第18話 真夜中の訪問者(2)
エルフはすぐに、理由を話した。
「私たちエルフが『
「ラスト……ホープ?」
などと言われても、ピンと来ない。私の頭上に、クエスチョンマークが浮かび上がる。
彼女が説明すると言ってくれた。
聞くところによると、形は
あれ? それって……。
「あっ……」
「心当たりはありますか?」
間違いない。ギルドで預かっている、あの石だ。
「大アリよ。それで?」
「あれは、魔王ヴェイロンを倒す唯一の方法と言われているものです。エルフの住む里に古くから伝わっていまして、いかなる邪悪をも打ち砕く光の聖剣を生み出せる、最高クラスの魔石なんです。里に来た勇者に、我々としては珍しく、人間に協力しようというつもりで渡しました。あの人間は、光の女神に選ばれた特別な存在でしたから。でも、
そんな、悲しいことを言わないでくださいよ。
「私、石が放つ魔力を利用して、あれがどこにあるのか大体ですが
彼女の表情が曇った。
「どうやらあの石、途中で偽物とすり替わったようなんです」
「そ、それって大変なコトじゃ……!?」
彼女が話すには、自分はまだ未熟なので、探査能力は完璧ではない、だそうだ。今回は世界の存亡がかかった重大な事件。事情を知った里の仲間が、勇者をこっそり
ところが、ある日を境に話が
「仲間は、勇者は石を持っていると言っていました。毎日確認しているので、間違いないと。ですが、私が何度調べても、石の
なるほど、それはおかしな話だな。
「今は、どっちとも止まってる? それとも動いてる?」
エルフは意識を集中させてみた。
「……はい。少しずつですが、石の方が」
この時間帯だ、勇者も眠りについていると思われる。
「仲間の人と連絡とれる? 勇者さんの今の居場所を知りたいんだけど」
「
…………。
「……勇者は、とある宿でぐっすり眠っているそうです」
そうか。そしたら──
「その人が持っている方が、偽物。こっちにあるのが本物……か」
「ええ。探しているうちに
「あの石がねぇ……」
大変なものを預かってしまったようだ。私は何秒も言葉が出なかった。
「……あっ、それなら、早くあの石を勇者さんに届けてあげなくちゃ。偽物じゃ、いくら頑張っても魔王なんて倒せないよ! えっと……私はどうしたら……」
どうしたらも何も、次にやるべきことは決まっているのに、変にオロオロしてしまう私。
「まずは、『
「わ、わかりました!」
私は早歩きで、足音はできるだけ立てずに、正式名称『
「お待たせ」
「お手数をおかけします。では……」
エルフの女性は石を手に取り、真剣な
呼吸の音が聞こえるくらいの静けさの中──
「……ふぅ」
あ、終わったようだ。1分近くかかった。
「本物で、間違いありません」
深夜なので、
「よかったぁ。じゃあそれ、勇者さんのところに持って行ってあげてください。……はぁ、こっちも肩の荷が下りたわ。人様のものをいつまでも置いとくと、だんだん扱いに困ってくるのよね」
明日、早いうちに、この石の件は片がついたとお父さんに言おう。
これで、このエルフとの話は終わりだろうと思っていた。ところが、彼女は立ち上がろうとしなかった。
続きがあったのだ。エルフは笑顔ではなくなった。
「そのことですが、1つ問題がありまして……」
「?」
「……」
「え? 何? もしかして、言いづらいことだったりします? でも、このまま黙っていられても困るし……とりあえず、言ってみて」
やっと眠れると思いきや。仕方がない、もう少しつき合うとするか。
「実は私、戦闘は苦手なんです」
「あぁ……そうなんですか」
エルフはこう言った。里を出てからこの街へ入るまでに、何度も魔物と
「なんか……大変でしたね」
「ええ。それで次の話題ですが……あれは
女性は、ベッド脇に立て掛けられている剣を目で指した。
「うん、そうだけど」
「では、貴女は剣士なのですね?」
「エヘヘ、当たり」
「どれ程の腕前をお持ちなのでしょうか?」
どれ程って言われてもなぁ……。
私の憧れの人・ハルカさんは、国内トップクラスと言って差し支えない。そのハルカさんにどこまで近づいたのかはまだわからない。
「国一番の人と肩を並べるくらい?」
「そんなにお強いのですか!? こんな、人間の子供が……」
「や、本当のところは自分がどの位置にいるのかわかんない。剣士だけでも、世の中にいっぱいいるじゃない? 今のは、そうだったらいいなってだけで……」
「でも、腕に自信はおありなんですよね?
自信は、ある。だから、
「なら、その言葉を信じて……貴女にお願いがあります」
何だろう? ……なんとなくだが、こう来るのではないかと予想をしてみた。
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