第5話 秘密のB坊工場 前編

「ここが、敵のアジトか。」


今、B坊とテケレケ君は苦労して突き止めた謎のロボット軍団のアジトの前に立っている。


B坊は、1週間ぐらい前からロボットの襲撃を受けていた。


ロボットは倒しても次から次へと現れ、B坊を襲って来た。



ロボットの体には、識別番号が書かれてあった。


最初に襲ってきたロボットは、自分のことをロボット1号だと名乗った。


名乗らなくても、大きく1号と書いてあったので分かった。



ロボット1号の大好物は、イチゴだった。


ロボット1号はB坊とイチゴの大食い勝負で対決し、食べ過ぎで倒された。


イチゴの代金は、ロボット1号の部品で支払ったのは言うまでもない。




次の襲撃は、ロボット2体同時だった。


ロボット2号と3号の息の合ったコンビネーションに苦戦したが、B坊とテケレケ君のコンビプレーの前では敵ではなかった。


仲間割れを始めたB坊とテケレケ君の仲裁に入ったのが、全ての間違いだった。




ロボット4号は、「死」を告げる最強のロボットだった。


ロボット2号と3号のことを兄さんと呼んでいたが、血のつながりがないことを教えてあげたらショック死した。


2(に)と3(さん)で兄さんだと思っていたので、少しかわいそうだった。




ロボット5号は、ゴーゴーのイケイケロボットだった。


ロボット5号の加速装置は、すごかった。


目に見えないスピードまで一気に加速し、崖に突っ込んで帰らぬロボットになった。



断っておくが、ロボット5号には指一本触れていない。


今までに例がないぐらい見事な自滅だった。


法定速度を超えていたので、スピードの出し過ぎには注意が必要だと教えられた。




ロボット6号は、残虐非道のロクでなしロボットだった。


ロボット6号は、ありとあらゆる卑怯な手を使ってきた。


こんなにも卑怯で邪悪なロボットが存在していることに対して嫌悪したが、B坊に比べたら可愛いものだったので楽勝だった。




ロボット7号はラッキーセブン、幸運のロボットだった。


B坊とのギャンブル対決で勝っていたのにB坊の借金を全部なすりつけられ、ロボット7号はB坊の豪運の前に破産した。


B坊が対決中に飲み食いした代金は、ロボット7号の部品で支払った。



ロボット8号は、ハチミツ製造ロボットだった。


B坊にハチミツを全部食べられ、ロボット8号店は倒産した。


ハチミツの転売が出来なくなり、B坊はものすごく悔しがっていた。



ロボット9号は、救命救急ロボットだった。


B坊のマウスツーマウスの要求に耐え切れず、ロボット9号は自壊した。


ロボットでも嫌なことは嫌だと断っても良いと思った。




B坊の前に10番目に現れたロボットは、自分のことを『15号』だと名乗った。


『10号~14号はどうしたの?』と聞いたら、10号(じゅうごう)と15(じゅうご)を間違えたみたいだ。



「行け、お前の番だ。10号。」


似ているから、聞き間違いをしてもおかしくない。


ロボット15号のやる気が裏目に出た。



間違いを指摘したら、恥ずかしそうにして去って行った。


間違いは誰にでもある。


誰も悪くない。


その後、ロボット15号の姿を見た者は誰もいない。



ロボットはB坊の強さを分析して、強くなっていると言っていた。


だんだんバカらしくなるぐらい弱くなっている気がするのは、気のせいだろうか。


B坊の悪い影響で、何かが狂って行ったのかもしれない。


このままではキリがないと思ったB坊は、元凶を断つことに決めた。



「本当に、ここで間違いないの?」


「ああ、信頼できる消息筋からの情報だから間違いないよ。」


「消息筋か。」


顔を見上げた先には、立派な建物が立っていた。



テケレケ君が、不審に思うのも無理はなかった。


敵のアジトは、テケレケ君が就職活動したら1次面接前の履歴書審査の段階で不採用間違いなしの高い塀に囲まれた立派な大きな工場だった。



