ド外れスキル『よく見える』 魔王を討伐したのに「お前、ただ見てただけじゃねぇか!」と勇者パーティも仕事も奪われ帝国から追放されました。うまくいっていたのは見られていたからだとも知らずに…

佐藤謙羊

第1話

 人生は配られたカードで勝負するしかない。

 でも酷いカードだからってあきらめることはないんだ。


 そんな時はハッタリをかませばいい。

 俺のカードは凄いんだぞ、って顔をして生きていけばいいんだ。



 ……人は、生まれながらにして、ひとつの『スキルツリー』を持っている。

 スキルツリーは、スキルと呼ばれる技能の集合体のことで、ようは、『持って生まれたもの』


 技能スキルは後天的にも身に付けることができるけど、持って生まれたスキルには及ばない。

 だから人はこのスキルツリーが何かによって、人生が決定づけられる。


 『魚獲り』のスキルツリーを持つ者は漁師になるし、『剣』のスキルツリーを持つ者は冒険者か軍人、または道を踏み外して野盗になる。

 まさに、『配られたカード』というわけだ。


 俺が持って生まれたスキルツリーは、『よく見える』。

 物事をよく見通すためのスキルが集まったもの。


 こんなスキルツリーを持っている者は、他に誰もいなかった。

 オヤジに教えられたとおり、ハッタリをかますにはじゅうぶんだった。


 さらに俺はエルフ族だったんだけど、俺が当時いた国ではエルフ族は珍しかった。

 そのおかげもあって俺は、『ナンバーズ111』と呼ばれる、魔王討伐のための勇者組織に属することができた。


 勇者たちはコードネームで呼び合っていて、俺に与えられた名前は『111ワンイレブン』。

 ようは、ドンケツの勇者というわけだ。


 それでも俺はがんばった。

 他の仲間たちと違って戦闘能力は無かったものの、『よく見える』スキルを駆使して自分なりに組織に貢献した。


 そして『ナンバーズ111』は魔王を倒すことに成功。

 俺は配られたカードで、ついにロイヤルストレートフラッシュをあがることに成功したんだ。


 俺の未来は光輝いていた。

 なんたって、世界を救った勇者のひとりになれたんだから。


 魔王討伐の功績をたたえ、城では凱旋式典が執り行われた。

 これは111人いる勇者を10人単位で分け、下位ナンバーから順番に、集まった国民に紹介するというもの。


 この式典で紹介されれば、いよいよ国民的ヒーローとしてのデビューが約束される。

 しかも俺は111人目なので、いわばトップバッター。


 俺は控室で着飾り、他の10人の仲間たちとともに出番を待っていた。

 窓の外からは、俺たちの姿を一目見ようと集まった国じゅうの者たちの歓声が聞こえる。


「勇者さま、ばんざーいっ! ばんざーいっ! 魔王を倒してくれてありがとう!」


 俺は彼らに何と声をかけてやろうかと考えていた。

 すると、同じ控室にいた仲間たちが、俺の前にたちはだかった。


「どうしたんだ、みんなして? あっ、もしかして緊張してるとか?」


「ぐるる……そういう所がウゼぇんだよなぁ」


 グループの中ではリーダー的存在である『101ワンオーワン』が、唸りながら吐き捨てた。

 彼の種族の特徴である、頭の上から飛び出た三角の耳をこれでもかと倒しながら。


「えっ」


「というわけでお前、クビだから」


「ええっ」


 そこからは他の仲間たちも一緒になって、俺を批難しはじめた。


「だってアンタっていつもただ見てるだけで、なにもしなかったじゃない」


「そうですよ。魔王と戦ってる時ですら、ただじっと見てただけじゃないですか」


「最後の最後は大激戦になって、祈りの力が尽きた聖女だって素手で殴りかかっていったのに、それでもお前は見てただけだったよなぁ」


「あっ、それ私です! 私もそのときすごく腹立たしかったです! なにボケッと見てんの、って!」


「それが終わって仲間が大怪我したときでも、お前なにもせずに見てただけだよな!」


「ああっ、そうそう! 私が苦しんでるのに、コイツ半笑いで見てたのよ!」


 いきなり、そしていまさらの苦情の嵐に俺は面食らったが、なんとか言い返す。


「そ、そんな、だって『よく見る』のが俺のスキルだし……」


「だからって見てるだけでいいと思ってんのかよ!」


