ふくぼんっ!悪ふざけでかけられた催眠術で、好きだった男の子への好感度が反転してしまう女の子達のお話~なのに、なんでアンタひとりだけが…!~
くろねこどらごん
第1話
「気持ち悪い、なんであなた生きてるの?」
「あんたの妹とか最悪。さっさと死んでよ、ゴミクズ」
「目障りなので、その、今すぐ消えてもらえると助かります…」
―――なんでこんなことになったんだろう
三者三様の痛烈な罵声を浴びながら、俺、暁和人はふとそんなことを考える。
つい先日まで仲が良かったはずの幼馴染、義妹、委員長。彼女達はどうして俺をこんな目で見るのだろう。
やや距離を開けつつこちらを取り巻く三人の女の子の目には、俺に対する隠しきれない嫌悪と侮蔑、蔑みと言ったあらゆる憎悪の感情が込められていた。
「なにボーッと突っ立ってるのよ、クズ。なんか言ったらどうなの」
「あーあ、京香ちゃんも困ってるじゃん。アンタさぁ、ほんといい加減にしてよね。どれだけの人に迷惑かけてると思ってんのさ」
「……やはり人の言葉が通じないくらい、可哀想な人なんでしょうね。哀れです…」
黙っていると更なる罵声が飛んできた。
だけど口を開けばもっとひどいことを言われることがわかってるから、俺はなにも言い返すことすらできない。ただ黙って彼女達の気が済むまで耐えることが最適解であることは、この数日間の経験から学んでいたのだから。
(本当に、なんでこんな…)
いや、皆がこうなった理由はわかっているんだ。
おそらくは時間が解決してくれるだろうことも、頭の中ではちゃんとわかってる。
「あのさぁ、だからなんか喋れって言ってんの!」
だけど、感情が納得してくれない。
なんで俺がこんな理不尽な目に合わなくてはいけないんだと憤る自分が確かにいて、目の前の女の子達が俺の知っている彼女達ではないと、強烈に訴えかけてくるんだ。
今まではそんな自分に必死に抗っていたけど、心は既に限界だった。
「……ごめん」
決して皆が悪いわけじゃなく、むしろ被害者なんだから、こんなことを考えてはいけないのに。
ただ頭を下げてこの場をやり過ごそうとする自分が、ひたすら情けなくて、悔しくて仕方ない。
「はぁ?それだけ?もっと気の効いたことも言えないの?ほんとアンタってやつは…」
(俺は、皆が元に戻ったとしても……)
また前と同じ目で、見ることができるんだろうか。
その自信がまるでない。だって―――
「これだから関わりたくもないっていうのよ…本当に、アンタみたいな男に生きてる価値なんて―――」
「や、やめてよ皆!和人くんをいじめないでよ!」
以前と変わらず俺と接してくれる女の子が、俺の隣にまだいてくれたんだから。
「狭霧…貴女まだそいつの肩を持つの?いい加減目を覚ましなさいよ」
「目を覚ますのは皆のほうだよ!早く元の皆に戻ってよぉっ!皆和人くんのことが大好きだったじゃない!」
俺を庇うように前に立つのは、同級生のもうひとりの幼馴染。朝野狭霧だ。
彼女だけは変わらないでいてくれたことが、俺にとって唯一の救いだった。
「狭霧ちゃん、言っていいことと悪いことがあるよ。誰がこんなやつのことなんか…!」
「静乃さんに同意します。私がこの人のことを好きだったなんて、笑わせないでください…!」
「皆たまたまさやかちゃんの催眠術にかかっちゃっただけだって、何度も言ってるのに!どうしてわかってくれないの!」
だけど同時にそれが辛くて、申し訳なくもあった。
変わらなかったからこそ、あんなに仲が良かった友人同士でこうして対立しあうことになってしまったのだから。
涙ながらの訴えさえ通じないほどに変わってしまった京香達を見つめながら、俺はぼんやりと始まりとなったあの日へと想いを馳せるのだった―――
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