第35話 マンガ同好会

「……で?」


 ところ変わって。

 空き教室。

 私は三人の女子生徒と向かい合っていた。

 多分、見た感じ全員一年生。

 見覚えは、何となくある。

 さっきこちらに突撃してきた女子に関しても、そう言えば同じクラスだった。


「瑠璃川さん。なんで私をこんなところまで連れて来たんですか?」

「あ、私の事知ってるんだ」

「いや、同級生なんだから知っているに決まっているでしょうが」

「私、自慢じゃないけどクラスの半分は名前覚えていないけど」

「……へえ?」

「それで、今東さん」

「私もその半分に含まれているじゃないですか」


 この女……


「もう、よもぎちゃん。そう言う冗談は顔だけにしておきなさいって何度も言ったでしょう?」


 そう彼女――瑠璃川よもぎに突っ込みを入れるのは、これまた同級生の鶴木まこと。

 メチャクチャ豊満な胸が特徴だ。

 ていうか突っ込みが結構辛辣だな……


「そんな風に言う子は、めっ、なんですからね?」

「いや、そんな風に言ってもおぎゃるのは男子くらいだからね?」

「あら、数年前までお母さんのおっぱい飲んでたでしょ、貴方」

「同い年だが?」

「……ッ!!!!」

「おい待て何故そこで衝撃を受けるんだまこと君?」

「さっきも言ったけど、冗談は顔だけにしてね?」

「私がロリ顔なのを気にしているのはまことも知っているでしょうが。むしろ知ってて言ってんのかこら」

「はあ……」


 二人のコントを聞き、痛そうに額に手を当てるのは、こちらは私は知らない子だった。

 白衣を着た、小麦色の髪をハーフサイドアップにした少女。

 かなり小柄。

 しかし表情はこの中で一番理知的である。


「すまないね、夜月さん。この子達がこういう調子なのはいつもの事なのだが、大目に見てやって欲しい」

「……いきなりこんなところまで引っ張ってこられて、そこから更に甘く見ろというのはちょっと無理がある気がしますけど」

「まあ、それは一理どころか万里あるとしか言いようがないが」

「それで、貴方達は一体どんな集団なんですか?」


 私の問いに、絶賛頬をゴムのように引っ張られていたよもぎは「よくぞ、ひいてくれた!」と勢いよくこちらに振り返った。

 結果、頬が思い切り伸びる結果となり、つまりはメチャクチャ痛そうだった。


「い、イタイ……」

「で、貴方達は一体どんな集団なんですか?」

「無視かいな」

「私達はマンガ同好会――名前通りマンガを日々描いている」

「マンガ……?」


 そんな部活動、あったんだ。

 ていうかそういう部活動は何となくイラスト同好会に合併されそうな気がするのだが、違うのだろうか。


「金剛さんの考えている事、良ーく分かるよー」


 と、瑠璃川さんが言う。


「そんな部活動、あったんだーって考えているんでしょ」

「まあ、今年出来たばかりの部活動だしね」

「ていうか、私達が作った訳だからな」

「……ふーん」

「いやー、イラスト同好会とは馬が合わなくてねー。それで結局自分達で設立したって訳」

「許されたんだ、それ」

「許されてないんだな、これが」

「え」


 何言ってんの、この人。


「だから、部員が集まらなくて部活動設立を学校側が許してくれなかった。だから今は実質非合法部って感じだね」

「非合法って言って良いんですか?」

「校則に縛られていない自由な存在とも言う」

「いや、そこは縛られるべきでしょう」

「校則に、拘束。なんて」

「はっ倒しますよ?」

「ともかく。今はとりあえずイラスト同好会に所属しているけど、ゆくゆくは下克上を目指してこうして徒党を組んでいるって訳」


 メチャクチャな事を言う。

 ……メチャクチャな連中なのだろう。

 多分、頭のネジが足りてないと見た。

 特にこの、瑠璃川という奴。

 こいつには関わらない方が良い。

 そう思った私はとりあえず顔が引きつらないようにしつつ愛想笑いを浮かべながら、脱走を試みる事にした。


「と、りあえず。貴方達が頑張っている事は分かりました。努力が実ると良いですね、それじゃあ――」

「それで、金剛さんには私達に協力して欲しいの!!」


 しかし、回り込まれてしまった!!

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