第20話 赤い龍(4)フライト アンド クルーズ
ヘリは海上に出ると、高度を下げて沖を目指した。
航空機がレーダーに捉えられないようにするために、ステルスというものが研究され続けている。
方法の1つは、形状。なるべくレーダー波を反射しないような形にするという考え。おうとつのなるべく少ない形の航空機の設計である。
2つ目は塗料。レーダー波を反射せずに吸収するような素材の開発だ。
3つ目は電子的攪乱。ECMだ。
そして4つ目。これは、地上または海上を低く飛ぶという方法だ。そう、このヘリが今そうしているように。
ヘリは海上スレスレを飛んで大型カーフェリーに近付くと、スルリと駐車デッキに着陸した。
すぐにドアが開けられ、湊は降りるように促される。
船内の細い通路を歩き、狭い船室に入れられると、外から鍵をかけられた。
窓がなく、狭いベッドと小さなテーブルがあり、そこにペットボトルの水と携帯食料がたくさん置いてある。トイレと洗面台は小さいながらも付いていてしばらくここから出さない気であろうことが予想される。
「有給休暇の使い方は自分で決めたいもんだな。
まあ、昼寝するか」
呟いて肩を竦めると、ベッドに横になった。
柳内も錦織も西條も、言葉もなく項垂れた。
目標ロスト。
ヘリはレーダーから消え、発信機の信号も途絶え、スマホのGPSもきかない。
「目撃情報は」
「漁船と遊漁船が、海上をスレスレの低さで飛んで行くヘリを見ています。しかし、その先はわかりません」
「海上保安庁の網にもかからずか」
「はい」
各々の表情は硬い。
「赤龍の仕業だというのは間違いないんだな」
柳内が言うのに、錦織が頷く。
「この間から、狙っていたらしい。動機と目的がわからないが」
「オシリスの仲間だからだろう?赤龍はオシリスと敵対しているからな」
西條が言うのに、ムッとしたように柳内と錦織は西條を睨みつける。
「湊――篠杜君がオシリスとつながっているわけではないというのは、もうわかっている事ですよね。それは、犯罪者グループの入国を阻止できず、犯罪行為を次々と許し、国民を拉致されてその行方も掴めないという体たらくを誤魔化す言い訳ですかな」
「公安の失態だ。わかっていますね」
西條は唇を噛み、渋々頷いた。
「ええ。使えるツテを全て使っても、探り出しますよ」
「いいえ。取り返すんですよ」
「……」
「一国民をエサにして釣ろうとして失敗したと、ニュースや国会で取り上げてもらいたくないでしょう」
西條は軽く会釈をして、踵を返した。
秘書課別室では、お通夜のような雰囲気で、涼真、雅美、悠花がデスクについていた。
「赤龍は何のために湊君を狙ったのかしら」
雅美の呟きに、考える。
「最初は狙って来たんですよね。えっと、植木鉢を落として来て、次は狙撃で」
悠花が言うのに、涼真が首を捻る。
「その2回は本気じゃなかったのかな?それとも、それを切り抜けたから、目的を変えたのかな?」
「少なくとも今は、殺す事じゃないんですよね。連れて行ったんだから」
悠花が縋るように言うのに、雅美は答える。
「そうね。オシリスの前で殺すとかいうのが目的でないならだけれど」
それで再び、黙り込んで考える。
「オシリスに連絡とかできないんですかね」
言い出した涼真を、2人はキョトンとして見た。
「だって、ボク達の敵うレベルじゃないですよね、悔しいけど。それにたぶん、日本の警察もどうかな。世界中の警察が手を焼いているんだから」
「やり合えるのはオシリスくらいって事ね」
雅美は取り敢えず言いたい事には納得した。
「でも、どうやって連絡するんです?いつも、勝手に向こうからかかって来るだけなんでしょう?」
「それは……そうだ!湊の部屋で待っていれば、かかって来る!かもしれない!」
「……」
「……今のところ、それしかないわね」
3人はそう言って頷き合った。
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