思いに焦がれて④

「おい、櫻井ちょっと顔貸せよ。」

振り返ると教育指導の田中がニヤニヤしながら俺を呼び止めた。

「何ですか?田中先生。」

「お前、斉藤とこんな関係だったなんてなぁ?」

田中はそう言って一枚の写真を俺に見せ来た。

俺と真維が手を繋いでいる写真だった。

「!?」

「その顔は本当みたいだなぁ?まぁ言わないでおいてやるよ。」

「ほ、本当ですか!?」

「ただし。」

俺は嫌な予感がした。

「俺の言う事聞いてくれよ。そうだなぁ20万持って来いよ。」

「はぁ!?」

何言ってんだこの野郎…。

脅迫だろこれ。

「良いのかなー?そんな事を言って。斉藤との事バラしちゃうよ?良いの?」

「!!?」

「だったら持って来いよ。いいな?」

そこから地獄の生活が始まった。

言われた金を渡したが、田中の嫌がらせはエスカレートしていった。

仕事を多く回されたり自宅に真維との写真を封筒で送られた。

俺の精神は限界を越えていた。

真維と付き合わなかったらこんな事にはならなかったのに…。

真維を好きになった事が間違いだったんだ。

「真維さえ居なければ…俺はこんな目に遭わなかったんだ。」

「だったら殺しちゃえば良いじゃん♪」

「!?」

いつの間にか俺の部屋に男が入って来ていた。

不気味な雰囲気を纏っていた。

「誰だ?」

「ボクはキミを救えるものだよ。」

そう言って俺の頭に触れた。

ズキンッズキンッズキンッ!!!

頭に強烈な痛みが走った。

「な…にしたんだよ!?」

俺は男を睨み付けた。

「禁忌の種だよ♪キミはもうボクのモノになったんだよ。もう前の日々には戻らないよ。」

「ど、どういう事だよ!?」

「キミの知らない所で動き出すんだ。また来るよ♪」

そう言って男は黒い影の中に消えて行った。

訳の分からない状況だった。

いきなり現れて訳の分からない事を言って消えて行った。

だけど1つだけ言えるのは俺は支配されていると言う事。

「真維とは会わない方が良さそうだな…。危険な目には遭わせれない。それに…今の俺は真維に会う資格が無い…。」

頭の中には真維の可愛い笑顔が浮かんだ。

自分の瞳から涙がポロポロと流れ落ちた。

俺は真維の事を愛してる。

なのに俺は何で…こんなに弱いんだ。

それから暫く頭痛が続いた。

強烈な痛みと田中の嫌がらせの日々。

俺の精神は崩壊した。

「良い具合になったね♪」

「これ…どうにかしてくれよ。」

またあの男が現れた。

俺は男の胸ぐら掴んで揺らした。

「キミはもう要らないよ。」

男は俺の体を強く押した。

俺は床に倒れ込みそこから意識が無くなった。

目を開けるとそこは灰色の空にスラム街のような街並みの世界だった。

「何処だよ此処…。」

「死後の世界にようこそ♪」

あの男が笑顔で立っていた。

「死後の世界…?」

俺は自分の姿と男の姿が見えた。

どうして自分の姿が見えるんだ?

「ボクの名前はガイだよ♪そしてキミはボクの従者になったから宜しくね。」

従者?

「あぁ、俺は恭弥だ。んであの女を殺せるなら何でも良いけどな。」

もう1人の俺がこのガイと呼ばれる男と会話してる。

そして真維に殺意を持っている。

もしかしてあの時思ってしまった感情がもう1人の俺を作ってしまったのか?

止めなくては…!!

暫くしてガイが奇襲を掛けると言ってある住宅地に向かった。

目の前には5人の男女が居た。

中には真維の姿があった。

長い髪は短く切られていた。

もう1人の俺を封じ込め真維には攻撃させないようにした。

そしてガイに見回りの任務を受け俺は雨の降る中を歩いていた。

目の前には真維の姿があった。

俺はまたもう1人の自分が暴走しない様にに止めた。

もう真維を傷付けたく無い。

真維を愛しているから。


空蛾side


「俺は最低なんだ…。本当は真維に合わせる顔が無かった。」

そう言って恭弥は手で顔を抑えた。

恭弥を苦しめてしまったのはあたしで…。

ガイが禁忌の種を恭弥に植え付けた事で精神が崩壊してしまった。

「俺達が戦わなきゃいけない運命なら俺は…。」

恭弥は自分の体に手を当て炎を出した。

「恭弥!!?」

「ヴッ…真維離れろ!!」

恭弥はあたしの体を押した。

恭弥は苦しみながら炎に包まれていた。

やだ…やだ。

「真維…やめろ!!」

あたしは恭弥に抱き付いた。

「嫌だ!恭弥に痛い思いをさせたく無い!!」

自分の体が焼けて行くのが分かる。

「真維…。」

「え?」

恭弥はあたしの顔を優しく掴みキスをした。

「真維…。愛してる。」

「あたしも愛してる…恭弥。」

「生まれ変わっても俺は…真維を探して…また、一緒になりたい。」

「うん…。」

「迎えに行くから…。待ってて欲しい。」

「うん…待つよ。いつまでも待つから!!」

そう言うと恭弥は微笑みながらあたしの体を押した。

炎と共に恭弥は消えて行った。

残されたのは光り輝く欠片だけ。

小瓶の中にある欠片達が残りの欠片を吸い寄せた。

欠片が1つに集まり小瓶は割れた。

手の平で輝くガラスの薔薇。

雨が火傷した肌に染み渡る。

体の痛みと心の痛みが重なり合う。

あたしはガラスの薔薇を抱き寄せた。

言葉にならない思いを抱きながら。

思いに焦がれて…。


恭弥side


大切な人が傷付くのなら俺が傷付く。

真維と俺が幸せになれない運命だとしても。

俺は真維を探してまた恋に落ちたい。

思いに焦がれて…。


  ー どんなに傷付けあっても愛してる  ー

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