書いたやつ

ぐぅ先

【短編小説】めでたい頭

 とある学校の廊下にて、女子生徒二人で追いかけっこをしている。その追いかけっこはどこか一方的なものであるように見えたが、後ろにいるボーイッシュな女子生徒は、その青い髪を揺らしながら、前にいる女子生徒に向かって叫んだ。


「カルミ、ボクと付き合ってくれー!」


 カルミと呼ばれた前にいる女子は、いわゆる『ギャル系』で、くるっとした銀髪の持ち主であった。そしてカルミは右足でブレーキをかけてスピードを落としながら、少し残った勢いを利用してさっと振り向いた。


「ざけんな色ボケ野郎!」

 それと同時に床を蹴り、ボーイッシュ女子に殴りかかる。


 ドゴォッ……! 音が響くように腹部にパンチが入る。そして後ろのボーイッシュ女子は、「ぐふっ」と呻きながらその場に崩れ落ちた。だが、倒れながらも気力を捨てておらず、上半身を起こしながら言葉を絞り出す。


「カルミ……。君の愛が欲しい……。」

「うるせぇ!!」


 ドカァッ! 続いて蹴りが入る。そしてさらに蹴り、蹴り、蹴り。カルミはそのまま、ボーイッシュ女子をボコボコにした。その様子は、強者が弱者を虐げているというよりは、やや怯えながら抵抗しているように見えた。


 合計で十回ほどの蹴りが入り、ついにボーイッシュ女子は、起き上がることなく伸びてしまうのであった。

 (少々メタ的な追記をさせていただくと、この一連の流れの中で大きなケガは発生していない。この時空においては、頭を殴ってもタンコブひとつで済む程度、だと思っていただければさいわいである)


「ったく。アイツ、『めでたい頭』しやがって……。」


 一仕事終えたような感覚で、カルミは独り言を呟いた。そして、やれやれ、といった調子でカルミは歩き去るのであった。



 ……だが実はここで、一連の様子を見ている者がひとり。


「……むむ?」


 先ほどのハチャメチャな場面を偶然見ていた者は、シュニカという名の女子生徒。シュニカは先ほどのやりとりの中でどうしても気になる部分がある様子で、ひとり学校の中を歩いていた。


「『めでたい頭』って初めて聞いたけど、どういう意味なんだろう……」


 呟きが口から漏れる。彼女にとって聞きなれない言葉があったが、咄嗟のことで言葉の意味を聞くことができなかったという訳だ。シュニカは仕方がないので、頭の中で知識を総動員させて考えることにした。


 ……ここでは、彼女の頭の中を説明していくことにする。


 『頭』になにかしたいってことだよね、たぶん。

 えっと、『めでたい』……。例えば、お腹すいたらごはん食べたいし、眠たかったら寝たい。食べたい……食べる。寝たい……寝る。

 あ、言葉の中にある『たい』を『る』にすればいいのかな? ということは……『めでたい』は『めでる』?

 じゃあ『めでる』ってどういう意味なんだろう?


 ………………。


「……分からないや。もう誰かから聞こうっと。」


 結局意味を推理することはできなかったので、誰か知っている人がいないか聞くことにしたのであった。

 しかし「めでたい」の他に「めでる」というもうひとつの手がかりが生まれたので、なにもわからない時よりは聞きやすいだろうと、シュニカは少し安心していた。

 ……まさか「めでたい(おめでたい)」と「めでる」で、ほぼ真逆の意味になるとは知る由もないのだが。


「さっきナオちゃんもいたけど、まだいるかな? 聞いてみよっかー。」


 ナオとは、先ほどボコボコにされたボーイッシュ女子のことである。カルミからは色ボケ野郎だのなんだの言われていたが、ナオの国語の成績はかなり高いこともあり、シュニカもたまに勉強を教わるくらいであった。


 こうして、シュニカは『めでたい頭』の意味をナオに聞きに行くため、先ほどナオが倒れていたところに戻ることにした。



 シュニカが来てみると、ナオは頭をさすりながら立ち上がったばかりの状態だった。とはいえナオの状態は『割といつものこと』なので、シュニカは特になにも思わずにナオに声をかける。


