第4話 B坊と奈落

「B坊パンチ!」


「GYAOOOOOO!」


B坊パンチが決まった。


終焉の王ジョリュアルジェは、断末魔と共に滅び去った。



「終わった。」


B坊はぐったりとした表情で、辺りを見渡した。


終焉の大地と呼ばれる廃退した荒野のいたる所で、地面が裂けたり陥没したりしていた。


強悪な破壊の爪跡は、B坊と終焉の王ジョリュアルジェ、2人の戦いの激しさを物語っていた。


戦闘モードの影響で頭がもうろうとしていたB坊だったが、異変に気付く。



「アルック?アルックがいない!」


アルックはB坊と共に最後まで戦った、たった1人の仲間だ。


B坊が酔って王城を破壊した時、アルックは一緒に謝ってくれた。


B坊が仲間の報奨金を誤って使った時、アルックは代金を立て替えてくれた。


B坊が豪遊して所持金が0円だった時、アルックは食事をおごってくれた。


アルックがいなければ、B坊は終焉の王ジョリュアルジェとの決戦の地に立つことは出来なかっただろう。



「アルック、どこだ!生きているなら、返事をしろ。」


アルックがいない。


神にも匹敵するB坊と終焉の王ジョリュアルジェの戦いの余波に巻き込まれ、どこか遠くへ吹き飛ばされてしまったのかもしれない。


B坊は必死に叫んだが、B坊の呼びかけに答える者は誰もいなかった。



ボクは、いつもこうだ。


強大すぎる力のせいで、気付くと周りから人がいなくなる。


孤独だ。



B坊は、必死にアルックを探した。


自動販売機の下から小銭を見つけることに定評があるB坊だ。


B坊が本気になって見つけられない物はない。


大岩を持ち上げたりジャンプして上空から見下ろして隅から隅まで探したが、アルックを見つけることは出来なかった。



「おかしい。」


これだけ探して、手掛かりの1つも見つからないのはおかしすぎる。


激しい戦闘だった。


アルックの持ち物や血痕などの痕跡が、絶対に見つかるはずだ。


これだけ探してアルックの腕の1本や2本も見つからないと言うことは、まだ探していない所に手がかりがあると考えていいだろう。



「探していない所は、あそこだけか。」


B坊は、終焉の奈落に目を向けた。



終焉の大地には、終焉の奈落と呼ばれる地平線のかなたまで続く断崖絶壁がある。


向こう岸は、霞んで見えない。


光が届かない谷底は、真っ暗で深さは分からなかった。


終焉の奈落に落ちた者は、絶対に助からないと言われている。



アルックを助けるために、B坊は迷うことなく終焉の奈落へ飛び込んだ。


思ったより足場が悪くて足が滑ったとか、風が吹いてバランスを崩しただけとか、調子に乗ってギリギリまで谷底を


覗いたからなど色々な理由はあるかもしれないが、B坊に後悔はなかった。



「うわああああー。」


B坊は落下するような速度で、谷肌を滑り降りた。



ドンッ


B坊は、すごい勢いで谷底に突っ込んだ。



「痛たたたた。」


頑丈なB坊は、かすり傷1つなくピンピンしていていた。


B坊は全然痛くはなかったが、わざとらしく痛そうにお尻をさすっていた。



B坊は、終焉の王ジョリュアルジェに勝ったのだ。


これぐらいのことが出来ても不思議でもない。


こんなことでダメージを負うようなら、終焉の王ジョリュアルジェには勝てなかっただろう。



B坊は、アルックを探すために生存率0%と言われる終焉の奈落に足を踏み入れてしまった。


真っ暗だと思っていた谷底だが、不思議なことに月明かりぐらいの明るさがあった。


よく見ると、谷底には光るコケみたい植物が所々に生えていて周辺を照らしていた。


懐中電灯が必要ないからと言って、完全に安心できるというわけではない。


光るコケが生えていない場所は、何が潜んでいるか分からないぐらい真っ暗だった。



人命救助は早期発見するほど、生存確率が高くなる。


この薄暗い谷底のどこかで助けを待っているアルックがいると信じ、B坊は1歩を踏み出した。



シュッン


何かが、B坊目掛けて飛んできた。



パシッ


「何だ、これ?」


B坊は反射的に避けると、右手で飛んできた物体を掴んた。



ピクッピクッ


B坊の手には、見たこともない不気味な生き物が握られていた。


深海魚のようにグロテスクな生物を一言で説明するとしたら、エイリアン。



グッー


B坊のお腹が鳴った。


終焉の王ジョリュアルジェとの戦いで、B坊は激しく消耗していた。


行動不能になる前に、一刻も早く迅速なエネルギー補給が必要だった。



終焉の奈落は、本来なら装備を完全に整えて来る必要がある場所だ。


急いでいたため、B坊は十分な食料を持っていなかった。


アルックの捜索を続けるためには、何かを食べなければならない。


食べるのを迷うレベルの生き物だが、B坊の本能が食べれると告げていた。



「うおおおおおおおおおおおおおおー。」


未確認生物にかぶりついたB坊は絶叫した。



「うまい。」


B坊の勘は当たった。


ゲテモノはおいしいと言う言葉に偽りなし。


未確認生物は、生でもおいしかった。