「見た目にダマされては駄目だよ。推理小説の犯人が意外な人物だったなんてことは、よくある話だろ。」


B坊は自信たっぷりに話してくれたが、それでもテケレケ君は不安だった。


これだけ大きな工場に乗り込んで大暴れするのだから、間違いでしたでは絶対に済まされない。


間違いだったら、夕方のトップニュースと朝刊一面の独占は確実だ。


警察の厄介になって、前科が付くのだけは避けたかった。



「これだけ大きな工場だよ。さぞかし悪いことをしてお金儲けしているに違いないよ。」


「そうかな?これだけ大きな工場を経営していたら、普通は世界征服なんて考えないと思うけど。」


「それは逆だよ。お金があるから、世界征服なんてバカな事を考えるんだよ。」


B坊の言葉には、妙な説得力があった。



金持ち、憎むべし。

金持ち、呪うべし。

金持ち、倒すべし。


突如、テケレケ君の脳裏に言葉が響いた。


幻聴ではない。



B坊が、耳元でささやいていただけだった。


貧乏人のひがみだったのかもしれないが、テケレケ君はB坊の言うことを信じてみようという気になった。



「B坊の言う通りかもしれない。」


「分かってくれたか、テケレケ君。」


2人は、手を取り合って団結した。



「準備は良いかい?行くよ。」


「おおー。」


正面から正々堂々、2人の男が敵のアジトへ乗り込んで行った。




「ちょっと、待って下さい。勝手に入ってもらっては、困ります。」


5歩ぐらい歩いたところで、B坊とテケレケ君は警備員に呼び止められた。


他人の敷地内に無断で入ってはいけないことは、子供でも知っている。



大きな工場なので、警備もしっかりしていた。


工場の入り口には、監視用のプレハブ小屋があり警備員が2人いた。


もちろん、監視カメラ付きだ。



「アポはありますか?入る時には用件を言って、この用紙に名前と時間を書いてください。」


警備員に受付けをするよう促された。



「どうする、B坊。ダッシュで逃げるか?」


警備員に聞こえないように、テケレケ君は小声でB坊に話しかけた。


「アホだと~!誰がアホだ。」


B坊は、怒っていた。




「アホではなく、アポ。アポイントメントの略で、面会の約束があるか聞いているだけだよ。」


「な~んだ、そういうことか。知ってたけど、ちょっとボケてみただけさ。」


「ふ~ん。」


テケレケ君は、B坊の言うことを全く信じていなかった。



「ボクに考えがある。ここは、任せてくれ。」


任してくれと言ったB坊の横顔は、少しカッコよかった。


「分かった、頼む。」


面倒ごとに慣れているB坊の経験が、生かされるはずだ。



「これは、失礼しました。私はこういうものです。」


B坊はさわやかな営業スマイルで警戒を弱めると、名刺を取り出すふりをして警備員に近づいた。



「ガハッ。」


B坊は、慣れた手つきで警備員の首筋に手刀を振り落とした。


「なっ!」


テケレケ君は、目を見開いて驚いた。



バタッ


警備員は、白目をむいて倒れた。



パンッパンッ


「一丁上がり。」


B坊は手を叩きながら、不敵な笑みを浮かべていた。



B坊が、やっちまった。


B坊がどう対処するのかなと思って黙って見ていたら、力技だった。


証拠をつかんで警察に通報するつもりだったのに、どうしてB坊に任せたりしようと思ったのだろうか。


テケレケ君は、思いっきり後悔した。



「お前ら、何をしている。」


監視小屋の中から、もう1人の警備員が叫んだ。


「違います。これは・・・。」


テケレケ君が言い訳を考えていると、いつの間にかB坊が警備員の背後に立っていた。


「あっ。」


テケレケ君の言葉で、警備員が硬直する。



「遅い。」


「ガハッ。」


B坊は、もう1人の警備員の首筋に手刀を振り下ろした。


先程のリプレイを見ているかのような手刀だった。



バタッ


