異世界送迎株式会社 キボウ

思孝亭

仕事

 雨が降っている。それも豪雨。


「…………」


 そんな中住宅街でトラックを停めて待機している男がいた。


『笹木君。ぶつかる前にクラクションを鳴らすのを忘れないでくれよ?』


「了解っす。」


 上司からの電話を受けながら車を走らせ始める。その前には傘をさしながら歩く1人の男がいた。


「目標確認しました。」


『うん。こっちでも確認できてるよ〜。じゃあ後は頼むよ〜。』


「うっす。」


 彼の背を目掛けてアクセルを力を込めて踏む。最近は慣れてきた作業。


 昔は踏むことにすら躊躇いを覚えたこの作業。今ではもう、何も感じない。


 車のライトが彼の背を照らしだんだんと距離が縮まっていく。


《プップーーー!!》


 クラクションを鳴らすと彼はこちらを向く。その顔は驚愕に満ちていた。


 グシャ!


 何度聞いても慣れない。嫌な音。


 トラックから降り車の前へと足を運ぶ。

 車に着いた血は既に雨に流されつつあり俺はその死体を見下ろしていた。


「死亡を確認しました。先輩、………彼ってどんな世界に行くんでしたっけ。」


『あーはい。お疲れさん。えっとー彼は乙女ゲーの世界……かな。』


「そうですか………。」


 今日みたいなことは珍しくない。

 最近は異世界ではなくゲームの世界への転生が望まれているので俺の会社もその希望に合わせなければならない。それだけが面倒くさいのだ。


 死体を背負い死体専用のケースに彼の体を慎重に詰める。


 その横には同じ箱が数十個。

 今日だけでそれだけを轢き殺している。


 それが………異世界送迎株式会社キボウの仕事である。


 俺たちの仕事にはルールがある。

1・痛みを感じさせない。

2・速やかに騒ぎにならないように

3・体をできるだけ痛めない


 この三つだ。事前に防犯カメラの映像はこちらでハッキング済み。後数分はここにいても警察にはバレないであろう。


 その間に地面の血などの除去作業を始める。いくら雨が降っていてもそれだけは徹底しなくてはならない。


「先輩。終わりました今から会社に戻ります。」


『はーい。』


 車に乗り込み血のついた服を着替え車を発進させる。


 明日は刺殺系異世界転生の依頼だ。


 街中で行われるそれは莫大な費用を使い従業員総出で街の住民を装い民間人を近くに寄せてはいけない仕事。


 そんな大きな仕事の刺殺をする側の人間として今回選ばれた俺なのだが………これがなかなかに心臓に悪い。


 慣れは怖いのだろうが轢き殺しはもう十分慣れてしまった。


 近年増加する転生者の増加。以前はクラス転移とかいう面倒くさい仕事もあったがそれ以上に心が持ちそうにない。


「ブラックだなこりゃ。」


 ゲーム転移とかいう訳のわからないジャンルにも手を出し始めているためその開発陣営に送る人員不足。


 転生先の世界と同じようなゲームを作るための神々への許可申請。


 国内の異世界送迎を俺たちの会社一つで担っているので当然のことであるがそれでも……面倒くさい。


『おい、笹木。  依頼が入った今すぐだとさーそこの道まっすぐいって左の一軒家に住むゲームオタクがターゲット。  持っている毒針で上手く仕留めろだとさ…。』


「はぁ……了解です。明後日部長の奢りで飲みに行くこと約束させておいてください。本当なら時間外労働っすよ。」


『ですってー部長!』

『しょうがない。明後日よ?どうせ行くなら焼肉にしましょう。』


「『よっし!!!』」



 こうして俺たちは働く。

 異世界転生をさせるための異世界送迎をするために。

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