大人で甘い、恋の味。

作花 恋凪

大人で甘い、恋の味。

「のんちゃん、僕、今年はいつもと違う特別なチョコレートがほしいなぁ……!」


2月。いつもの帰り道。家が隣同士で幼なじみの、雨宮 奏心がそう言ってきた。


「特別なチョコレート……?それって、どういうこと?」


私、白雪 架音は、“特別”の意味がわからなくて、思わずそう聞いた。だって言ってしまえば、毎年奏心には誰よりも手の込んだ特別なチョコレートをあげているし、突然こんなことを言われたら戸惑ってしまう。


きょとん、とする私と目を合わせた奏心は、急に近づいてきたかと思うと、耳元で囁いた。


「僕に、のんちゃんからの本命チョコをちょうだい。出会った時から、ずっとのんちゃんのことが好きだったんだ。」


「は、はああぁぁ〜っ!?」


顔が赤くなるのが、自分でもわかる。奏心が、私のことを好き……?嘘でしょ?


「ま、そういうことだから!じゃあねっ♪」


呆気に取られる私を置いて、家の中に入ろうとする奏心。


「ちょっ、待ちなさいよ!///」


私が奏心に本命チョコなんて、ありえないんですけど!?


その言葉は、声にする前に扉を閉める音にかき消された。


♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜


奏心は、私の2歳年下で、中学2年生。出会ったのは私が小学3年生のときだから、もう7年間の付き合い。


私は奏心のことをずっと大好きだった。けれどそれは、あくまで幼なじみとして、で……


それからの毎日は、一言で言うと、「最悪」。朝顔を合わせる度に、好きだの大好きだのたくさん言ってくる。素直に気持ちを伝えれば絶対振り向いて貰えると思うんじゃないわよ?


奏心は自他ともに認める美男子で、すごくモテる。モテなかったことがないから、女子の落とし方を知らないのかしら。


私だって奏心のことはカッコいいと思うし、奏心と当たり前のように一緒にいられるこの距離感を得意に思うことだってある。……けど、告白されるなんて誰が思うか!少女漫画かよ!


──奏心にこんなに想われているって感じて、正直嫌な気はしなかった。いつもと違う奏心に、すこしドキドキしているのも、事実。


私は、それでもこの気持ちを恋だとは思えなかったんだ。だって、それほどまでに、“幼なじみ”としての期間が長すぎた。これが当たり前になった私に、奏心を男の子として見ることなんて……


バレンタイン前日。私は結局、いつもと同じ“普通の”友チョコを奏心に用意した。


♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜


「ごめん、奏心。私やっぱり、奏心を恋愛対象としてみることはできなかったわ。このチョコも、友チョコとして受け取ってほしい……」


2月14日。バレンタイン当日。チョコを渡す時のセリフをブツブツ呟きながら、1人で帰る帰り道。きっと奏心は、もう家に帰っていると思う。それを狙って、私はわざと遅れて学校を出てきたんだから。


「告白って、振る側も勇気いるのね……」


口からでる、白い息を見つめる。


奏心の家が見えてきた、……と思うと、そこには奏心と、見知らぬ女の子が1人玄関の前に立っていた。


女の子が渡していたのは、ハートのラッピングがされたチョコレート。


「ありがとう」


なぜ、聞こえてしまったんだろう。奏心が女の子に、笑顔でそう返したのが。


涙が、頬をつたった。


♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜


私は、家に駆け込んだ。一瞬見えた、奏心の焦る様な顔。もう、何も感じない──


数分して、奏心の声が外から聞こえてきた。


「のんちゃん!誤解だよ!のんちゃんってば!!」


動く気力すら起きない。なんでこんなにショックを受けてるの?……ううん、なんでかなんて、本当はもう、わかってる。


「気づいちゃった。私、奏心のことが好きだったんだ……」


いつからかしら。多分、気づいてなかっただけで、ずっと前から。


“幼なじみ”を言い訳にして、自分の気持ちに蓋をした。奏心のモテる噂を聞く度にモヤモヤしてしまう心に、気付かないフリをした。


きっとこれは、その罰なんだわ。


そう思った瞬間、後ろから、奏心が私を抱きしめた。


「のんちゃんっ……!」


愛しさに満ちたように、優しく強い呼び方。


「……何しに来たのよ。早く彼女のところに行ってあげたら?」


本当は嬉しいのに、冷たい言い方しかできない。そんな私が、心底嫌になる。


けど、奏心はそんな醜い私を離さなかった。


「のんちゃん、聞いて。僕、あの子からのチョコは受け取ってない。告白も断った。僕が好きなのは、のんちゃんだけなんだよ……!」


嘘……でしょ?私の早とちり……。私は思わずくすっ、と笑う。


だって、それほどまでに私は、


「奏心のことが好きよ」


上手く、笑えているかしら。恥ずかしさで、顔は引きつってない?


「友チョコをあげる気だったの。でも……」


奏心の唇に、軽く触れる。


「これで許してくれないかしら。“特別な”チョコレート!」


奏心は、顔を真っ赤にすると、私が今まで見たことないほどカッコいい顔で笑った。


「ははっ、ホント特別……チョコより甘いや。」


そんな奏心のことを直視できなくて、私は奏心に思いっきり抱きついた。……今思うと、これが理由だったのかなって思うの。


私は、いつの間にか奏心に押し倒されていて。


「……ねぇ、俺ともっと甘いことしない?架音。」


「えっ……もっと甘いことって?///っていうか、“俺”?それも、名前呼び捨t」


「しらばっくれないでよ。そんぐらいわかるでしょ。俺は、7年間ずっと我慢してきたんだから──」


♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜


この先は、チョコレートが敵わないくらい甘い、2人だけの秘密。

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大人で甘い、恋の味。 作花 恋凪 @Cocona_Sakuhana

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