第3話 涙に溺れる




 瞳から零れ落ちた大粒の涙が大理石の床を濡らす。ポタポタ、ボタボタ留めなく流れ出る涙が塩辛い水たまりになるの。




―――私は一体誰なのかしら?




 ああ、私の名前はアリス。そう、確かアリスという名前だったはず。




―――でも名前にどれほどの意味があるというの?




 でも名前は大切よ。名前が無ければ他の人を呼ぶときに大変ですもの。




―――でもここには貴女しかいないわ。




 そう、ここには私しかいない。




―――それで、結局私は誰なのかしら?




 仮に世界で私しか生きていなかったとしたら、「私」なんてものは存在しないのかも。だって一人しかいないのに「私」なんて考える必要がないじゃない?




―――結局貴女は誰でもないのねアリス




 そうよ、私は誰でもない。でもね何故かしら、涙はいつまでも溢れてくるの。流れ続ける涙が床に落ちていく、ああ、このままじゃ海になっちゃう。




―――自分の涙で溺れるなんて笑えるわ






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