第3話 引き寄せられた依頼②
梨子を初めて部屋に呼ぶのは緊張したけど、彼女はもちろん僕とは違いいつも通りだった。
相変わらず明るい笑顔が眩しくて、元気が貰えるような気がする。
「テレビ見てたの? 何か見たい番組があるなら終わってからにする?」
「ああ、それはばぁちゃんの為につけてるだけだから気にしないで。あ、あのさ……。手伝って貰ったお礼に、カフェで珈琲を奢るよ」
「えっ、ごめん、健くんさっきの話本気にしちゃった? 冗談だよ! 奢ってくれるなら缶コーヒーとかでいいし」
「あ、そ、そうじゃなくて。そこの手作りバスクチーズケーキが美味しくてさ。梨子チーズケーキ好きだから。その……どうかなって」
がんばれ僕!
カフェに誘って、次はさりげなく映画に誘おう。断られたらその時はその時だ、仕方ない。彼女の言うとおり缶コーヒーでもおごって、ゆっくり話ができるだけでもいいじゃないか。
梨子は取り繕う僕に、きょとんとした顔をしていたが、にっこりと微笑んで頷いた。
「いいよ。まずは片付けよう。私は食器の方やっておくね」
「あ、ありがとう。助かるよ」
テレビの前で、にやついた笑みで振り返るばぁちゃんの事は無視して、僕らは片付けをした。今日中に片付ける予定だった荷物を、おおかた箱詰めにし終えた所でちょうど良い時間になり僕は梨子に声をかける。
「そろそろ休憩しようか、梨子。よかったら僕の車で行く? 珈琲飲んでそのままマンションまで送るよ」
「健くん、いいの? 私のマンション駅から遠いから助かる。ありがとう」
――――ピロロン。
バイブレーションと共に再びラインの通知が鳴った。
差出人は
前回の怪異事件で、知り合ったコスプレイヤーでオカルトアイドルだ。
僕より学年は二つ下で、高校卒業したての霊感少女で、もともとオカルト
『雨宮~~、元気してる? あのね、今から逢えない? 相談したい事があるって前に言ってたでしょ。今日、時間が空いたから琉花と会ってほしいんだけど』
僕はあからさまに嫌な顔をしてしまった。
僕は今から梨子とゆっくりとお茶をするつもりでいたんだけど……。
まさか既読スルーする訳にもいかないので、正直に返事を返す事にする。なぜ、一般人の僕がオカルトアイドルの悩みを聞かなければいけないのだろう。
僕は考えないようにしていたが、その理由は何となく想像がついてしまっていてすごく嫌な予感がする。
『琉花さん、あの。僕はいま梨子と一緒にいるんだ。これからお茶に行こうって約束してるからね、相談があるなら、後で僕から電話するから』
『今でないと困るの! 梨子さんにも琉花のいるお店のアド送ったから。この場所だからね。必ず来てよね!』
「ええ……」
僕が困惑するように呻くと、梨子がひょっこり顔を出した。その目は心なしか輝いているように見える。僕の想像だと何か霊的な相談を持ちかけられるのでは、と言う期待があるようだ。
あんなに怖がりだった梨子も、事件に巻き込まれる度にたくましくなってきているような気がして、正直ちょっと羨ましい。
今では、課題の合間にこれまで巻き込まれた心霊事件をファイルに記録をして、残していると言う。本当に良く出来た助手だと思う。
「健くん、大人として未成年の相談は受けてあげなくちゃ! ここのカフェ知ってるよ。ここのチーズケーキも美味しいの、行こ?」
「そ、そうなんだ。梨子が言うならいこうかな」
『チーズケーキもいいねぇ。健は苺パフェにしなさいよ。東京みたいにお洒落なもんは、島では食べられないんだから、食べ納めしなきゃね!』
またしても、僕と梨子とのデート計画は潰されてしまって肩を落とした。だが、梨子があれだけやる気を出しているのに僕が従わないわけにはいかないだろう。
それに、まだ心霊の悩みとは決まったわけでは無い。幽霊には全く関係ない他愛もない未成年の悩み事かも知れないし、その時は話を聞いてアドバイスし帰ればいい。
✤✤✤
フルレットと言う名前のカフェは、チェーン店ではないが、全体的に広い造りの店で芸能人がいてもあまり目立ちそうにない場所だった。
僕と梨子は、店に入ると指定された席へと向かう。
そこには帽子とマスクをした、いかにも芸能人の変装といった様子の琉花さんがいた。
店に到着した事を事前にラインで知らせていたせいか、彼女はすぐに僕らを見つけ手を振ってきた。琉花さんの隣には、僕よりも少し歳上に見える男性が座っている。二十代半ばだろうか、芸能人とはいかないまでも端正な顔立ちをしていて、どこか影のあるような背広姿の人だった。
僕たちに気付くと立ち上がり丁寧に頭を下げ、鞄から名刺を出してきた。
「貴方が雨宮さんですか? はじめまして、私は真砂のマネージャーをしている
「はじめまして、
『杉本さん、男前だねぇ』
「はじめまして。はい、そうです。えっと……琉花さんだけかと思っていたんですが、マネージャーさんまでいらっしゃるとなると、個人的なお悩みじゃないのかな?」
僕は、うっとりとするばぁちゃんを無視して、杉本さんから名刺を受け取ると、僕も同じように頭を下げた。
名刺には琉花さんの所属するプロダクションの名前が書かれている。相談者は彼女だけかと思っていたが、マネージャーまで共に来てるとなると、いったい何事だろうかと不審に思って琉花さんを見た。
「うーん、個人的でもあるし、そうでないとも言えるかもね。とりあえず座って」
琉花さんはマスクを外すと、僕達に座るように促してきた。
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