第15話:純潔の女種族、キリークの街
大陸の西地域、そこには大きな都市が二つ存在していた。
一つはキリーク、女性だけの種族が住まう都市。
女性だけでどうやって子供を産むのかと思ったのだが、この種族は驚く事に生涯において何度か単一での出産を行うのだ。
そして生まれる子供は必ずキリークの女児である為、その人口は緩やかに増加していく。
ちなみに男性となんやかんやする事でも子供はできるのだが、その時はキリークとしての特性を失ってしまう。
つまり、普通の女性になるということだ。
そしてもう一つがタラーク、男が多く住む都市である。
ここにはタラークと呼ばれる男の種族が多く、この種族は他の種族と交配すると必ず男児が生まれる。
つまり、タラークの女性というものは存在しないのである。
そんな種族がどうやって子供を作っているかというと、まぁ形振り構わず金やら何やらで解決しているといったところだ。
たとえば借金で売り飛ばされた女性、たとえば何かに追われた女性……他にもキリークの女性を誘拐している場合もある。
まぁそれについてはキリーク側にも問題があったから、僕が口を挟む問題でもない。
そんな感じで、僕は今その話題となったキリークに来ている。
ゲームでは男主人公で始めてしまったせいで強制的にタラーク側でクエストを進める事になり、戦争ではメチャクチャ苦労したからである。
竜は反則だよ、竜は…。
だから、決して女性ばかりの都市に憧れて来たわけではないと自分と内なるレックスの魂に弁護しておく。
「……お前、タラークの回し者だろ。何が目的だ?」
僕は今、キリークの都市にある詰め所のような場所に閉じ込められて尋問されている。
アマゾネスのような人達じゃないだろうと思ってたのだが、男に対してはもう親の仇かと思われるくらいに厳しかった。
「いえ、本当にそういうんじゃないです……」
「こんな子供が荷物も持たずに旅をしてただと? そんな馬鹿なわけあるかッ!」
どうしよう、正しすぎて何も言い返せない。
ロクな荷物も持たずにこんな場所をウロウロしてたら、そりゃあ疑われるよね。
だけど本当に何もないんです!
いや下心と超級厄ネタと溢れんばかりの悲しみはあるんですけど、それだけなんです!
信じてくださいお願いします何でもしますから!!
「武器として提出されたものはナイフと…グローブ?」
「あ、僕マジックユーザーなんです。そのグローブを触媒にして魔法とか使うので」
女の衛兵さん達が困惑した顔をし、そして僕に拘束用の手袋を付けさせた。
正直に話したのにどうしてこんな事するんですか!!
正直に話したからだった、当たり前だよ。
「こうなると服の下も調べたほうがよさそうだな」
そう言って、複数の衛兵さんが僕の身体をまさぐってきた。
「あっ、あっ…まってください! そんな、一気に服数人でなんて…!!」
「やかましい! 変なことはせんから黙ってろ!!」
先生、いたいけな子供をまさぐるのは変な事だと思います!
「よし、先ずは上着を脱がすぞ。万歳しろ」
「分かりました、タラーク万歳!」
ウケ狙いでやってみたのだが、石造りの部屋の室温が下がった気がする。
ここは"キリーク万歳ですわ"とかにすべきだっただろうか。
「…お前、ほんとにタラークの尖兵とかじゃないよな?」
「もしも本物だったら、ウケ狙いでわざわざこんな事しないと思いますよ」
そうして上着を脱がされ僕の身体を見て、衛兵さんが生唾を飲み込んだ。
僕の身体ってそんなに美味しそうに見えるのだろうか。
似るなり焼くなりはしないでもらえると助かる。
「なんだ、この……この傷は…」
違った、どうやらアズラエルのお爺ちゃまに肋骨を埋め込まれた傷跡を見てたらしい。
自分で見ても痛々しいというか見てるとちょっとオエってなるけど、実際には痛みはない。
試しにアズラエルの肋骨を取り出してみた事もあるのだが、その時もスルっと出てきて、スルっと元に戻った。
なんか人体改造されたみたいでちょっとテンションが上ったのは内緒である。
「子供ひとりで旅をしてたら、まぁこういう事もありますよ」
僕は努めて明るく話しかけてみたのだが、逆に不信感が強まった気がする。
解せぬ!
