青藍とガイ③

俺は素早く鎌を出しガイの首に刃を当てた。

「お前、それ分かってやってんだよな?」

「…。」

「答えろガイ!!分かってやんだんだよな!?」

「あ、あれ?ボ、ボクは…えっ?」

ガイは自分の周りを見渡した。

「うわぁぁぁぁ!!!な、なな、何!?!?」

ガイは持っていた心臓を床に落とし錯乱状態に陥った。

何だ?

さっきまでのガイじゃない?

どうなってんだ?

「青藍!!ガイ!!」

杖に跨ってこちらに雫が向かって来る。

雫がガイの様子を見て驚いていた。

「ガイ。」

「ひ、姫…。ボ、ボク…。何が何だか分からないよ…。」

ガイが雫に近寄ろうとした。

ボトッ

何かが床に落ちる音がした。

床を見ると右の手首が落ちていた。

「う、うわぁぁ!!ボクの手が!!」

ガイの右手首が腐りかけていて、ドクドクと溢れる血を抑えた。

どうやらガイの右手が落ちたらしい。

「姫!!どうして!?ボクの右手が取れたの!?」

「禁忌の代償よ。」

「禁忌って何?ボクは何もしていないよ!!」

ガイの反応を見て俺は違和感を感じた。

もしかしてコイツ…。

「おい。しず…」

「貴方は人の名前を食べた。人の形を得て狼では無くなったの。」

俺は雫に話をする前に雫が話を進めていた。

「どういう事…?」

「狼だった貴方が名前を食べても禁忌にはならない。だけど貴方は生まれ変わり人として生き私の従者になった。人が人の名前を食べる事は禁忌に値する。そしてその代償は細胞の壊死。禁忌を重ねる事に体が腐っていくのよ。」

