恋に恋するあなたに恋する
司馬涼
ー告白ー
カーテンが揺れ、君の顔を部分的に照らす。
「あのね、今週のどこかで、2人きりになれる時間が欲しいの。場所は学校の中がいいな。お願いできる?」
そう君が言ったのは、今週の日曜の夜遅くだった。それからたった2日で用意と根回しを全て行った。部活サボりがちのおしゃべり女子には駅前の新しいスイーツの話題を提供したし、やんちゃ連中には宿題肩代わり(筆跡はばれるので答えを教えながら各レベル帯に合わせて宿題の出来を変えるという重労働)を向こう1ヶ月分請け負い、脳筋の部活命勢には掃除を引き受けるのを引き換えに速やかな退室をお願いした。先生からの信頼は抜群だから教室のカギを入手することなど御託を並べればいくらでも、なんとでもなった。
「ほんとに作ってくれたんだ!」
すごいね、と机の上に行儀よく腰掛けながらコロコロと笑う君は、どこか緊張していた。そんな君を見るのは久しぶりでどこか懐かしくて、目を細めてしまう。それは決して、君の笑顔が眩しいからではないと信じたい。
思えば、入学式後のオリエンテーションで迷子になっていたのを見つけてから今日まで、お世話係のように君の面倒を見てきた気がする。それは、面倒でもあり、でも同時にとても楽しいことでもあった。基本的に2人でいることが多いからか、付き合ってるんじゃないかという噂が何度もたったりもしたが、そのおかげで変な男が寄ってこなかったのも事実だ。彼氏ができないよう、と全く残念じゃなさそうにうそぶいていたが、告白パレードに巻き込まれずに済んだことに、むしろ感謝してほしいくらいだ。
「あのね、私、感謝はしてるよ?」
伝わってないかな、と小首をかしげる君が可愛らしくて、それだけで満足だった。でも、きっとそこで満足してしまったことに、君は不満だったんだろう。
「あのね、話っていうのはね」
ああ、知っているとも。君は僕が間抜けかなにかと勘違いしているらしい。
「笑わないで、真面目に聞いてよ!真面目な話なんだから!」
もちろん、わかってる。長いこと待たせたし、君から言わせる形になってしまって申し訳ないとも思ってる。だから、こうやって苦笑いをこらえるのに必死なんじゃないか。
「絶対驚くと思うよ!あのね、あのね」
大丈夫だよ、という意味も込めてゆっくりと頷いてあげる。彼女は少し息を深めに吸った。けれども、あんまり吸えてないようだった。なぜなら、
「——————————————————、好きだって。」
声がかすれていたから。
「———先輩から、告白されたの。好きだって。」
きっと、これを伝えることは、すごく勇気がいったことだろう。なぜなら、この出来事自体は2週間前のことだから。
「文化祭の時からなのかな?急に仲良くなってね、―――で、それがすっごく楽しかったの。それでね」
なんで、こっちをチラチラ見ているんだろう?何を僕に求めているのだろうか?僕にはどうしようもないのに。
「って、先輩から呼びだされて。校舎裏に!すごくない?ドラマみたいじゃない?」
なぜ肝心なところを伏せるんだろう。
「それでさ、どうしたらいいかな?付き合ってもいいと思う?」
なんで、もう既に決まってることを聞くのだろう。僕の情報網をなめすぎなんじゃないだろうか。そんなにすがるような目でこっちを見られても、困るのだ。
「あれ?――君に――。2人だけなの?」
「え、先輩…?なんで、ここに」
「なんでって、――君に呼ばれたからだけど。」
結局、この中高一貫校という狭く閉鎖的なコミュニティの中で生き抜くには、情報と勢力バランスが大事になる。だから、僕はこうするのだ。
「会長じゃないですか。彼女さんをお預かりしていましたので、お返ししますね。僕はこれで帰りますので。では、お疲れ様でした」
彼女の動揺した顔がみれただけでも、良しとしよう。
ああ、おかしいな。急に雨が降ってきたのかもしれない。
いきなり、視界がぼやけた。
きっとこれは、雨だ。
恋に恋するあなたに恋する 司馬涼 @ryonjoker
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