第7話

 どうやら、彼女は18かそこら、らしい。若い。若すぎる。自分とは釣り合わない。五十そこらの老境に追い込まれた人間には、その若さが眩しかった。特に嫉妬はない。死にたいだけで、べつに未来に興味はない。必要も感じない。

 ある漫画を読んでいて、突然彼女がおこりだしたことがある。23歳差の恋愛が主題になっている漫画で、結末では恋が破綻し、互いに未来に踏み出して終わる。良いハッピーエンドだと、自分は思った。年の差恋愛は、つらい。その泥沼にはまらなかっただけでも良い判断で、そこに作者独特の未来観があって、どこか現実のような読後感を与えてくれる。

 しかし、彼女のお気に召さなかったらしい。くっつけよ。ハッピーエンドになれよ。そう言い続けている。これはこれでハッピーエンドなのだと、それっぽく諭した。


「だめ。恋愛は結ばれなきゃだめ」


 彼女は、その一点張りだった。

 そのどうでもいい平行線のやりとりのなかで、どうでもいいことに気付いた自分がいる。

 漫画のなかで、どうやら自分は、登場人物の明るい未来を見るのが好きらしい。自分の未来に興味がないから、だろうか。明るい未来に踏み出すような漫画を見ると、どうしようもなく、感動してしまう。歳のせいで感動のハードルが下がっているのだろうか。

 そして同時に、目の前の彼女が、結ばれないことの幸せを知らない純情な女が、なんともいえずかわいかった。たしかに、これは年の差恋愛としては、成立する。漫画にリアリティがあるという実感が、そこそこ感じられて、それも嬉しい。

 ただ、それだけだった。何かしようという気は起きない。自分のなかには、死への憧憬しか、ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る