第21話 再来の熱砂(1)招待主

 2日後、湊のいる部屋に男達が入って来ると、体を押さえつけた。

「今度は何だ」

「チクッとするだけだ」

 言いながら、注射を打つ。それで湊は意識を失った。

 そして本人は知らないまま、チェロケースに入れられて搬出され、間もなく着いた港から上陸すると空港に行き、プライベートジェットに搬入された。

 そして、チェロケースから出されたところで湊は目を覚ました。

 明らかに内装が違うし、飛行機のエンジン音がする。そして窓の外には、一面の空が広がっていた。

「海の上からいきなり空の上か。随分なサプライズだな」

 そう言う湊は、舌がまだどこか自由に動かない事から、薬が完全に抜けきっていない事を察した。

(暴れても無駄だな)

 そこにいたのは、チンピラとかストリートギャングとかいう言葉が似合いそうな数人だったが、持つ雰囲気と漂うものが、そんなものではないと主張している。

「こうして会うのは初めてだな。

 初めまして。赤龍のリーダー、シェンだ」

「シェン?神とは、また。

 知っているだろうが、篠杜 湊だ」

「狭いところで悪かったな。まずはシャワーでも浴びてスッキリしてくれ。その後は食事にしようぜ。

 おい」

 それで、手下の1人が湊に近付き、立たせる。

「では、快適な空の旅をお楽しみください」

 シェンがニヤリと笑うのに、湊もニヤリと笑い返した。


 せっかくなので、湊は、シャワーを浴びてスッキリする事にした。どうせ空の上から逃げ出す方法などない。

 ざっとシャワーを浴びて外に出ると、今度は機内食のサービスだ。

 食前酒に辛口の発砲ワイン。シュリンプカクテル、コンソメスープ、スズキのムニエル、洋梨のシャーベット、牛ステーキ温野菜添え、ミニタルトと桃のデザートとコーヒー。

 驚いた事に、簡単ではあるがコースメニューだ。

 そしてシェンも、それを意外と上品に食べていた。

 仲間の方はテーブルが別だったが、横目で窺うと、マナーはいい加減だった。

(こいつはどういう人間だろう)

 食べながら観察し、考える。

 シェンも同じく、湊を観察していた。

(元はいい所のお坊ちゃんだったな。それがテロリストに連れ回されて図太くなったのか。体も鍛えてるようだし、やたらと勘もいいみたいだった。

 こいつがオシリスに執着されてるのって、ただのペットってわけじゃねえな。何だこいつ)

 コーヒーを飲んで、観察は終わる。

「なあ、湊。オシリスに随分かわいがられてるみたいじゃねえか」

「かわいがる、ねえ。かわいがるなら、普通は殺そうとはしないだろ」

「俺達の側につけよ」

「俺は真っ当な一般人だぞ。せっかくのヘッドハンティングだが、犯罪グループには入らない」

「そんなにオシリスの野郎がよかったのかよ」

 下卑た嗤いをシェンは浮かべて見せたが、湊は肩を竦めた。

「10年苦労しかしなかったな。解放された時の状況まで酷かったし」

 シェンは足を組み直した。

「でも、向こうはそうは思ってないみたいじゃねえか?」

「さあ。そんな事は知らないね。ストーカーで訴えようか」

(食えねえ奴)

 シェンは内心でそう思い、

(おもしれえ奴)

と、笑った。

「まあ、考え直す事を勧めておくぜ。俺は、優しいけどな。思い通りにならない奴には厳しいぜ」

「DVの気があるな。気を付けろよ」

 シェンは声を立てて笑うと、部下に手を振って合図を送った。

 それで部下が湊を区切られた別の区画へ連れて行き、手錠をかける。

(さて。ここは一体どこだ?)

 考え、窓の外にでもヒントはないかと目をやると、部下がきつい目をして言う。

「おかしなマネはするなよ」

 湊は肩を竦めた。

「機内映画の上映はあるのかなと思ってね」




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