「ナオちゃーん。」

「いてて……。……おお、シュニカじゃないか。ボクになにか用かい?」


 ナオからしても『割といつものこと』なので、何事もなかったかのように会話が続く。肉体的にも精神的にも、とても打たれ強いのだ。


「実は『めでる』って言葉の意味を知りたくて……。」


 そんなシュニカの発言を聞いたナオは、得意げな顔をしながら回答する。

「『愛でる』? ……ほほう! それはボクの得意分野だよ。」

「ホント?」

「本当だとも。いいかい、『愛でる』とは愛。愛を持って接するということさ。」

「おおーっ!」


 シュニカは答えを得た気分になったが、『愛』という言葉はいささか抽象的なものだった。一瞬理解できた気がしたが、理解できなかったことを理解したシュニカは、ナオに聞き返した。


「……つまり、どゆこと?」

「具体的には撫でてやったり、抱きしめてやったりすることだ。」

「そっかー、なるほど。……あ、じゃあ、『頭をめでる』だとどうなるかな。」

「つまり、『頭をナデナデする』ということだろうな。」

「やっぱりそっか、なるほど! 教えてくれてありがとう!」


 ようやくシュニカも納得できる答えを手に入れた。だが実際には、ものの見事に『めでたい頭』と『頭をめでる』ですれ違ってしまっている。そして当然、誰もそのことに気付けていない……。


 そのままナオはいつもの調子で、シュニカを口説くように言葉を紡ぐ。


「ふっ……。なんならキミの頭も『愛でて』やりたいところなんだがな。」

「そうなの? ふーん。」


 ……シュニカはナオの言葉のニュアンスを理解できていなかった。


「しかし、なんでボクのところに聞きに来たの?」

「それなんだけど、カルミちゃんがさ」

「ほう、カルミがなんて?」


「ナオちゃんの頭ナデナデしたいって言ってたよ」


 シュニカの発言に驚き戸惑い、ナオは一瞬硬直した。


「……!? な、な、それは本当なのか!?」

「うん。『頭』を『めでたい』って言ってた。」


 ナオはその言葉をすぐに理解し、いてもたってもいられなくなった。

「な、なんだってー!! こうしちゃいられない、すぐ会いにいくぞカルミ!!」


 タッタッタッタッタ……。ナオは先ほどカルミにボコボコにされたことも忘れて、ものすごい勢いでカルミを探しに走り出した。……良い子は廊下で走らないようにしよう。危ないので。


