無敵な彼女の素敵な冒険バナシ
霜月りの
第1話 憧れの人から話を聞けたよ!(1)
その街は、高い壁に囲まれていた。しかし、白っぽい色合いの壁に圧迫感を覚えるという話は、少なくとも私は聞いたことがない。それは外部から来る人間をシャットアウトするためではなく、恐ろしい魔物の侵入を防ぐという目的のもとで造られたものなのである。
1年を通して穏やかな気候ということで知られている、アルテア王国。特別大きな国というほどではないが、かといって小さいというわけでもない。
私が住んでいるこの街の名は、アルトシティ。国内にいくつもある人間の生活圏の中で最も大きく、常に人の往来や物流が盛んな、国の中心地。王都という言い方もある。
街の入り口付近には、槍を手にした若い男性が1人、いつもいる。見張り番のその人は、少し遠くに見える城に所属している正規兵。もともと治安は良い方であるからか、今日も様子をチラ見してみたら、なんとも
私は朝がやってきて数時間経った頃に外に出たが、街なかは
『冒険者ギルド ブルーバード』──それが、この施設の名前である。中は広く、飲食店に負けない清潔感がある。そこにいる人間のほとんどが、何らかの武装をしている。ある者は一仕事終えたのだろうか壁側でくつろいでいたり、またある者は逆に探しているのか掲示板の張り紙をジッと眺めていたり。
4つあるテーブル席の1つが埋まっていた。背もたれのない丸い椅子に座って向き合っている、同じ性別の3人。そのうち、今喋っているのは、長い薄茶色の髪の、20代前半の美しい女性。青いライン入りの、
「──さすがにね、今回ばかりは身を
女性はテーブルの上に置かれた白いカップに口をつけ、お茶を静かにすすった。彼女の向かいには聞き手が2人。うち1人は、私である。時折、うんうんと首を縦に振りながら、話を聞いているのである。
「けど、ハルカさんたちは諦めなかった」
私の隣にいる、濃い桃色の髪を持っていて水色の衣服に身を包んでいる少女が発した言葉に、鎧の女性──
「諦めが悪いのよね、私たち。結局なんだかんだ言って、本当に逃げた人なんて誰もいなかったし、それどころか逆に、もっと立ち向かっていっちゃったわけだし。最後らへんなんかもねぇ……聞きたい?」
「聞きたい!」
「聞きたい!」
私も声を出した。しかもハモった。銀色の丸いトレイを持つ両手に力が入った。
このギルドに所属しているハルカさんは、数日前に2人の仲間と共に、ある物を入手するために旅立った。そしてつい先ほど、無事に帰ってきた。
彼女たちは、この国はもちろん、周辺国の冒険者たちの間でも
失敗知らずの3人組は、今回の件も例外なく成功させたかったそうだ。報酬はお金ではなかったが、ハルカさんがどうしても自分の物にしたかったとか。
標的は、この街からずっと西にある険しい山岳地帯に
ハルカさんが言うには、角は加工すれば人間用の立派な武器に生まれ変わる。それを知ったどこぞの
他の地域から、何人もの熟練した冒険者たちか、角を目当てに
それから幾日か過ぎた頃、別件で遠方に
そいつは山の中腹にいた。
体長は、角の先から尻尾の先まで12、3メートルと……なかなかの大物だったんだなぁ。事前に仕入れた情報通りの
この魔物を仕留めれば、貴重な角が手に入る。いまだかつて誰もなしえていない、奴の討伐。成功すれば、偉業と
一番先に、刃の長さが80センチメートルほどの剣を握ったハルカさんが、地竜に
ハルカさんの最も基本的な攻撃方法である。
ガギィィン! と音を立てて、刃はあっさり弾かれた。
低木の陰に集まっていた小さな鳥たちがバサバサと
一応は当てたので、その部分を確かめてみると、傷は全くついていなかった。いわゆるノーダメージ。対してハルカさんの方は、両手が軽く
「なるほど、いつも通りの感覚で戦ったのでは、勝ち目はないかもしれないわね」
数歩下がったハルカさんの一言の後、仲間の1人──ハルカさんのよりも厚みのある鎧を着て背中に大きな剣を背負った、
「まあまあ、ここは俺に任せてみな。そいつはもう随分と使っているから、そろそろ手入れしても、お前の望む切れ味は期待できないんじゃないのか? それに比べ、俺のこいつは新品だ。きっと良い結果を出してくれると思うぜ」
彼は、
「行くぜ! おらあぁぁッ!」
目標に向かって駆けた。
その声、あるいはドスドスと響く足音に反応したのか、地竜が目線を彼に合わせた。そして身体を少し動かした。ゆっくりと、しかし何を思ったのか、1歩進んだだけで止まってしまった。
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