白目をむいた警備員が、B坊の足元に転がっていた。


「ナイス、テケレケ君。」


B坊は良い笑顔で、親指を立てて合図を送って来た。



テケレケ君は、B坊の見事な手口を見て言葉が出なかった。


まるで共犯者みたいに同意を求めるのは止めてくれ。


協力した覚えは、一切ない。


これは、B坊が勝手にやったことだ。


B坊のことをカッコイイなどと思った感動を返してくれ。



「何、やってんだよ!B坊。」


テケレケ君は、強い口調で言った。


誰も見ていなかったが、テケレケ君は無関係だと強くアピールしたかったわけではない。



「いいから、早く警備員を隠すの手伝ってよ。」


B坊は慣れた手つきで、外から見えない奥の方へ警備員を引きずって移動させていた。


テケレケ君は悪いことをしていないが、とりあえずB坊の言われるままに外に放置していた警備員を監視小屋に移動させた。



少し冷静になって考えてみよう。


まだ、B坊が悪いと決まったわけではない。


B坊にも何か理由があったのかもしれない。


話も聞かずに怒るのは、駄目な大人だ。



「警備員2人は、悪の組織の一員だったの?」


「さあ?」


「さあ?って。まさか、確証がないのに無関係の警備員を倒したわけじゃないよね。」


「悪の組織の一員だった可能性もあるだろ。」


「そんなの調べてみないと分からないじゃないか。」


「テケレケ君の言う通りだけど、終わったことだ。本人にはもう聞くことは出来ない。」


B坊は、悲しそうな顔で足元に倒れている警備員を見た。



「勝手に殺さないでよ。まだ生きているだろ。」


「心配するな、テケレケ君。」


B坊には、何か考えがあるようだった。



「証拠は後から見つけても良いし、見つからなかったらねつ造しても良いから。悩むだけ無駄だよ。」


B坊は、恐ろしいことを平然として言った。


「何も知らない一般人だったら、B坊は責任を持てるのか。」


「何も知らなくても、同罪だよ。」


B坊のよく分からない理論が炸裂した。



「もし警備員が無関係だったら、目を覚ました時に悪の片棒を担がされていたことを聞いてショックを受けるだろう。ここでボクたちに無抵抗で倒されたら、後で何も知らなかったと弁明できる。」


B坊には、深い考えがあった。


「ごめん、B坊。」


「だから、これは正当防衛なんだ。」


B坊は、正当防衛を強調した。


自分の行動を正当化したかったみたいだ。



ゴソッ、ゴソッ、ゴソッ


B坊が、慣れた手つきで警備員のポケットを物色していた。


「なにしているの?B坊。」


テケレケ君は、神妙な顔つきで尋ねた。



「このままでは目立ちすぎる。警備員に変装して侵入しよう。」


B坊は、考えもなしに警備員を気絶させたわけではなかった。


B坊が泥棒をしていると思ったが、テケレケ君の勘違いだった。



「テケレケ君も早く着替えなよ。」


B坊は、素早く警備員の服に着替えていた。


どっかからどう見ても、怪しい警備員だ。


変装の意味があるのだろうか。


こんなにガラの悪い警備員は、見たことがなかった。


そして何故か、B坊は財布を2つ手に持っていた。



「その財布は何?B坊の財布ではないだろ。どうする気だ。」


「財布の中にカードキーなど侵入に必要な貴重品があるかもしれないだろ!」


B坊の行動には、一切の無駄はなかった。


このままB坊に任せておけば、間違いはないかもしれないと思った。



「おっ。」


早速、B坊が貴重品を見つけたようだ。


「結構、持っているじゃないか。」


B坊は財布からお札だけ抜き取り、元に戻した。


「これで良し。」


何が良いのか分からないが、B坊は今度何かおごってくれる約束をしてくれた。



こうして、世界に平和が訪れたのだった。


めだたしめでたし。

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