食べてから数時間後に起きる中毒など気にせず、B坊は完食した。



B坊は、終焉の王ジョリュアルジェに勝ったのだ。


これぐらいのことが出来ても不思議でもない。


こんなことでお腹を壊すようなら、終焉の王ジョリュアルジェには勝てなかっただろう。



B坊が歩いていると、次々と獲物の方から飛んで来た。


気配を殺し周辺の景色に溶け込むように擬態する生物の襲撃も、B坊の食欲センサーの前では無駄だった。


見たことがない色々な種類の魔物と戦いながら、B坊は慎重に進んだ。


すると、B坊に変化が起きた。



「うっ!」


突然、B坊がうめき声をあげた。


体調が悪くなったのだろうか?



「淡白な味も悪くないが、物足りなくなってきた。もう一味、欲しいな。」


そう言うと、B坊は懐から調味料を取り出した。


ソースに醤油にマヨネーズ、ワサビやポン酢などもあった。


B坊がたくさんの調味料を持っていることを疑問に思った人がいるかもしれない。



B坊は、終焉の王ジョリュアルジェに勝ったのだ。


これぐらいのことが出来ても不思議でもない。


たくさんの調味料を持っていないようでは、終焉の王ジョリュアルジェには勝てなかっただろう。



順調に探索を付けていたB坊だったが、少しだけ気になることがあった。



「肉だけではバランスが悪いな。」


栄養の偏りは、健康志向のB坊にとって危惧する問題だった。



「キノコ、見っけ。」


ちょうどいいタイミングで、見たことがない毒々しいキノコみたいな植物を発見した。


襲ってきた植物のようなモンスターも捕獲している。


暗所で育つモヤシやキノコなどの植物がある。


多分、それと一緒だ。



B坊は、見たことがない植物や植物モンスターを食べることを決めた。


だが、ここで大きな問題が起きた。



「生だと、おいしくなさそうだ。」


B坊は懐からフライパンとカセットコンロを取り出すと、料理を始めた。



終焉の王ジョリュアルジェに勝ったのだ。


これぐらいのことが出来ても不思議でもない。


フライパン1つ・カセットコンロ1つ持っていないようでは、終焉の王ジョリュアルジェには勝てなかっただろう。



いい匂いに誘われ、モンスターが集まってくる。


B坊はアルックを見つけるために、食べながら戦い。


戦いながら食べ。


食べながら食べた。



肉、肉、肉、野菜、肉、肉、野菜。


B坊は、襲って来るモンスターがいなくなるまで戦い続けた。



ゲップ


「ダメだ。アルックが見つからない。」


腹五分ぐらいになったB坊は、絶望に包まれていた。


ここまで探して何の手掛かりも見つからないなら、アルックは終焉の奈落に落ちていないのかもしれない。


仕方なく、B坊は探索をあきらめて家に帰ることにした。


決してモンスターを狩り尽くしたからとか、早く家に帰って風呂に入って布団で寝たいなどと思った訳ではない。



「ただいま。」


B坊が家へ帰ると、アルックの姿はなかった。


B坊は郵便受けをチェックすると、1通のハガキが届いてた。


B坊に来る手紙といえば、ダイレクトメールか借金取り立ての手紙ぐらいだ。


普通のハガキが送られて来ることは珍しい。



「誰からだ?」


差出人の名前を見て、B坊は驚きの声を上げた。


「アルック!」


差出人は、行方不明のアルックだった。


ハガキを裏返し文面を見ると、さらにB坊を驚かせた。



僕たち結婚しました




「生きていたのか、アルック。」


幸せそうなアルックときれいな女性の2ショット写真が印刷されていた。



B坊は、涙が出そうになった。


結婚に反対されていたアルックは、戦いのどさくさに紛れて駆け落ちした。


今は彼女の両親と和解して幸せに暮らしていると、手紙に書いてあった。



「終焉の奈落に落ちて死んだと思っていたら、奈良君になって生きていたか。」


婿養子となったアルックは、奈良アルックに名前が変わっていた。


B坊がアルックの家を頻繁に訪れ居候するようになるのに、そんなに時間は掛からなかった。



B坊が来訪するようになって喜んだのは、アルックの義理の両親だった。


娘の結婚相手が、B坊ではなかったことを心の底から喜んだ。


娘と結婚してくれてありがとうと、アルックに初めてお礼を言った。



婿養子と言うことで妻の実家で肩身が狭い思いをしていたアルックだったが、アルックのオカズがみんなより少ない、光熱費の使い方に注意されるなどの行為はなくなった。


離婚を回避できたのは、B坊のおかげだ。



B坊はアルックの幸せを見届けると、姿を消した。


B坊はアルックのために、あえて嫌われ役を買って出ていたのだ。


日に日に増していくアルック一家の殺意が怖くなったという訳ではない。


B坊は、か弱い神経の持ち主ではなかった。


B坊に人並みの神経があったなら、もっと出世していただろう。


逃げるように立ち去ったB坊が、アルック一家の前に姿を現すことは二度となかった。



こうして・・・世界に平和が訪れたのだった。


めでたしめでたし。

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