Reset

「お前等これ持ってけ。」

僕達の目の前に薔薇と同じ色の砂時計が浮いていた。

「これは?」

僕は青藍に尋ねた。

「それは欠片になった者の時間を戻す砂時計だ。まぁリセットボタンみたいな物だな。扉を潜った瞬間に砂時計の砂が流れ落ちる仕組みだ。それぞれ4人の時間の軸は違う。その砂時計は1人1人の時間の軸をリセットさせる物だ。」

これで星が自殺する前の時間に戻るって事か。

やっと助けられる。

「さっさと元の世界に行って来い。妾とはここでお別れだ夜空。」

白玉が僕の前に立った。

「もう白玉とは会えないんだね。」

「そうだな。妾と夜空の世界は平行線の世界だ。けして交わる事の無い世界。」

死後の世界に来て1番長い時間を共にした相手。

星の事を愛していた。

「ありがとう晃。」

「え?」

「星を助けてくれて。妾の願いを叶えてくれて。」

「白玉…。」

僕の目に涙が溜まる。

鼻の奥がツンッと痛むのが分かる。

「闇と空蛾、百合もありがとう。」

白玉が3人に向かってお礼を言い、そして頭を下げた。

「白玉。俺は俺の為に来たんだ。お礼を言われる事はしてないさ。」

百合は白玉の頭を優しく撫でた。

「結果的に白玉が俺等を呼んだ事は必然だったんだ。この世界に行く事が。ここに来て色々気付かされたよ。」

闇は頭を掻きながら話した。

「青藍に願いを叶えて貰えた。お礼を言うのはあたしの方だよ。ありがとう…大切な事を気付かせてくれて。」

空蛾は青藍と白玉に頭を下げていた。

「これからの時間を大切に過ごせ。当たり前だと思っている事が幸せなんだからな。ここにはもう来るなよ?来る時は自分の命のレールが切れた時だ。」

青藍は僕達を見ながら囁いた。

「空蛾達ともお別れだね…。」

僕は3人を見つめた。

この世界で共に戦った仲間だ。

「ばーか。元の世界に戻ったらまた会えるだろ。すぐではないと思うけど。」

「わわわ!!

闇が乱暴に僕の頭を撫でた。

「そうよ。あたし達はこの世界で繋がりを持てたんだから会えるわきっとね。」

「空蛾。」

「元の世界に帰ったら4人でまた会おうな。普通に飯でも行こうぜ?俺の奢りだ。」

「やった!!」

「高級焼肉な。」

「それいいね。」

「好きなの食え。」

僕達4人は笑い合った。

リンゴーンリンゴーン。

大きな鈴の音がこの空間に響き渡る。

「時間だ。さぁ行って来い。」

トンッ

白玉に強く体を押された。

僕の体は浮き上がり扉の中に吸い込まれた。

「白玉!!」

僕は白玉に手を伸ばした。

「妾はいつでも2人を見守っているから。」

白玉は僕に微笑んだ。

3人の体も扉の中に吸い込まれていた。

白い暴風の中に僕の体は包まれ目を開ける事が出来なかった。

ピピピピピッピピピピ!!!

