第34話 探索2度目



「ひとまず今日のところは10層を目指すよ。そして11層への階段付近で野営をしよう。道中のモンスターは出来るだけ回避して移動を優先する。索敵と接敵回避の為に先頭は千尋と信也で。なにか質問は?」


 ダンジョンへ踏み入れてすぐに今回の方針についてリーダーの佐久間 雄二さんから号令がかかった。少し気になることがあったので手を挙げる。


「はい。探索証のマップ情報だと11層からは竹林のフィールドになるとありました。10層の樹海よりは見通しもよく野営の際にモンスターの接敵に気づきやすいと思うのですがなぜ11層に下りずに10層で野営をするんですか?」


「うん、いい質問だ。ちゃんとマップ情報についても調べてるみたいで感心だよ。じゃあ、11層で出現するモンスターについても調べてくれたのかな?」


「一応は。生息するモンスターは主に爆竹蛍バクチクホタル竹節タケフシ竹脚蜘蛛チュウ・ジズ剣山甲ケンザンコウ、13層以降では豚男オークも出現するとか。スミダダンジョンでは初となる虫類種のモンスターが出現し事前情報では竹林フィールドで最も危険度が高いのは竹脚蜘蛛だったかと。ただ、危険度の理由までは情報が出そろっていませんでした」


「上出来だな」


「ん、出来ればどういう生態なのかまで情報が欲しいけど11層にもなると潜れる探索者も少ないからしょうがない」


 調べた情報の内容は皆さんの納得のいくものであったらしく自分の情報収集能力も多少は向上してきているらしい。


「紫苑君も言ってた通り厄介なのは竹脚蜘蛛チュウ・ジズなんだ。その名の通り竹によく似た節足を持っていてね。擬態の精度が恐ろしく高いから不動だと索敵のコツを知らなきゃかなりの確率で奇襲を受ける。おまけに微弱だけど神経毒の類も持っているからね。毒自体で死ぬことはほぼないけど手足のしびれや毒が強力な個体だと身体を思うように動かせなくなることになってそのまま食われる」


「なるほどそれだけ厄介だから11層で野営はしないんですね」


「あぁ、何より奴らは夜行性なんだ。昼間は獲物が自分の真下に来るまで動かないが夜には餌を求めて積極的に動き出すのさ」


「動く竹脚を見極めようにも夜は視界が悪いし、見極めのために灯りをともすと他のモンスターが引き寄せられる可能性もあるからな」


「かなり厄介よねぇ」


「だから竹林での野営はあんまりお勧めしない」


「なるほど...索敵の際のコツというのは?」


「それは実際に11層に着いてからにしよう。さぁ、もうすぐ5層だ。浅層でも油断するなよ」


『了解』



#####



小鬼ゴブリン接敵まで3,2...」


「信也!射線開けて!」


「千尋!前衛代われ!」


「坊主、深追いするな!」


孤狼アインズヴォルフ、討伐確認しました!」


「皆、戦闘音を聞きつけて森雀リェス=バラベーイ森狐フォレストフォックスが複数来てる!牽制しつつ8層まで走るぞ!」




 前回の探索で到達した10層まではモンスターとの戦闘はあったが危なげなく到達することが出来た。声を掛け合って意思疎通を図りながらの連携にも少しずつ慣れてきて自分も緋色の皆の連携になんとかついていけるようになりつつあった。


 現在は11層の階段付近で野営の準備中だ。食事の準備をしながら源次郎さんに少し聞きたいことがあったのを思い出したので声をかけることにした。


「源次郎さん」


「ん?なにかあったかの坊主」


「えっと、前回の探索時に蔦鰻セルマンギーユのヌシと戦った時のことなんですけど」


 あの時、蔦鰻セルマンギーユが自分目がけて突進してきたのを源次郎さんは刀でいなすようにして地面に叩きつけていた。

突進の力を地面の方向へ誘導したかのような流麗な捌き方。あれがどういう技術なのか、気になっていたのだ。


「おぉ、坊主が言っとるのは儂が総師範をしておった柳生白心流の受け技の一つ『大曲オオワダ』じゃな」


「『大曲オオワダ』、ですか」


「ふむ、元々は川や湖が大きく湾曲して陸地に入り込んでいる様子を表す言葉なんじゃが柳生白心流では相手の攻撃の力をいなして別の方向へと誘導する受け技のことを指す。習得が難しい技の一つでもあるが自在に扱えるようになれば壁や地面に叩きつけることも出来るのじゃよ」


「相手の攻撃をいなす...」


 自分の戦闘スタイルには無い手段だ。これまでソロだったということもあってか軽装備の自分は攻撃を真っ向から受け止めるのは致命傷になりえるため相手の攻撃は回避が常だった。

 しかし“攻撃をいなす”これが出来れば回避よりも攻撃に転じやすくなるだろう。回避が間に合わないときの対応策になるし相手の体勢を崩すことも出来るかもしれない。いなし”自体をブラフに使うことも出来る。戦闘の幅が広がれば初見のモンスターに対処出来る可能性も上がってくる。

 なんとかして会得したい技術だけど...


 話を聞いて考え込んでしまった自分を見て源次郎さんはこう声をかけてくれた。


「一度、うちに来てみるか?」


「え?...うち、ですか?」


「源さんのところは柳生白心流の道場を営んでるんだよ。だから総師範やってたのさ」


 会話を小耳にはさんでいたのだろう。疑問に答えてくれたのは信也さんだった。


「あぁ、だから総師範だったんですね」


「おぉ、そういえばうちが道場であることは言ってなかったか。まぁ、門下生はいつでも歓迎しておるから気になったら門を叩くとよい。せがれがみっちり絞ってくれるじゃろうからな」


「おぉ!そりゃいいな!俺たちも源さんの道場には世話になってるんだ。大神も一緒に訓練しようぜ」


「皆さん柳生白心流の門下生なんですか?」


「いや、偶に稽古に混ぜてもらったり師範の人たちと模擬戦をしたりってかんじだな」


「まぁ、いつも参加できるわけじゃないからなぁ」


「師範達、結構やり手」


「やっぱり普段から稽古してるだけあって武器の扱いに慣れてるわよね。私たちも勉強させてもらってるわ」


 食事の準備も終わリ、食事を囲む頃には他の3人も会話に入り就寝の時間まで会話を弾ませた。


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