「行っちゃった。……せっかくだから着いて行ってみようっと。」

 シュニカは暇だったということもあり、面白半分で着いていくことにした。



 ナオは先ほどから三分も経たない内にカルミを見つけ、叫びながら走り寄った。

「カルミぃぃぃぃ!!!」

「……げっ。」


 ナオが目標を捕捉してからおよそ一秒。カルミが嫌な顔をしたり、手を振りほどこうとしたりする間も無く、ナオは素早くカルミの手を握る。そして息を荒くして問い詰める。


「カルミ、聞いたぞ! 実はボクのこと好きなんだろう??」

「……は? 頭大丈夫か?」

「そうそう。大丈夫じゃない。だから撫でてくれ!」

「……おい、ついにイカレたのか? いや、元々か。」


 さっきボコボコにしたはずなのに。カルミはナオがなにを言っているのか理解できなかった。なので、ナオの態度にあっけをとられてしまっている。


「さあ、撫でたいんだろう? ほれほれ!」

 そんなカルミのことはお構いなしと、自分の頭を差し出すナオ。じわりじわりと頭をカルミの顔に近づけてゆく。


「いや、ホントにイカレちゃったんなら、これ以上殴りたくないんだが……。」

「さあさあ、遠慮しないでおくれ!」


 ついに、ナオの頭はカルミの顔と接触を迎えた。


「おい、近づけるな。ぐりぐりするな。」

「さあ、いいじゃないか。ボクとカルミの仲だろう。」


 いくら急な出来事とはいえ、流石にカルミも冷静な思考を取り戻した。


「……それ以上は本当にやめろ。」

「さあ、さあさあさあ!」


 だが、一向に収まる気配がない。徐々にカルミのイライラ度が増していく。

 そしてカルミは、頭が冷えて冷静になったばかりの状態から、一気に沸騰したかのように怒りを爆発させた。


「……やめろっつってんだろーがぁぁぁぁ!!!」


 ドゴォッ……!! カルミは思いっきり、ナオの頭を、全力で殴った。


「ふぐああああっ!!」


 蓄積された大量の怒りの乗った一撃が入る。

 とてつもない威力にナオは耐えきれず、たまらずバタリと倒れた……。


 ……そこからほんの少しだけ離れた場所。柱の影から顔を出しつつ二人のやりとりを見ていたシュニカは、再び混乱してしまうことになった。

「あれれ……? 『めでたい』って、ホントは『殴りたい』ってことだったのかな……?」


 一方で、倒れたナオはまだ意識を保っていた。そしてそこで顔を上げるとシュニカの顔が見えたので、ゆっくりと這いながら手を伸ばし、言葉を振り絞った。


「しゅ、シュニカ……。き、君は……、愛、……愛、を……。」

「………………。」


 これも『割といつものこと』で見慣れている光景とはいえ、自分の元に向かってくるのは初めてのこと。流石にシュニカもぽかーんと呆気にとられるのであった。


「………………はっ!?」


 だがこの時、突然。シュニカの脳内にあるシグナル伝達経路が活発に動き出した。

 ……ナオはあの時、確かにこう言ったのだ。


 “ふっ……。なんならキミの頭も『めでて』やりたいところなんだがな。”


 ……無意識に、脳内にナオの言葉が再生される。どうして急に思い出したんだろうと、シュニカはまだよく理解できなかった。だが、よくよく考えてみると。


 「『めでる』の意味が『殴る』だってことは……、私のことも『殴りたい』ということ……?」


 つまり……、『ナオはシュニカを殴りたい』。

 ………………。


「……い、いやあああああああああああああ!!」


 怯えるシュニカ。這いながら手を伸ばすナオは、客観的には助けを求めているようにしか見えないが、『答え』を得てしまったシュニカにとっては恐怖の対象でしかなかった。

 そうして、シュニカは頭を守るように手で押さえながら走り去っていった……。



 ……あれから三日が経過した。学校の昼休み中、教室内でナオと、もうひとりの女子生徒が会話をしている。ナオは愚痴をこぼしているような様子であった。


「……聞いてくれよ、エツコ。最近カルミには殴られるし、シュニカには逃げられるんだ。」

 『エツコ』と呼ばれた女子生徒は黒みがかった紫色の頭髪であり、どことなく大人びた雰囲気が感じられる見た目である。


「カルミちゃんはいつものことだけど、シュニカちゃん? アナタ、なにしたの?」

「……覚えがない。」

「典型的な加害者意識ね。」


 エツコは話に挙がった二人とも交友関係があり、それなりに彼女たちのことを知っている。ゆえにカルミのことは『割といつものこと』だと知っているのだが、シュニカが今までナオの口説きを嫌がっていなかったことも知っている。よほどのことがあったのだろうと推測できたが、ナオに悪びれた様子はない。エツコは懐疑的な目でナオを見る。


