死が2人を分かつまで

「姫…。姫…。」

ガイは何度も何度もお姫様の名前を呼び続けた。

その光景を美しいと思ってしまった。

「これは夢?死んだはずの姫が目の前に居るのは…。」

ガイはそう言うとお姫様は青藍を見つめた。

青藍は黙って頷いた。

「青藍…あ、あの…。」

僕は青藍に口を塞がれた。

「最後に夢を見せてやれガイに。」

「青藍…。」

「アイツに幸せな夢を…。」

青藍の顔は悲しそうだった。

僕達は黙って2人を見つめた。

お姫様の白いドレスが黒く染って開く。

「ごめんなさい。ガイの事を沢山傷つけてしまったわ。」

「姫…ボクは姫の事のちゃんと考えてなかっゴホ!!」

ガイの吐いた血がお姫様の肩に掛かった。

ジュュュュュウ!!!

肌の焼ける匂いが鼻に届く。

「姫!!肩が!!ボクが血を吐いたせいで姫の…!!」

「ガイ…これは私の罪なの。貴方を闇に染めてしまったから。」

お姫様が犯した罪。

ガイを愛に狂わせた事。

「離れて姫。キミまで連れていかれちゃう。」

「構わない。」

「ボクが犯したのは大罪だ。4人の人をここに連れて来てしまった事。そして姫を…、自分の主人を殺した事。MADAに飲み込まれたボクが行く場所…姫は分かってるんでしょ?」

「ねぇ…。ガイ。」

姫はガイの顔に触れキスをした。

「!?」

「私は貴方を愛してる。この世界で1番貴方を愛してる。」

「ボクを狂わせた姫。殺したい程に愛した姫。やっと…ボクの願いが叶った。」

ガイはお姫様を抱き返そうとした。

ボタボタボタッ!

ガイの両腕が崩れ落ちた。

「そんな…。」

空蛾が口を押さえた。

「ボクは姫を抱き返す事も出来ない。ごめんね姫…ボク…疲れちゃった。」

ガイの瞳が閉じようとしていた。

「ガイ…。」

僕がそう呟くと白玉が近寄って来た。

闇と百合も静かに見つめていた。

「良いのよゆっくりお休み。」

お姫様は優しくガイの髪を撫でる。

ガイの顔が子供のように幼く見えた。

母親が子供の頭を優しく撫でているかのように。

僕から見ても2人が愛し合っているのが分かる。

「青藍。」

「あぁ。」

「貴方にこの世界の権利を渡します。」

そう言ってお姫様は自分の血で赤い蝶を作った。

青藍に向かって赤い蝶を飛ばした。

青藍の指に赤い蝶が止まる。

「雫。」

青藍は静かにガイとお姫様を見つめた。

「これで良かったんだよな。」

お姫様の体を黒いドロドロした手が影の中に引き摺り込む。

お姫様の体はドロドロに腐っていた。

「えぇ。これで良いの。」

「そうか。」

「死が2人を分かつまで私はガイを愛してる。」

そう言ってお姫様とガイは影の中に飲み込まれた。

灰色だった空に光が差し込む。

空が晴れ青一色になった。

色褪せていたスライム街のような街並みは色を取り戻し街一面が洋風の街並に戻った。

色鮮やかな花達と新緑の木が生き返った。

「えっえ!!?どう言う事!?街の景色が…。」

「夜空、これが本来の死後の世界だ。」

青藍が僕に説明をしてくれた。

「「青藍!!」」

2人の男の子が青藍に近寄る。

「翡翠、真珠ご苦労様。」

青藍は2人の男の子の髪を撫でた。

「じゃあこの世界からMADAが無くなったって事?」

僕は青藍に尋ねた。

「ガイの魂が無くなった今、この世界の秩序が正しい形に戻って来た。MADAに飲み込まれた魂がいないからな。」

青藍は僕達を手招きした。

2つの杖を1つに合体した。

赤と青のコントラストが美しい杖に変わった。

「場所を移動するぞ。お前達の願いを叶える為に。」

「「「「!!!?」」」」

青藍の言葉に僕達は驚いた。

「世界の支配者の死神である雫が俺に力を託しこの世界からいなくなった。俺がお前達の願いを叶える。審判所に向かう。」

そう言って青藍は杖をトンッと地面に叩き付けた。

空に続いている白い階段が現れた。

「行くぞ。」

青藍の後を僕達は付いて行った。

天空へ続く道を辿って。



貴方となら地獄に堕ちても良い。

意識が途切れ行く中で私は貴方を思う。

1匹の狼に愛をくれた貴方への。

たとえこの身が亡くなろうとも。

黒いベールに身を纏い狼の貴方と。

死が2人を分かつまで貴方を愛してる。

青い彼岸花の花畑で愛を歌おう。

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