欠片と覚悟
僕の言葉を聞かずに、少女は僕の顔をジッと見つめた。
「まさか、本当に自殺してくるとはな」
少女の言葉を聞いて、思わず反応してしまった。
「え?」
「普通さ?夢の事を信じて自殺する奴なんて、いないぞ」
確かに…。
自分の見た夢を信じて自殺するって、おかしいよな…。
今、思えばとんでもない事をしたと思う。
「まぁ、ここに来れた事が成功したと言えるな」
「じゃ、じゃあ、ここは…」
僕の言葉を聞いた少女が、口を開けた。
「そうだ、死後の狭間の扉だ」
「本当に、これたんだ…!ん?死後の狭間の扉…?」
少女が言うには、僕がいる場所は違う場所なのか。
「MADAの真意に選ばれたのだから、来れるに決まってる」
少女はそう言って、扉に近寄った。
「MADAの真意って、一体…、何?そこに行けば、星はいるのか!?」
「MADAの真意はいずれ分かる。それは、お前が自分自身で分からないといけない事。星と言う少年を本気で助けたいか?」
「どういう事!?そんなの当たり前だろ!?その為に、僕は自殺をしたんだ」
そう言うと、少女は静かに僕を見つめた。
少女の言っている意味が分からない。
MADAって何だ?
分からない単語の所為で、頭の中がぐちゃぐちゃになっている。
目の前の光景でさえ、理解が追い付いていないのに…。
「そうか、お前の意思が固い事は分かった。この扉を潜れば、お前は奴の欠片を49日までに、集めないといけない」
「欠片って、一体…。それに、49日までってどういう事?」
少女は溜め息を吐き、言葉を放った。
「肉体のまま死後の狭間に行けるのは、MADAに選ばれた者だけだ。MADAに選ばれなかった者は、欠片になって、死後の狭間の世界で散らばってしまう」
「そ、それから?」
理解が追いつかないから、説明だけ進めてもらおう。
「人間の世界でも、49日と言う言葉があるだろ?49日はまだ、魂が天国か地獄に行くのか分からない状況だ。つまりは、体から魂が離れているだけの状態の事だ」
「じゃあ、49日を過ぎたら…。」
「お前の体から抜けた魂は、49日までに体に戻らないと、お前は死ぬ。今のお前は、仮死状態と言う事だ」
今の僕は、本当に死んでる訳じゃないって事…?
じゃあ、ここにいる僕は体から抜けた魂って事?
あの、漫画とかであるような…感じか。
「ん?ちょっと待って!そもそも、MADAって何!?」
今度は深く溜息をついて面倒臭そうに話した。
「MADAって言うのはつまり、MADAへの殺意を持った者が肉体を持てるんだ。お前は、星に自殺をさせたMADAに殺意が湧いただろ?それが、MADAに選ばれた事だ」
「殺意…。」
確かに、あのサイトに書かれていた殺意って事か。
そうか、そう言う事なのか…。
ふと、星の部屋にあった塗り潰された写真の事を思い出した。
星は確かに、誰かの事を恨んでいたのは確かだ。
謎が深くなるばかりだ。
一つだけ分かっているのは…、星が僕に隠し事をしてる事だ。
僕が黙っていると、少女は様子を見ながら話し出した。
「続けるぞ?星はMADAに選ばれなかった。だから欠片にされ、死後の狭間の世界にばら撒かれたのだ。MADAに選ばれた者は、その欠片を集められる権利が持てる。その証に、右手の甲に記されているだろう」
言われた通りに右手の甲を見ると、十字架が刻まれていた。
こんな刻印、今までなかった。
今、目の前で起きている事は紛れもなく現実。
触れてみるが、指で擦ってみても消えない。
刻印されているのかな…、これ?
じゃあ、星を助けられるのも事実だ!!
「もしかして、その欠片を集めれば、星は助かるのか!?」
そう言って、僕は少女に近寄り肩を揺すった。
すると、少女は僕の頭を叩いた。
ゴツンッ!!
「いってぇ!」
あまりの痛さに僕は頭を押さえながら、座り込んだ。
「落ち着け、最後まで聞け。お前の言った通り欠片を集めれば奴は助かる。そして、49日までに集める事が出来れば、この死後の世界の狭間を管理する死神に、願いを叶えてもらえる」
「死神…」
「欠片を集める権利を持つ者は、その欠片の人物と深い中にある人物しか得られないのだ。選ばれし者は現実では、意識不明で眠っている状態だ。まだ生きている状態だ。だが…」
シュンッ!!
少女は手のひらから鎌を出し、僕の首に当てた。
スッ。
「それは、死神に生かされている状態なんだ。魂が抜かれない期限が49日だ、妾はお前の監視官なのだ。この扉を潜れば、もう後戻り出来ない。まだ扉を潜っていない今は、後戻り出来る。どうする?」
49日…。
短い日数の中で、星の飛ばされた欠片を集めなきゃいけない。
でも、集められたら星は助かる。
あの日常に戻れるんだ。
星、僕はお前を失いたくない。
そう思い僕、は少女の目を見つめた。
覚悟はとっくに出来ている。
じゃないと、わざわざ自分の首を切って死なない。
「答えは1つだよ。潜るに決まっている!その死神に頼めば、時間を戻せるかもしれないじゃないか!自殺をする前に時間を戻してもらう。覚悟は決まっている。僕は潜るよ、そして星を助ける」
そう言うと、少女はクスッと軽く笑い、鎌の刃をしまい手のひらに戻った。
「さぁ、行こうか。哀れな欠片を集め、願いを求めて行こう」
大きな扉が開かれ、僕は少女と共にその扉に向かった。
これから始まる死後49日の世界がー。
第一章 完
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