第2話「星に願いを⑤」

 だいぶ前に、街中でオルガが変な人たちに絡まれたことがあって。で、それをサワが助けたってことなんだけど、実際には、その絡んでた人たちがサワを見て逃げ出したっていう。

 ほら、サワってキレたらなかなかにやばいじゃん。みんなそれ知ってるから、あの頃は今よりもサワを避ける人が多かったんだよね。


 オルガも、それはわかってたんだけど、オルガって意外とミーハーで、サワのギターがずっと好きだったんだよね。だから、助けてくれたってことで押し通して、サワと話すようになっていったんだ。

 え?そんな押しが強そうには見えないって?オルガの見た目に騙されたらダメだよ。仮にも長く生きているだけあって、結構いろいろ強いんだよ?


 で、そんなことで仲良くなっていったみたいなんだけど、ええと、あれは…、あれも今みたいに雪が降ってたよね。

 オルガがちょっと悩んでた時期があって。音楽絡みだったよね。あれは楽譜のことで悩んでたんだっけ?まぁ今となっては大した悩みじゃ……、ごめんごめん、オルガ、確かにあの時は真剣に悩んでたよね。


 で、オルガの暗い雰囲気を聴き取ったサワが、オルガを励ましたいって言い出して。

 あれにはびっくりしたなー。サワにそんな感情あったんだって。

 え?あぁ、サワってさ、人の感情が音になって聴こえるんだって。楽しかったりうれしかったりは明るい音。悪意とか怒ってるとかはうるさい不協和音。サワがいつもヘッドフォンしてるのも、そういう外の“音”がうるさくて気持ち悪くなるからってのが理由なんだ。


 でさ、きっとそのころのオルガは悩んでたから悲しい音がしてたんじゃないかな?それで、サワは気づいて、驚くことにオルガを気遣って。

 で、私のところに相談に来たから、今回みたいに何か贈り物でもしてみたらって提案したんだ。そしたらオルゴールを選んでさ。そう、この間の壊れたやつ、あれを選んでプレゼントしたんだよね。



 スハラの話をにこにこしながら聞いてるオルガは、「だから、あのオルゴールが壊れたことは悲しいけれど、怒ることはないの」と、過去を思い出しているのか少し遠い目をしてつぶやいた。


「サワさんって、なんか思ってたのと違う感じだな」


 俺の素直な感想。怖い人だと思ってた。だけど、人から向けられる悪意をじかに感じ取って、それらから自分を守るために怖くならざるを得なかったのなら。

 それはきっと悲しいことだと思う。そして同時に納得する。

 オルガと一緒にいる理由。

 きっと、オルガの「音」に悪意はないんだろう。だから、一緒にいられる。


「あら、お迎えが来たわ」


 本日2度目の来客を告げるチャイムが鳴る前に、オルガが言う。

 チャイムと同時くらいに玄関へ出迎えに行くと、そこにはさっきまで話の中心となっていたサワさんがいた。


「サワさん、どうぞ。あがっていきますか?」


 オルガは来てるかというサワさんに俺はそう返す。

 サワさんは、俺を見て、おやっとした顔をしてから、いやいいと小さく言って、部屋にいるオルガに帰るぞと声をかけた。

 

 2人が帰って静かになると、急にテレビの音が大きく聞こえる。

 クリスマスや年末に向けた明るい話題が続く中、スハラが、さっきの話なんだけどと切り出した。


「サワは、オルガのことを会う前から知ってたんだって。「音」としてだけど」


 スハラが言うには、サワさんはオルガのことを、姿は知らないけれど優しい音の持ち主として、ずっと気にしていた。

 だから、オルガが絡まれていたときには、自分が怖がられることを分かった上で近寄っていったし、オルガが悩んでいるときもどうにかしてあげたいと思った。


「これを聞いたことは、サワには内緒ね。あいつ、口滑らせて私にしゃべったこと、いまだに後悔しているから」


 オルガにも内緒だよと付け足すスハラは、楽しそうに、いたずらっぽく笑っていた。

 

『星に祈れば 寂しい日々を 光照らしてくれるでしょう』

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