「!?」

目を開けると僕は自分の部屋のベットの上に居た。

「えっ…?」

スマホを見ると日付けが星が自殺をする日に戻っていた。

「晃!!いつまで寝てるの?早く起きないと学校に間に合わないわよ?」

ドアの前から母親の声がした。

僕は慌てて扉を開けた。

「母さん?!」

「うわ!!びっくりした…。晃?どうしたの?」

僕の目の前に母さんが居た。

実感が湧かない。

夢なのか現実なのか。

ピーンポーン、ピーンポーン。

チャイムの音が玄関の方からした。

母親が出る前に玄関の扉が開いた。

「晃!また寝坊しただろ!迎えに来てやったぞ」

耳に響く声と廊下をうるさく歩く足音が聞こえた。

「お前まだ着替えてなかったのか?遅いぞ!」

僕の部屋を覗く制服姿の星が居た。

「本当に星か?」

「あ?何言ってんだよ俺に決まってるじゃん!!リビングに居るから着替えて来いよー。おばさん!!俺トーストもお願い!」

「ふふ。はいはい。」

星と母さんがリビングに向かって行った。

とりあえず着替えるか…。

僕は制服に着替えた。

ふと部屋にある鏡に目が止まった。

「!?」

首の右側に切り傷の痕が残っていた。

これは僕が自殺をした時の傷。

「戻って来たんだ。本当に。」

この傷を見てやっと実感した。

「晃ー!?本当に遅刻するわよ!!」

「わ、分かった!!」

僕は急いでリビングに向かった。

星が呑気にトーストを食べていた。

その姿を見て泣きそうになった。

「晃ー?どうかしたかー?」

「ッ!何でも無いよ!早く行くぞ。」

涙を悟られないように星に背中を向けた。

「おい!待てってば!」

星と一緒に通学路を歩いた。

今日の夜に星は自殺をする。

星が自殺をするのを止めないと。

僕の事を不思議そうに星が見ていたけどあえて触れないようにした。

久々の学校だったけどとくに変わりは無かった。

部活が終わり星はいつも通りに僕の部屋を訪れた。

「お風呂入ってくるから。」

「了解ー。ごゆっくりー。」

ゲームをしながら星は僕に軽く手を振った。

パタン。

星が僕のスマホで自撮りの動画を撮る。

夜が本番だ。

僕はお風呂に入りながらどうやって星を止めるか考えた。

やっぱり星に毒を吐かせるしか無いよな。

今までだって星が毒を吐いた事は1度も無かったから。

お風呂から上がり僕は部屋に向かった。

ドアを開けると星は慌てた様子でスマホを置いていた。

バレてるよ星…。

「なぁ…晃。」

「ん?」

僕は髪を拭きながら星を見つめた。

星の顔は不安気だった。

「お前さ、俺が…いや。ずっと俺の味方で居てくれるか?」

「星。」

「な、何?」

「何かあったんだよな?」

「!?な、何言って…。」

「星。」

僕は星の肩に優しく触れた。

「星は全部1人で抱えすぎなんだよ。そんなに1人で強くならなくて良いんだよ。僕が居るじゃん。それにさ。」

俯いている星の顔を覗いた。

「星は本当は泣き虫じゃん。」

星の目に涙が溜まっていた。

「ほら。心に溜めてたの吐いちゃえよ。」

「ッ…。ほ、ほんとは俺…。今日。」

「うん。」

「死のうとした。」

「うん。」

「自分が怖いんだ。」

「うん。」

星は泣き虫なのに強がる癖があった。

目で伝えていたんだ。

辛くて苦しい事を。

僕はどうしてそんな大切な事を忘れていたんだろう。

「小学6年の頃。晃を突き落とした奴に酷い事した。俺…最低な事をした。」

星は自分の頭を強く掴んだ。

僕はその手を優しく髪から離させた。

「確かに酷い事をしたのかもしれない。だけどそれは僕の事を思ってやってくれた事だろ?星だけが悪いんじゃ無いよ。」

「晃は悪く無いだろ!!俺が…。」

「だからさ。」

星の顔を僕は真っ直ぐ見つめた。

「一緒に背負うよ。1人で背負いこむなよ、これはさ…僕達2人の罪だ。」

「晃…。」

「もう1人で抱かえるのは禁止な?僕と約束しよ。」

「あきらぁぁー。」

星は大声で泣いた。

「よしよし。1人で耐えてたんだよな。気付いてあげれなくてごめんな?」

僕は星を抱き寄せた。

僕の肩で星は泣き続けた。

今まで言葉に出来なかった想いは涙になって流れてしまえばいい。

星の事を今度こそ止められた。

僕の目からも涙が溢れた。

僕達は泣き疲れていつの間にか眠ってしまった。

繋いだ手を離さないように握り締めながら。

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