「……本当だ! 信じてくれ!」

「本当に覚えが無いの?」

「ああ。ボクが近づくだけで、頭を守るようにしながら逃げていくんだ。」

「頭を守る? まさか殴ろうとした訳じゃ……。」

「そんなハズないだろう!? むしろ愛でてやりたいくらいだ! というか、実際そう伝えた!」


 ナオは先日、シュニカが『愛でる』の意味を聞いてきたので、それは撫でるというような意味であるということ、そしてついでにシュニカのことを愛でたいと伝えたと説明した。

 それを聞いてエツコは推理する。


「……もしかして、もしかしてだけど。」

「お、なにか分かったのか!?」

「それ、撫でられるのが照れくさくて嫌がってるだけじゃない?」

「……へ? そうなのか?」


 きょとんと口を開けるナオは、思わず聞き返した。


「いわゆるツンデレみたいなものじゃないかしら。だって、それ以外に逃げる理由がある?」

 思春期にありがちな、他人の好意から逃げてしまう衝動。シュニカが逃げる理由は、まさしくそれのことではないかとエツコは考えたのだ。


「そ、そうか……? いや、そうかもしれないな……。」

「ふふふ。シュニカちゃん、やっぱりカワイイわぁ。」


 エツコはどちらかというと、他人をイジって愉しむタイプの人間である。シュニカは天然ボケ的な子どもっぽいキャラということもあり、エツコのお気に入りのひとりなのだ。

 そのシュニカが思春期を迎えたのかと、どこか姉のような目線で嬉しく思うエツコであった。余計なお世話である。そして、シュニカのことをさらに考え、効率的に『イジる』にはどうすればいいか思考を巡らせていく。はた迷惑なことこの上ない。


「……あ! いいこと思いついた。」

「お?」


 ナオは食いつくように身を乗り出す。


「いっそのこと、ちょっと強引にでもナデナデしてあげるのはどうかしら?」

「というと?」

「カルミちゃんは違うけど、普通女の子同士なら、頭を撫でるくらいじゃそこまで嫌がらないじゃない。」

「そうか? ボクは誰からも逃げられやすいんだけど……。」

「……あくまで一般的にね。」


 ナオは学校中の女子生徒ほぼ全員に対して、馴れ馴れしく接している。しかも件数が多いうえに、同じ相手を何度も撫でようとするほどであった。なので、失敗の数もそれなりであるというわけだ。


 ……エツコは言葉を続ける。


「だから、あえてナデナデしちゃうの。ちょっと強引にだけど、ナオちゃんがナデナデの魅力を伝えてあげるのよ。」

「おお、つまり、反抗しても無駄なほどに愛を伝えてやればいいと!」

「まあ、オーバーだけどそんな感じね。」


 要するに北風と太陽。押してダメなら引いてみろ、ということをエツコは提案したのであった。


「そうか、いいアイディアじゃないか!」

「そう? じゃあ、せっかくだからすぐやりましょうか。段取りとしては……。」



 もっともらしいことを言っていたエツコ。だが、心の奥では……。


「あんなふうに言ったけど、私は反抗期っぽいシュニカちゃんをちょっぴりイジめたいだけなのよね。だって、ムリヤリ撫でて嫌がる姿も、カワイイじゃない?」


 ……ややサディスト的思考なだけであった。



 シュニカの席は窓際である。最近は日差しがぽかぽか心地良いため、昼休み中はひとりで座っていることが多い。今日もシュニカは、眠気を感じながらボーっとしていた。そして、そこにエツコがやってくる。


「シュニカちゃーん。」

「はっ! ……ああ、エツコちゃん。」


 目覚めながら条件反射的に頭を守るシュニカ。だが、声の主がエツコと知り、手を降ろしてガードを下げた。


「実はちょっとアナタにお願いがあってね……。」

「なあに?」


 シュニカは警戒を解き、両手を机の上に置いていた。だがその油断している手を、エツコは優しく強く掴んだ。そして……。


「ナオちゃーん、今よー。」

「へ……? えええええええっ!!!!」


 『ナオ』の名を聞き、シュニカは身体をこわばらせ、すぐに手に力を入れて振りほどこうとした。だが、エツコの掴む手の力は強く、脱出できそうにない。

 そしてそこに、ダダダダダダ……。走ってくる音が聞こえてくる。


「シュニカぁぁぁぁ! 愛でさせろぉぉぉぉ!!」

 そう、それはナオの足音。


「!? い、いやあああああ!!」


 ……『ナオは私を殴りたい』、『ナオがやってくる』、『めでさせろ』、『つまり殴らせろ』、『こわい』、『痛い』。シュニカはこれからなにが起きるかを予測し、パニックに陥った。