「そ、そんな…ボク…ボクは…。」

「雫、コイツは名前を喰ってた事を覚えていないみたいなんだ。」

「!?」

雫は驚き暫く考え込んだ。

考えを纏めた雫はガイ近付き自分の指を噛んだ。

そして自分の血を糸の様に細くし、落ちた右手を持ちガイの右手首にくっ付け糸を巻き付けた。

「右手がくっ付いた?」

「私が治したからもう大丈夫よ。ごめんなさい右手首に縫い目が残ってしまったわね。」

雫はガイの右手首を優しく撫でた。

「姫が付けた傷ならボクは嬉しい…。」

ガイは雫に抱き着いた。

「とりあえず…2人とも今日は帰れ。」

「分かったわ。ガイ行きましょう。」

「分かった。」

ガイと雫は屋敷に戻って行った。

その日以降、ガイの奇妙な行動は無くなった。

翡翠と真珠は俺に懐いてしまい何処に行くのも付いて来た。

ヒヨコみたいで可愛いけど…。

俺は自分の庭園でお茶を飲みながら読書をしていた。

「青藍!!その本は何ー?」

翡翠が俺の服の袖を引っ張りながら尋ねて来た。

「翡翠には読めない本だろ?」

「真珠にだって読めないよ!!」

「2人にはまだ難しいな。大っきくなったら読めるよ。」

俺は2人を宥めた。

すると袖ありのワンピースに白いレースの日傘をさしてこちらに向かって来る雫が目に入った。

「あ!姫様。」

「姫様久しぶり。」

翡翠と真珠は雫に駆け寄った。

「2人共、青藍には良くして貰ってるかしら?」

「はい!青藍にお世話して貰ってます!!」

翡翠は満面の笑みで答えた。

「そうか。真珠も不便はして無いかしら?」

「ま、まぁ青藍には良くして貰ってるよ。」

真珠は顔を赤らめて答えた。

「ふふ、その顔を見たら安心したわ。ちょっと青藍とお話ししたいから席を外してくれる?」

雫がそう言うと真珠は翡翠の手を取り席を外した。

「ガイはどうした。」

「寝てるわ。」

「話ってのはこの間の事だろ?」

「青藍、気付いて居るんでしょ?」

「ガイの話だろ?」

雫は真面目な顔した。

「ガイがMADAに飲み込まれつつある。」

「やはりか…。」

MADAに飲み込まれた魂は俺等は狩らないといけない。

殺意の魂はこの世界を汚す存在になる。

俺達はその存在を処分しなければなら無い。

それがこの世界の秩序。

「お前の体は大丈夫なのか?」

そう言うと雫は長い袖を捲り上げた。

白い右腕に黒い棘が腕全体に巻き付いていた。

「棘がこんなに広がって…!?ガイの奴…名前をまた食べたのか。」

「えぇ…。禁忌を3回も犯している。そして壊死した部分を私が治してる。」

「お前、何で俺に黙ってた。」

俺がそう言うと雫は黙ってしまった。

「分かってるだろ?この世界の秩序を守るのが俺等の仕事だ。従者が禁忌を犯せば主人であるお前にも罰が降る。」

「分かってるわ。」

「だったら…雫。ガイが本当に飲み込まれたらどうすんだ…いや、もう既に進行が始まってる。早く手を打た無いとどうなるか分かるだろ?」

「…。」

「完全にMADAに染まっちまう前にガイを殺せ。」

雫に残酷な事を言っているのは分かる。

愛している人を殺せって言っているんだ。

だけど俺達はこの世界を管理している。

この世界の秩序を崩す事は許されない。

「貴方に名付けの力を分ける。」

「!?」

「貴方に私の力を分ける。そして…翡翠と真珠の主人になって貰う。」

「お前の力を殆ど俺に分けるって事は…。」

「私にガイを殺す事は出来ない…。貴方に力を分けて私も一緒に死ぬわ。」

「それで良いんだな。」

「えぇ。」

「分かった。」

「始めましょうか。」

そう言って雫は杖を出し俺も自分の武器の鎌を出した。

雫は自分の指を噛み血を俺の鎌に垂らした。

そして鎌だった武器が杖に変わった。

「青藍には面倒をかけるわ…。」

「いつもの事だろ?俺は雫が変わって嬉しかったよ。」

「そう…青藍。少し屈んで。魔力を分けるわ。」

俺は少し屈み雫が俺に口付けをした。

俺の体に雫の魔力が流れて行く。

「何で…、?」

「「!?」」

振り向くとガイが居た。

「何で何で何で何で!!!!ボクの事愛していなかったの!?」

「違うわ!!貴方の事を私は…!!」

「嘘だ嘘だ嘘だ!!!!本当は青藍の事が好きだったんだ!!だから青藍に姫の魔力をあげて口付けをしたんだ!!」

「ガイ落ち着け!!」

ガイの体から黒いオーラが漂い、周りの木々が黒いオーラに触れ枯れてゆく。

MADAに飲み込まれた瞬間だった。

「まずい!!」

俺はガイを止めようと鎖を出しガイに巻きつけようとした。

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!ボクの姫だ!!ボクを愛してくれない姫なんて要らない。」

ガイの右胸の赤い薔薇が黒くなって行く。

「こんな世界は要らない。あはははははは!!!」

ガイの纏うオーラがこの世界を包んだ。

建物や水が枯れ世界の色が灰色に染まった。

そしてガイの傷口から血が流れ落ちる。

「ガイ!!」

「あははは!!!」

ガイと雫を繋いでいた赤い鎖が千切れた。

「従者の契りが切れた!?まさか自ら契りを解いたのか!?」

ガイの持っている赤色の鎌が黒く染まった。

「ボクがこんな世界を壊す!!青藍、お前を殺すよ?」

俺に向けれたのは殺意であった。

ガイがMADAに飲み込まれてしまった。

雫を俺の後ろに隠し、俺は杖をガイに向けた。

「罪人ガイ。お前を俺は殺すよ。」

MADAに飲み込まれた魂を殺す事が俺の仕事でもあった。

例えそれが誰かの愛する人でも俺は殺す。

自分の大事に思っている人でもー。

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