「それにスキルにかこつけて、私たち女性陣をやたらと見てたでしょう!?」


「そうそう、スキルだとかなんとか言って、アタイのビキニアーマーをガン見してただろ!」


 セクシー美女戦士として通っていた、とある仲間の大胆発言に俺はギョッとなる。


「えっ、アタイは顔騎がしたかった!? な、なぜそんなカミングアウトを!?」


「ちげーよ! そういう耳が遠いところも嫌だったんだよ!」


「っていうかアンタ、都合の悪いことだけそうやって、聞き間違えたフリしてたでしょ!?」


「そ、そんなことない! 今のは本当に……!」


「エルフ族って耳がいいはずでしょ!? なのになんでそんな耳が遠いのよ!?

 そのやたらと横に飛び出てる耳は飾りかなんかなの!?」


「しかもだいたいエロい方向に聞き間違えするんだから!

 目線だけじゃなくて言葉でもセクハラするなんて最低じゃない!」


「コイツ、エルフじゃなくてきっとエロフよ! ゴミ野郎! もう死んじゃえ!」


 女性陣の不満がとうとう爆発。

 男性陣も負けじと俺を責めたてる。


「っていうか見られるだけならまだしも、その時にお前とちょくちょく目が合うのが嫌だったんだよ!」


「そうそう、アレ、『見ているぞ』アピールがすごくって、すっごく気持ち悪かったよなぁ!」


「め、目も合わせちゃダメだったの!?」


「時たまお前がモンスターに追い回されるときがあったけど、あの時はわざと誰も助けなかったんだよ!」


「そうそう! 普段は俺たちばっかりにやらせてるから、いい気味だと思ってたぜ!

 ゴミ野郎、そのまま死ね、ってな!」


「っていうかさぁ、ムカつくんだよ!

 『よく見える』なんていう『ド外れスキル』のクセして、いっちょ前に俺たちの仲間ヅラをしてたのが!」


「ど、『ド外れスキル』……!? み、みんなそんな風に俺のことを思ってただなんて……!」


 仲間たちはまだ言いたりない様子であったが、101ワンオーワンが手をかざして止めた。


「とにかく俺たちはお前を外して、『ナンバーズ111』から『ナンバーズ110』になることに決めたから」


 「『ナンバーズ110』のほうがゴロが良いわよねぇ」と誰かが賛同する。

 そう言われても、俺はまったく納得がいかなかった。


「そ、そんな……! 魔王を倒したあとにそんなこと言われても……!

 あっ、そうだ! 総リーダーの『000トロワ』はなんて言ってるんだ!?

 俺は000トロワに見初められて、『ナンバーズ111』に入ったんだぞ!」


 ふと控室の外の廊下に、ただならぬオーラを感じる。

 101ワンオーワンは脱兎のごとく部屋から出ていった。


「はっはっはっ! わおぅ、000トロワ様!」


 ヤツは目上の者を前にすると、本物の犬みたいになる。

 どうやら外には000トロワがいて、思うさま尻尾を振っているようだ。


「いま111ワンイレブンのヤツをクビにしてるところです!

 000トロワ様も、なにか文句のひとつも言ってやりますか?

 えっ、もう興味ない?

 昔はエルフ族が珍しかったからアイツを仲間にしただけで、今はエルフ族は腐るほどいるからどうでもいい?

 そうっすか! じゃああとはこっちでやっときます!」


 びゅんっ! と俺の元に戻ってきた101ワンオーワンは、虎の威を借りた犬のように胸を張る。


「というわけで、この追放は『ナンバーズ110』全員の意思だから」


「そ、そんな……!」


「最後に餞別をやるよ、その窓から外を見てみな」


 101ワンオーワンからアゴで示された俺は、窓のほうを見やる。

 窓の下には多くの国民たちが集まって、笑顔で手を振っているのだが、よく見ると人文字になっていた。


 その文字は、なんと……!



 お 前  た だ 見 て た だ け じ ゃ ね ぇ か !


 お 前 な ん か 勇 者 じ ゃ ね ぇ !  村 人 以 下 だ !


 こ の ド 外 れ ス キ ル 野 郎 !  国 民 一 同



 『ナンバーズ110』どころか、この国の民の総意であるかのような、決定的な三くだり半。

 栄華の道から一気に転落した俺は、ただ青ざめることしかできなかった。

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