「ほーら、逃げないの。」


 エツコは慌てふためくシュニカを押さえつつも、掴む両手から右手だけ離し、シュニカの頭の上に移動させる。そして、ついにナデナデを実行した。

 シュニカの赤い髪を、慈しむように優しく撫でる。


「あっ……。」

「ふふふ……。」

 二度、三度と手を動かすエツコ。シュニカの口から言葉が漏れ、エツコはこの後のリアクションに対して期待を膨らませる。


 ……それは確かに『愛でる』動きであった。


 それを見てナオは、エツコに対して憤りを見せる。

「あーっ! エツコ、抜け駆けするのか! 卑怯だぞ!」

「うふふ、ごめんねぇ。二人とも。」


 二人とは、ナオとシュニカのこと。

 エツコがナオに伝えた作戦では、ナオが撫でるということになっていた。しかし、シュニカはエツコのお気に入り。どうせなら自分の手で撫でてやりたいと思っていたのである。今回実行されたエツコの作戦は『ナオの姿を見て混乱したシュニカを撫でる』というもので、まさに作戦成功というわけであった。


「……っ。」

 そんな中シュニカは、エツコとナオのやりとりを聞いていなかった。否、聞こえていなかったと言うべきか。ひどく錯乱した状態から、頭を優しく撫でられたことにより、感情の整理が追いつかずに硬直していたのである。


 そして次の瞬間。

 ……コテン。シュニカは、エツコにもたれかかるように脱力した。


「え?」

「え?」


 エツコとナオが、二人とも気の抜けた声を発した。するとシュニカは……。


「えつこちゃんのなでなで、すき……。」


 ………………。


「え……?」

「え……?」


 シュニカの発言を心の中で反芻(はんすう)する二人。


「「ええええええええ!?」」


 思わず二人とも、素っ頓狂(すっとんきょう)な声を出した。


「ちょ……、え!? なんで!?」

 エツコはシュニカが『誰からであろうと撫でられるのを嫌がる』と思っていたので、逆に最高の安らぎを与えられるように全力で優しく撫でた。だが、最高の安らぎを受け入れられてしまったことにより、計画と真逆の結果となったことに驚いたのであった。

 策を弄(ろう)するタイプは、自分の計画が失敗すると、常人よりも慌てて心が乱れてしまいやすいものなのだ。


「シュニカ!! 何故ボクはダメでその女はいいんだぁぁぁ!!!」

 ナオもシュニカが『誰からであろうと撫でられるのを嫌がる』と思っていたが、実際にはエツコのナデナデを受け入れた。そのため、『自分が撫でるのを嫌がる』だったのかと思ってしまい、理不尽な気持ちに襲われたのであった。


 そしてエツコが驚いたことにより、シュニカを撫でる手が止まることとなった。


「……あれぇ? もっとなでなで、してよぉ……。」


 まるで甘えてくる子どものように、シュニカはエツコのほうを見る。こんな目で見られてしまっては、嫌がる仕草を見るなど二の次だ。

 エツコは嫌がる姿を見るのも好きだが、喜んでいる姿を見るのも好きなのだから。


 ナオも少しずつ、少しずつシュニカに近づく。だが、先ほどとはうってかわって、拒絶する意思は見られない。シュニカに手を伸ばしてみても、受け入れてくれそうな雰囲気だった。


 ……この場には撫でたい者が二人。撫でられたい者が一人。こうなったらやることは限られている。


「………………。」

「………………。」


 エツコとナオは目を合わせ、お互いに頷く。……そう、シュニカが望むなら。そうしようじゃないか、と。



 昼休みの終わりを告げるベルが鳴り、二人の女子生徒が教室から慌てて出てくる。

 残された『一人』は、しあわせな気持ちでいっぱいであった……。


 無論、『二人』も同じような気分であった。……ということは、言うまでもないだろうか。



おしまい

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