第7話 都市伝説③
『まず、私が一度このURLにアクセスしてどんなサイトか見てみます! えっちなサイトだったらアカウント停止されちゃうかもなので。え? それだったら見せて? ちょっとちょっとエロ配信じゃないよ』
URLのアドレスは念の為、ぼかしが入っている。
コメントを読んで視聴者に答えているのだろうか、大きく両手でバツ印を作ると珈琲を飲む。さくらさんは少し緊張した様子でクリックした。
しばらく無言のまま画面の様子を見ていたが、
彼女の瞳には様々な映像が小さく写り、パソコンから数人の声のようなものが聞こえる。
『なによ……これ……なんで……』
息を呑むように、恐怖で表情を強張らせると放心していたが、無言のまま配信カメラに手を伸ばすような動作をしたかと思うと、画面が暗くなった。
「さくらさんに送られたURLは、アクセス出来たみたいだね。あー、でも惜しいなぁ。リスナーに検証動画見せてると思ったんだけど……」
梨子は残念そうに肩をすくめた。高校の時なら絶対に言わないような台詞だ。
さくらさんの表情は、生配信している事も忘れたかのように、みるみるうちに表情を変え青ざめていた。
例えば、テレビの特番で放送されるようなあからさまにフェイクだと思うドッキリ心霊動画なら、悲鳴をあげて怯え、驚いた自分に笑いながらリスナーに言い訳するなんて事があったっておかしくない。
『この
僕は動画を一旦停止させると、さくらさんの目の中を覗き込んだ。意識を額に集中させ彼女越しに映像を再生させようとしたが、見えない壁のようなものに押し返されてしまって霊視出来ない。
普段は写真や関係のある物、動画などを霊視すると、追体験するようにその場に入り込んで霊視できるが、まるで何者かに拒絶されているような感覚を覚える。
喫茶店でURLをアクセスしようとした時と同じだ。
「駄目だ、霊視出来ないよ。画面のロックが掛かってるみたいにその動画を見ようとすると拒まれる」
「それなら、こっちの動画はどうかな。でも……これ、面白半分で見ていい物じゃないと思う。私も怖いし嫌なんだけど、手がかりになるかも知れないから」
梨子は関連動画にカーソルを合わせながら怖がっているようだった。それもそのはず、自殺当日の生配信の動画を第三者が切り取ってアップしている違法なものだった。
編集された動画の題名は『閲覧注意! 飛び降りる寸前に幽霊?』と書かれていて、さくらさんが飛び降りたであろうビルがサムネイルにされていた。
不謹慎だし、僕だって恐ろしいが梨子に変わって再生ボタンを押してた。
ぶつ切りにされた動画の始まりは、女性がハイハールを脱ぐ所だった。
「えっとー、これから坂裏さくらは、○□株式会社の屋上からお空の橋に向かって飛びます! 良いでしょー。これは生配信だけど、後でアーカイブにも載せとくね。バンジー? 違うよ、パンツ見えないように、今日はパンツスーツだから残念でした」
画面に向かって話し掛けるさくらさんの目の焦点は合わず虚ろで、ずいぶんとやつれているように見えた。言動からしても、精神的に追い詰められているように感じる。
本名まで口にしてしまっているし、その自覚も無いだろうと思うような危うさだ。
ふらふらと、屋上の柵の方へと向かうと乗り越え空に向かって両手を広げる。
「それではリスナーの皆さん、今日のsakuraの生配信ライブは、夜空を綺麗に飛べましたです!」
そういった瞬間、さくらさんの体は吸い込まれるようにして落ちていった。幸いな事に、地面に激突する衝撃音まではカットされていて僕は胸を撫で下ろす。
その後、問題の箇所がズームされると指先のようなものがさくらさんの足首を掴んでいた。
ズームする前から存在に気づいていたが、僕は改めて霊視する事にした。
「や……やっぱり幽霊なの?」
「うん、ちょっと霊視してみるよ」
フェイクの可能性も考慮して僕は眉間に神経を集中させる。
僕の瞳は緋色に輝き、夜風を受けながら屋上に立っていた。ちょうどさくらさんが、スマホのRECボタンを押しながらリスナーに向かって話している所からだ。
ヒールを右足から脱いで綺麗に揃える。
生暖かい風が吹いて、まるで酔っ払っているかのように足を引き摺りながら柵を跨いだ。
そして天に向かって両手をあげようとした時、下からまるで芋虫のような十本の指が見えた。
指に力が入ると、グググと黒い頭が乗り出し瞳孔の開いた濁った両目が見えた。鼻の当たりまでくると、さくらさんの両足を絡みつくように掴んでそのまま落ちていく。
視線が合って僕は心臓を掴まれたような嫌な気持ちになったが、弾かれたように、反射的に柵へ駆け寄る。
「坂裏さん!」
彼女の名を呼んでも仕方が無いが、呼ばずにはおられなかった。下を覗き込むと真っ赤な血が鮮やかに広がり、おかしな方向に手と足が曲がったさくらさんがいた。
彼女は折れた首を起こして、ギクシャクおかしな動きをしながら僕を見上げると血で真っ赤になった口を大きく開けて言った。
「わ、わ、わだじぃが、わるいのぉぉぉぉ、わるいのよぉぁぁ」
屋上に向かって這い上がってくる気配を感じて僕は息を殺すと後退った。その瞬間、背後で苦しげな呼吸音と生暖かい吐息を感じた。
『健! 戻りなさい!』
ばぁちゃんの声が頭に響いた瞬間、僕は梨子の部屋にいた。無意識にパソコンから後退っていたのか、梨子が怯えるような眼差しで僕を見ていた。
「た、健くん……一体何が視えたの?」
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