B・B・B・B・B坊

パピポピポプぺ

第1話 B坊と大根

「ただいま。」


「おかえり。」


B坊(びーぼう)が珍しく、ただいまを言って帰ってきた。


「!」


テケレケ君は玄関に顔を向けた瞬間、ギョッとして動きが固まった。


いつもは手ぶらで帰ってくるB坊が、珍しくお土産を持って帰っていたからだ。


だが、テケレケ君を本当に驚かせたのはB坊の意外な行動ではなく、B坊が持って帰ったお土産だった。



B坊の隣には、人間の大人サイズの抱えきれないぐらい大きな大きな大根があった。


B坊は、大根をサーフィンボードを右手で支えるように持って立っていた。



ケチなB坊には珍しい。


お土産かな?


これで食費が助かる。


こんなに大きな大根は、食べきれないぞ。


しばらくの間は、大根料理だな。


今日の夕飯は、大根の煮物・大根のサラダ・大根のステーキ・大根のスープ・・・大根のフルコース料理だ。


この時、テケレケ君は呑気に夕飯の献立を考えていた。




「何?その大きな大根。」


「大根とは失礼だろ。ボクの友人に謝れ!」


「エッ、B坊の友人?その大根は、B坊の友人なのか?」


「うん。」


ハッハハッハー。


B坊の交友関係は広いと思っていたが、大根の友達がいたとは驚きだ。



ゴメン。


正直に言うと、B坊の頭がおかしくなったと思った。


だが、考えてみるとB坊の頭は最初からおかしかった。


もはや手遅れなレベルだ。


心配するほどの問題ではないとすぐに気付いたテケレケ君は、いつもの調子でB坊に話しかけた。



「またまた、冗談を言って。」


「はじめまして。」


「大根が、しゃべった。」


最近の大根は、言葉を話すらしい。



テケレケ君は、自分の目を疑った。


瞬きをしたり目をこすったりして、自分の目に異常はないか確かめた。


何度見ても、目の前には大根がある。


大根には足が生えていて、自分の意思で動いてた。



「テケレケ君、紹介するよ。友人の・・・えっーと。」


しばしの沈黙。



「どうしたの?B坊。」


「いつも大根と呼んでいるから、本当の名前を忘れちゃった。てへぺろ。」


B坊は舌をペロッと出し、自分の頭をコツンと叩いて可愛く笑った。


全然、かわいくない。



「失礼なのは、どっちだよ!」


あざとい可愛さで女らしさをアピールする、ぶりっ子アイドルをバカにしているB坊の行為は許せなかった。


テケレケ君は、憤慨した。



「お前の名前は、何だったかな?」


テケレケ君の怒りを無視して、B坊はマイペースに話を続けた。


「はい、私の名前はダイコニオンⅢ世です。」


「ダイコニオンⅢ世!」


「そうそう、確かそんな名前だったな。『大根2本で3円』でダイコニオン三世と覚えれば、絶対に忘れないよ。」


「B坊は、名前を忘れていただろ。」


テケレケ君のツッコミがさく裂した。



「親しくない友人も、私のことを大根と呼びます。私のことはダイコニオンⅢ世ではなく、大根と呼んで下さい。」


大根は、B坊に本名を忘れられていたショックを感じさせない涼しい顔で自己紹介して来た。


大根らしからぬ名前だったので多少ビックリしたが、大根は見かけによらず礼儀正しい大根だった。


名前で呼ぶのは面倒なので、これからは遠慮なく大根と呼ぶことにしよう。


と言うか、大根にしか見えない。



「大根は、こう見えても俳優なんだぜ。」


「俳優なんだ!」


「はい。」


「男なんだ?」


「はい。」


俳優と聞いてビックリしたテケレケ君だったが、大根に性別があった方が驚きだった。


だが、女優と紹介されなかっただけマシだ。


良しとすることにした。



「役者と言っても、大根役者なんですけどね。はっはっはっー。」


上手い、座布団一枚。


大根の自虐ギャグは、おもしろかった。



「ダイコニオンⅢ世と言う名の俳優は、見たことも聞いたこともないな。」


大根には、インパクトがあった。


1度見たら、絶対に忘れないだろう。


なぜなら、大根なのだから。



大根は言葉をしゃべるだけで、絶対に話題になっているはずだ。


見た目とは違い、大根は売れない役者なのか?


それとも、芸名は別にあるのだろうか?


売れないと言うのは八百屋で売っていないという意味ではない。


そもそも、大根は売り物なのか?


