第8話 ターニングポイント

 クリスマスイブを何度繰り返しても、彼女を死の運命から守り抜く手立ては、僕にもあの子にも一向に浮かばなかった。


 これまでと違い、場当たり的な対処をしても彼女は死んでしまう。


 歩く道を変える程度じゃ、何の効果もない。どこに居ても、彼女は決まって死んでしまうのだ。


「もしかしたら、ターニングポイントなのかもしれません」


「ターニングポイント?」


 繰り返している内に、あの子は何かに気づいたようだ。


 確証はありませんが、と前置きをして、あの子は一つの仮説を披露した。


「たぶん、今日はあの方の人生を大きく左右する日……人生の丁字路なんだと思います。あの方が死ぬのはきっと、右にも左にも行かず真っ直ぐに進むから。左右どちらかに曲がってしまえば、今日の死は回避できるはずです」


「左右どちらか、って……」


 具体的にどうすれば良いのだろう。彼女の人生を大きく左右する今日、何をすれば彼女は死の運命を乗り越えるのだろうか。


「決まっているじゃないですか。告白しちゃえば良いんですよ」


 彼女は何とも単純に、あっけらかんと言い放った。


「先輩、あの方のことが好きなんですよね? だったら、告白しちゃいましょう!」


「え、いや、だけど、そんなことで……?」


 確かに僕は彼女が大好きだ。彼女のことを誰よりも愛していた。今まで幼馴染だからとあまり意識していなかったけど、彼女を初めて失った時、自分が何よりも彼女を想っていたことに気が付いた。それから繰り返すたびに、彼女への想いは強くなり続けて行った。


 その思いの丈を伝えたとして、彼女の人生は変わるだろうか。本当に、死の運命を乗り越えられるのだろうか。


「物は試しですよ、先輩」


「でも……」


「大丈夫ですよ。先輩が考えている以上に、告白は人生を変えるんです。今までの価値観を破壊して、新たな自分を気づかせてくれるんですから」


「そんなに?」


「そんなに、です」


 僕よりも人生経験が長いだろうあの子の言葉には、実感がとても籠められているように感じられた。あの子がどんな告白をしたのか、されたのか、僕にはわからないけど、やってみる価値は確かにあるかもしれない。


 本当は彼女が死の運命を乗り越えた時に告白しようと思っていた。それが少し早まっただけだ。何ら気負うこともないし、答えが何であれ、彼女を死の運命から救うまで、繰り返しを止めるつもりは一切ない。


「わかった。告白してみるよ」


「当たって砕けろ! ですよ、先輩!」


「砕けたくないなぁ……」


 あの子に背中を押されて、およそ八度目か九度目のクリスマスイブ、僕は彼女に告白をした。


 僕の告白が彼女の人生を変えたのか、結局のところそれは定かじゃない。


 だけどその日、彼女に死の運命が訪れることはなかった。

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