九尾

 狐に優しくしてくれた男が戦争で死んだあの日、狐は泣きながら走った。狐は何千年もの時間を遡って走った。狐は走りながら妖狐になり、妖狐は走りながら女に化けた。狐は走り続けた。ようやく戦争のない歴史を作ったとき狐はとうに千歳を超えていた。狐はもう一度走って男のいた時代に戻った。けれども男は狐が変えてしまった歴史のせいで生まれてすらいなかった。狐はまた泣きながら走った。あれから狐の姿を見たものはいない。まだどこかで、男を救うために泣きながら走っているのかもしれない。



Toshiya Kameiさんによる本作品の翻訳が4月刊行予定の100Words小説選集「Mythical Creatures of Asia」に掲載されます。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る