「…よし、次は下半身だ」
衛兵さんが僕のズボンに手をかけたので、それを手で抑える。
「……何をしている、手を離せ」
「いやいやいや…ちょっと待ってください。下半身は別に危険じゃないですよ?」
衛兵さんのズボンを掴む手に力が入り、それに応じて僕も力を入れる。
「危険かどうかを調べるのが我々の仕事だ…!」
「やめてください! 僕の息子は危ないやつじゃないんです! 人畜無害な良いやつなんです!」
そうしてズボンを挟んでお互いに拮抗状態となってしまった。
とはいえ、そこには複数の衛兵さんがいるわけで…。
「いいから大人しくしろ!」
「よし今だ! ズボンを下ろせ」
「ああっ…お願いです止めてください! ほんと違うんです見ないでください!!」
結局、二人に羽交い絞めにされた事で僕はどうすることもできず、されるがままに脱がされてしまった。
「なッ…! こ、これはアナト・アレスの紋章!?」
「なんでこんなものがッ!?」
そうして僕の下腹部に刻まれた淫紋…ではなく、刺青があらわとなってしまった。
「自分で彫った…にしては、精密すぎる。これは職人の技によるものだぞ。どうしたのだ?」
「もしや、アナト・アレスを信奉しているのか?」
「だがそんなものを祭っている場所などほとんどあるまい」
衛兵さん達から矢継ぎ早の質問が飛んでくるので、僕は極めて簡潔に答える。
「アマゾネスの人に捕まって、マーキングされました……うぅっ…」
その場にいた全員が、目頭を抑えた。
よし勝ったぞ!
何か大事な物を失ったような気がしつつ、敗北感を味わいながらも僕は信用を勝ち取ったぞ!!
その後、お詫びという事で街の代表者の方にお呼ばれした。
お詫びっていうか、あの申し訳なさそうな顔を見る感じ、同情っていう方が正しいと思う。
僕だって好きであんなことになったわけじゃないやい!
衛兵さんに大きな屋敷に案内されて、客室で人心地つく。
「アルテミス様が来るまでここで大人しく待っててくれ」
「分かりました。お言葉に甘えて、ゆっくり休ませてもらいます」
そういえばアズラエルの祠からここまで休憩無しで来たので、本当に久しぶりの休息になる
机に置かれたお茶とお菓子をつまみながらゆったりとしていると、小さく扉が開く音が聞こえた。
いったい誰だろうかと目を向けると、扉の小さな隙間から僕よりも少しだけ小さな女の子がそこから覗き込んでいた。
「ウサギと言ったら…?」
しかもなんかこっちに話しかけてきた。
「こんにちは」とか「ごきげんよう」とか、そういうのなら想定できてたけど、初手で「ウサギと言ったら?」と言われてもなんて返せばいいのか分からない。
「ほら、ウサギと…?」
このまま無視するのも失礼なので、あちらの求めていそうな答えを返す。
「……カメですか?」
それを聞くと、その女の子は物凄い嬉しそうな顔をしながら扉を開け放ち、こちらに駆け寄ってきた。
「転生者だな! お前、転生者だな! ウサギとカメなんて知ってる奴なんてこの世界にいねぇし!」
そうか、なにも野球の話題以外にも転生者を見極める話題はあったのか。
それにしても急に女の子がグイグイとこちらに距離を詰めて来て困惑している。
「あ、あの…取り敢えず自己紹介をしませんか? 僕はフィル・グリムです」
「オレはクレオ・アルテミスだ。よろしくな、フィル!」
アルテミス…キリークとタラークを創造した【ソール・アルテミス】の事を指しているという事は、実質この街のトップの子供という事だろう。
それにしても一人称が"オレ"か…有りだな。
僕が深く頷いていると、不思議そうな顔でこちらを覗き見られる。
「おい、どうした。何かあったのか?」
「あ…気にしないでください。女の人で"オレ"って言う人が珍しかったので、つい」
僕は紛らわせるようにお茶を口に含む。
"ワシ"ならアマゾネスのレイシアさんが言ってた気がする。
あれもオサだからああいう喋り方になってるんだろうなぁ。
「いや、オレは男だぞ!」
思わず口に含んでいたお茶を噴出した。
えっ……キリークで男の子って産まれないはずだよね!?
もしかしてキリークのトップはもう男の人にアレされてキリークとしての純潔を失ったとかそういうやつなの!?
「チンコはないけどな!!」
クレオがガハハと笑っているが、ワケが分からなさすぎて頭がおかしくなりそうだ!
身体は女の子っぽいのに男だって言っていてチンコがないってどういう事なんだそれは!?
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