オークションに出せば高値で売れるだろうと、ついつい良からぬことを考えてしまった。



「仕方ない。テケレケ君にお前の演技を見せてやれよ。相手役はボクがするからさ。」


「はい。分かりました。」


疑問に思っていると、気を利かしたB坊が演技を見せると言い出した。




「それでは、シーン37スタート。」


B坊の掛け声と共に、唐突にシーン37の演技が始まった。


プロの演技が目の前で見れる機会は、人生で何度もないだろう。


どうしてシーン37なのかの疑問は、この際どうでもいい。



演技が終わった。



「また腕を上げたな。」


B坊は、タオルで汗をふきふき大根に話しかけた。


「ありがとうございます。」


大根は、うちわであおいだり飲み物や食べ物を用意したり甲斐甲斐しくB坊の身の回りのお世話をしていた。


はたから見ると、大物芸能人とマネージャーみたいな関係に見えた。



「今の何?」


B坊は仕方ないとしても、大根の演技はひどすぎた。


セリフは全て棒読みで演技力もなく、見れたものではなかった。


本当にプロの役者か疑うレベルの演技だ。


自分で言うことだけあって、大根は見かけ通り大根役者だった。




演技力がなくても顔が良ければ人気が出るかもしれないが、大根だからその可能性はない。

同様に、親の七光りの可能性もないだろう。


今の演技の感想を1つだけ述べるとしたら、B坊の女役は気持ち悪かった。


その1点に尽きる。


B坊がミニスカートを履いて演技する必要が本当にあったのか疑問だ。



「すいません。カメラを意識するとあがるんです。」


「カメラをいつも意識しているなんて、見上げたプロ魂だね。」


B坊は、大根を褒めた。




「カメラないよね。それに、カメラを意識してあがっていたら役者としてやっていけないよね。」


テケレケ君は、容赦のないツッコミを入れた。


「話が変わるけど女の子を集めて今度、合コンしない?」


「良いですね。」


テケレケ君のツッコミは、華麗にスルーされた。



「それでよく、俳優だなんて言ってられるね。」


合コンの話題で盛り上がっている二人に、テケレケ君は水を差した。


決して合コンに誘ってくれないから、すねていたわけではない。



「テケレケ君、大根を責めてやるな。」


珍しく、B坊が他人をかばった。




「別に・・・責めているわけではないよ。」


テケレケ君は、歯切れが悪かった。


本当は、自分でも少し意地悪だったかなと思っていた。


合コンへ誘ってくれていたら、こんな風に絡んだりはしなかっただろうと思っていた。



「大根は、セリフがない役者なんだ。」


「それでよく、セリフのある演技を見せようとしたね。」


あきれて、物も言えない。


テケレケ君は合コンの話からそれてしまったことをとても残念に思いながら、ツッコミを入れた。




脇役でも一言二言ぐらいセリフがある。


今の時代、全くセリフがない役と言うのは珍しい。


セリフが全くない役、人はそれをエキストラと言うのではないだろうか?


「大根は、人気ドラマや大きな映画にも出演している人気俳優なんだぜ。」


どうやら、大根はエキストラではないみたいだ。



「大根の出演する映画やドラマは、大ヒットするって超有名なんだよ。」


「へえ~、それで大根はどんな役で出演しているの?」


この時、芸能人に会ってハイテンションだったテケレケ君の心は完全に冷めきっていた。


B坊と大根に疑いの眼差しを向けていたのは、言うまでもない。





「一番多いのは、八百屋に売られている大根の役ですかね。」


「八百屋に売られている大根の役?」


幼稚園の学芸会レベルの配役だ。



「監督に黙って横になっているだけで良いよと言われて、地味にきつかったです。」


まさに、はまり役だ。


だが、八百屋にこんなに大きな大根があったら違和感ありまくりなのではないだろうか?



「これぐらいの大きさの大根は、外国では珍しくないよ。」


テケレケ君の疑問を察したB坊が、素早くフォローを入れてくれた。


こんな大きな大根が外国で本当に売られているかは別にして、大根は主に海外で活躍している俳優みたいだった。



「大根は、ハリウッド映画にも出演したことがあるんだぜ。」


急に世界レベルの話になって、ビックリした。


外国のテレビや映画に詳しくないテケレケ君が、大根のことを知らなくても当然かもしれない。



「一番大変だった役は、畑に埋まって髪の毛だけ出している役ですかね。」


本物の大根になり切った迫真の演技は、監督にべた褒めされた。


撮影後、どれが本物の大根なのか分からなくなって大変だった。


畑の中は暖かくて、大根はそのまま3日ぐらい眠ってしまい放置されたのは良い思い出だ。


そのまま出荷され店頭に並び長い間、売れ残っていたのは大根の名誉を守るため絶対に秘密だ。



「畑に埋まって髪の毛だけ出している役?」


大根は、自分の葉っぱを持ち上げて身振り手振りで説明してくれた。


「それ、髪の毛なんだ。」


「無くてはならない役だね。」


B坊は褒めていたが、別になくてもいい役だと思う。




「地道な下積みのおかげで、大根は引っ張りだこの俳優なんだよ。」


B坊は、大根の葉っぱを上に引っ張って言った。


「いや~、それほどでもないです。」


大根は、自分の葉っぱを持ち上げて照れていた。


「謙遜するなよ。」


B坊は、大根の葉っぱを引っ張って遊んでいた。



二人の話を聞いて、テケレケ君は暇なときに大根が出演した映画やドラマを気を付けて見てみたいと思った。


間違い探しみたいでおもしろそうだ。


大根が人気俳優な理由が、少し分かった気がした。



「最近では、料理番組の出演オファーも来ているけど全て断っています。」


「大根は役者一本で食っていくから、切り売りはしないと決めているそうだ。」


「ハッハハッハー、そうなんだ。」



それは、料理される側のオファーではないだろうか?


テケレケ君は少し気になったが、これ以上ツッコミを入れるのははばかられたので笑って受け流した。


大根は気さくな良い人で、いらないと言ったのにサインをしてくれることになった。



「サインなんて、いらないです。」


「テケレケ君、遠慮するなよ。」


「いや、本当にいらないから。」


「サインするだけだから、痛くも痒くもありません。」


「ほら、大根もこう言っているんだから、サインもらっとけよ。」


「仕方ないな。」


いらなければ、廃品回収か燃えるゴミの日に出せばいい。


テケレケ君は、大根からサインを受け取った。



🍃



「これ、何?」


「サインです。」


「よかったな。テケレケ君。大根はめったなことでサインをしないことで有名なんだよ。」


「へえ~、そうなんだ」


B坊の知り合いだから、大根は特別にサインをしてくれたみたいだ。



🍃



テケレケ君の手には、大根の葉っぱが握られていた。


大根のサインは、葉っぱだった。



🍃



「これ、大根の髪の毛だよね!」


サインが葉っぱ、8×8=サイン。


大根のサインは、微妙にしおれていた。




こうして、世界の平和は守られたのであった。


めでたしめでたし。

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