死を貴女と分かち合う

せいこう

私という存在

 私は生来よりただただ流されるだけの存在だ。小学校・中学校と義務教育に流されるままに通い、高校は担任教師や親に提案された高校に通った。大学こそはと自分で思考し受けたが落ち、時間が無いと慌ててサイトでたまたま出てきた大学を受けて入学した。


 上記を見ただけでも充分流されているのが分かるがこれだけでは終わらない。中、高での部活は友達に誘われてその部に所属した。

 趣味の殆どは友人からの受け売り。自身で見つけた趣味は少ない。

 それに今までの人生の中で自らの力で何かを一から成し遂げたことは一度もない。どれも道半ばで挫折や飽きにより投げ出された。長続きしたものは何一つない。投げ出されたモノたちは流されるままに記憶から抜け落ちていった。なので、自分から何かを為すという行為自体が苦手になると同時に億劫になった。おかげで自己主張が全くと言っていいほど無い人間に出来上がってしまった。



 これらに加え、さらに醜い存在でもある。大学に入り、一人暮らしを始めてからは親の金をなにかに生かすでもなく無駄に使い込み、学業を疎かにし既に留年までしている。誇れるものは何も無く、ただ生きているだけ。嘘を何度も吐き続け周囲に迷惑を掛けた。遂には私の怠惰や留年などを知った妹からは嫌悪され見放された。家族にとってはただの穀潰しだ。何も為さず怠惰を貪る卑しい無駄な存在。



 全て私の行いが悪い。

 私が全て悪い。

 私は生きていていい人間ではない。

 生きているだけで迷惑を掛ける。

 生きる価値も無い。


 家族にこれからも迷惑を掛け続ける。それなら私は早く消える方を選ぶ。それしか方法がない。これ以上家族に迷惑は掛けられない。また、こんな私と友人でいてくれる人達にも迷惑が掛かってしまう。それに生きていく上で今後関わる人達にも迷惑が掛かる可能性が大きい。




 だから私の中では必然的に『自殺』という選択肢に辿り着いた。『自殺』という答えしか私にはなかった。今以上に迷惑を掛けたくない思いと、この現代で生きていくのは無理という諦観が決めてだ。


 諦観の中には私が同性愛者というのも深く関係している。昨今ではLGBTQに雀の涙ほどは寛容にはなっているが厳しいのには変わりない。友人の中には理解を示してくれる人もいて助かってはいるが今後を見据えていくと辛い未来しか見えない。

 それに私の親はLGBTQに対し、前時代的な考えを持っており偏見が酷い。妹も親ほどではないにしても嫌悪感を持っている為、家に理解者はいない。

 さらに親は「彼氏はいつできるんだ」と頻繁に詰め寄ってくる。こちらの意見は考えない主張に苛立ちを何度覚えたことか。

 ただ、LGBTQに対しての偏見を除けばとても理想的な家族なのでそこに不満は無い。






 ここまで私という存在の醜さや『自殺』に至った経緯を綴ったが読者の中にはこのように思う者もいるだろう。


「迷惑を掛けると分かっていても、生きて恩返しした方がいい」

「自殺するのは逃げだ。甘え」

「自分自身を変えればいいだろ」

「親から授かった命を粗末にするな」

「恋人ができたら考えも変わる」

「恋人ができるように努力すればいい」


 しかし考えてみてほしい。

 これ以上迷惑を掛けたくないから私は『自殺』を選んだのだ。もし恩返しできたとしてもその過程で確実に迷惑を掛けてしまう。それは私にとっては本末転倒だ。


 逃げ、甘えなどの意見については、自らの命の終焉をなぜ他人に決められないといけないのか。甘えに関してはその人の価値観でしかない。自分の価値観を人に押し付けないでもらいたい。


 自分自身を変えればいいと簡単に言うが、性格を変えろというのは容易ではない。こんな私だって何度も試した。好きでこの性格になった訳ではないのだから。だが悉く失敗した。幼少期よりこびり付いた性格はどう足掻いても変えられるものではなかった。変え方の問題と言う者もいるだろう。しかし考えてみてほしい。今ある性格を変えろと言われてできますか?変えられる人がいたら是非ともご教授願いたい。私には無理だ。


「親から授かった命を粗末にするな」が一番タチが悪い。生まれたくて生まれた訳ではないのに、親のエゴにより産み落とされた人の事を軽視しているとしか考えられない。生まれさえしなければ周囲に迷惑を掛けることもなく、わざわざ今のように思考することもなかったのだ。


 恋人に関しては、実際問題できたとしても私の考えが変わることもなければ、努力してまで欲しいとは思わない。たしかに欲しいとは思う。そこは認める。しかし私の醜さや考えを理解してくれる存在がいるとは思えない。誰しも、恋人には生きていてほしいと願うだろうから。


 それに先程述べたとおり自ら行動を起こすというのが苦手だ。できるかも分からない、私を理解してくれる人がいると思えない、これらを思考しただけでも億劫だ。なので行動は

 起こさない。それよりも『自殺』の方法考えた方が効率的だ。死んでしまえば全てが終わるのだーー。





 ふと、万年筆を動かす手を止める。

 心に溜め込んでいたモノをお気に入りの手帳に私は書き込んでいた。


 少しでも心が軽くなればーー。と。


 だいぶ心持ちが軽くなったと、自らに言い聞かせると吐息を一つ零す。


 私は死ぬ。

 それに変わりはない。


 もしかしたら気が変わってしまうかも、と思ったが自分自身でも驚くほど気持ちはしっかりと定まっていたようだ。


 同じ姿勢で長時間座っていたためか、凝り固まってしまった四肢や肩をほぐしながら立ち上がると、母からのおさがりである長財布を手に取り、下宿先の鍵を持つと外に出る。


 季節は秋から冬に変わりつつある。


 頬を撫でる冷たい外気に身震いすると、どこか雲を歩くような足の感触を少し楽しみながら歩き出す。


 サイトなどで調べた煉炭自殺に必要な材料のための買い物にーー。














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