坂の上のつくも

小樽歴建×擬人化プロジェクト

第1章

第1話「鈴の行方①」

 付喪神って見たことあるか?

 この世界には、いないなんて思ってたかな?

 残念。俺の世界では普通にいるんだ。


 長年大事にされた物は命を得る。茶碗や花瓶のような物から、建物だって例外ではない。

 もちろん、建物そのものが歩き出したら、街が壊れて大変なことになる。だから、大きなものは人や動物の形を借りて、歩き出すんだ。

 この街には、そんな命を持ったモノたちが昔からたくさんいる。


 これは、そんなモノたちと、人間の物語―――。


第1話 鈴の行方


 高校3年生の進路指導で、将来の目標を聞かれ、俺は「平和な生活」と答えた。それを聞いた先生は、一瞬あっけに取られてから、すぐに怖い顔をした。


 俺としては、真剣に答えたつもりだったけれど、ふざけているとしか受け取られなかったんだ。

 だって、明日だって何をしてるか分からないのに、そんな先のこと聞かれたって分からないだろ?


 そんなだから、結局、俺は進学も就職もしなかった。

 親からは、まぁ好きにしなさいと、半分呆れられながら放任されて、しばらくはふらふらと、自由気まま好き勝手に生活していた。


 だけど1人だけ、そんな俺を心配してくれたヒトがいた。


 それがスハラ。

 スハラは、旧寿原邸という立派な建物が命を得た者。凛とした感じの女性で、見た目は俺と同じくらいの年齢。だけど、付喪神なだけあって中身の年齢はウン十歳。


 正確な年齢が分からないのは、前に一度だけ年齢を聞いてみたときに、グーで思いっきり殴られたから。それ以来、年齢に関してはタブーなんだ。


 俺が小さいときからかまってくれて、ことあるごとに顔を合わせていたスハラは、俺がフリーター(って言ったほうが聞こえがいいだろ?)をしていると聞いて、心配して会いに来てくれた。


 俺としては、好きでフリーターをしているから心配無用なんだけど、あの時のスハラの心配そうな顔は、なんかちょっと悪いことをしてるようだった。


 だから、考えた。

 この街のことは好きだ。だから、仕事も勉強もしたくないけど、街の役に立つことをしよう。


 というわけで、俺は、便利屋を始めてみることにした。

 それはちょっとした思い付きで、単純にマンガの「銀魂」をマネてみたってのもあるけど、ペット探しや高齢者の買い物の手伝いとか、できることからやってみればいいんじゃないかと思ったんだ。


 それをスハラに伝えたとき、彼女は「やっとやる気になった?」と、とても嬉しそうな顔をしてくれた。

 でも、正直一人で始めるのは不安だと俺が言うと、スハラは「じゃあ私が手伝うよ」と積極的な言葉をくれた。


 だから、俺は、いや、俺たちは、今、何でもやる便利屋として街の人々の手伝いや、困りごと解決の手助けをしている。


 と言っても、大それたことはしていなくて、買い物の手伝いや庭の手入れ、迷子のペット探しとか、ちょっとしたことばかりだ。

 それだけ街は平和なんだろうな。


 うん、良いことだ。

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