってみた時より、綺麗に巻藁が切れてるな。予想通り、剣速で切れ味も変わりそうだ。刀身を軽くして正解だったな」

「そうじゃなくて、剣士が遠距離攻撃手段を手に入れる事になるのよ!? 事態の深刻さがわかってる!?」


 と、言われてもな。


「オールディさんが凄いのはいつものことなので……慣れちゃいました」

「いちいち驚いてたらキリがないよね〜」

「こいつの発明が凄いのは知ってるわよ。でも、これはそんな話では済まないわよ。今までの戦闘の概念を根本から覆す大発見じゃない!」

 

 そんな会話をしている間に、剣士が剣を鞘にしまい、こちらに戻ってきた。


「ありがとう、オールディ。これは凄い剣だね。すごく……すごくカッコイイ!」

「だろ? イカすだろ?」


 そこが一番大事なところだよな!


「最高だよ! この剣の名前は決めてあるのかい?」

「いや、まだだ。名前か、そうだな〜……」

「私の話は終わってないわよ! 名前なんて後で良いから!」

「なんだ、リュンネ? 魔法使いの役割が無くなりそうだから心配してるのか?」

「違うわよ、あんたの心配をしてあげてるの! あ〜もう、生暖かい目で見るなあ!」


 妙に食いついてくると思ったら、心配してくれていたらしい。ツンデレかよ。とっつきにくい現代っ娘かと思っていたが、いつの間にやら随分と懐かれたものだ。

 思わずニヤついていると、魔女娘は真剣な顔でこちらに問いかけてきた。


「今やここはただの・・・ゲームじゃない。そんなゲームに大きな影響を与える意味を、本当にわかってる? あんた……このゲームをどうするつもりなの?」


 確かにな。魔女娘の言うことにも一理ある。このゲームは今や社会現象、いや、社会システムの一部にすらなりつつある。

 だが、俺の答えはとっくに決まっている。全てのゲーマーがそうである様に。


「俺はただ、ゲームを目一杯に楽しむ。それだけさ」


 たった一つの真理。

 ゲームは楽しければ良いんだよ!




   □ □ □




 時は少し遡る。


 世界初の家庭用没入型フルダイブVRヴァーチャルリアリティ機器『アムリタ』。

 それは、驚きの低価格で販売が開始された。なんと一般的な家庭用ゲーム機と同程度の値段で、だ。そんな低価格でも性能は本物。使用者は実際に別世界に行ったかのような体験をすることができる。本来そんな低価格で販売できる性能では無いため、販売会社は逆ザヤ(※1)覚悟で普及を優先させた、と見られている。

 手頃な価格と初の没入型フルダイブVRヴァーチャルリアリティ機器という話題性で『アムリタ』は発表後から予約が殺到。発売日である今も、生産がまるで追いついていない状態だ。


 そんなVR機の目玉コンテンツが、これまた世界初の没入型フルダイブVRMMOゲーム、通称『石油王ゲー』(※2)。驚くべき事にプレイ料金は実質無料。厳密に言えば、VR機のネットワークサービス(月々缶ジュース3本程度の低価格だ)に加入する必要はあるが、ほとんど無料と言って良いだろう。今のところ目立ったゲーム内課金要素も発表されていない。


 これだけでも驚きだが、真に驚くべきはそのゲーム内容だ。世界観はいわゆる剣と魔法のファンタジー世界といった雰囲気だが、とにかくクオリティが半端ないらしい。


「まじで異世界にいるのかと思った! 視覚も感覚も匂いも味もリアル!」

「モンスターもオブジェクトも全部細部まで作り込みやばい!」

「オープンワールドとかそんなレベルじゃねえ。クリエイトワールドだろこれ。世界一個作ってるレベル。ガワだけの場所とか行けないところがマジでない」

「物理エンジンどうなってんのこれ? 違和感全然ない」

「当たり前のようにNPCは高性能AI積んでる。モンスターとかも多分独自AI」


 わずか一週間だけ行われたβテストの参加者は、こんな風に口々に絶賛した。聞くからに凄そうだが、ゲーム製作の視点で見ると凄いなんてレベルではない。ただでさえ、求められる映像クオリティが年々向上しているゲーム業界。さらに作業量が多いオープンワールドの流行などもあり、ゲーム製作にかかる金と人と時間はどんどん膨れ上がっている。少し高画質程度のゲーム、限られたマップのオープンワールドでもそうなのだ。五感を再現し、最高峰の映像クオリティが求められる没入型VRMMOで絶賛される程のクオリティ。はっきり言って異常だ。


 だが、そんなクオリティ面の絶賛とは裏腹に、ゲームシステムの評判はかんばしくない。


「レベルもステータスもスキルも称号もない。どうやって強くなって良いかわからない」

「何すれば良いのか不明。適当に剣振っててもモンスターに殺されるんだが」

「一週間あって魔法使えるようになった奴いないってマジ?」

「どうして素直に既存のゲームシステム使わないんですか?」

「レシピ生産とかまとめ生産とか工程スキップとかないんだけど苦行過ぎないか」


 従来のMMORPGでは当たり前にあったレベル・ステータス・スキルと言った要素が無い挑戦的過ぎるゲームシステム。お陰で歴戦のゲーマー達も一週間のβテスト期間を手探りで進めるしかなかった、らしい。

 抽選に当たらず、βテストに参加出来なかった俺は、彼らが語る断片的な情報を夢中で掻き集めた。ゲームシステムに関しては批判的な感想が殆どだったが、


「何もかもわからないなんて……むしろ燃える! むっちゃ面白そうじゃねえか!」


 と、俺は思ってしまった。当然VR機器は全力で予約。発売日には有給休暇を取る予定だった……のだが、勢い余って退職してしまった。貯金は結構あるし、問題ない。しばらくは『石油王ゲー』に入り浸る予定だ。ビバ・ゲーマー生活。



 そんなこんなで発売日。俺は最速でゲームを起動した。





※1 逆ザヤ……製造コストが販売価格を上回る状態。つまり売れば売るほど赤字になる。ゲーム機なんかではよくある話らしい。慈善事業でもない限り、その分ソフト等で利益を出す必要がある。


※2 石油王ゲー……超絶クオリティの割にほぼプレイ無料・課金要素無しであるために、「石油王が趣味で作ったのか?」と言ったニュアンスでこう呼ばれている。決して『石油王並みに課金しないと人権が無いゲーム』では、ない。

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