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第6話
綺麗な女がいると、最初は思った。同じ本棚。同じ漫画を読んでいる。均整のとれた身体。身長は高め。話す声は低く、それでいて通りがいい。低いというより、落ち着いた感じの、軟らかさのある物腰。
仕事が入らないときは、いつも仕事仲間の店に行って漫画を読んでいる。街の裏側に精通した店主がいて、趣味で本棚を併設した喫茶店。喫茶店のコックは、店主の恋人だったか、元恋人だったか。たしか両方だと言っていた気がする。
自分の見た目が変化しないことに気付いたのは、三十を越えた頃から。今は数えるのをやめたので具体的には思い出せないが、だいたい五十近辺。そして、若いままの身体。
昔からそうだった。早熟で、物心ついたのは一桁台。思春期なんて存在しなかったし、そもそも精神的には子供時代というのが無かった。普通に最初から心は大人。成長も早かった。
だから、だろうか。とにかく、自分の命を燃やしてしまいたかった。なるべく早く死にたい。それだけが、子供の頃からの夢だった。とにかく早く。どこか、よい死に場所で。ひっそりと死にたい。
そうやって色々なことをして、この街に辿り着いた。この街には正義の味方がいて、街の平和を守っている。ここが死に場所だろうと思い、この街で何度か仕事を受けた。なかなか死線も多く、仕事仲間の正義の味方も良いやつばかりだった。
ただ。まだ死ねずにここにいる。そろそろだとは思う。とにかく、さっさと死にたい。子供心にそう思ってから、五十年。まだ生きている。
そんなだから、特に恋愛をしたとかではなかった。情欲はもてあましているが、人にぶつけるほどでもない。死にたいだけで、それ以外は本当にどうでもよかった。情欲も、死にたい気分の燃え残りのようなものだから、気にしたこともない。
しかし、いま隣にいる綺麗な女。五十年生きてきて、はじめて見る美しさ。はじめて感じる、恋心。そして同時に、死線を越えてきた自分の心が訴えかけてくる。ふれてはならない。近付いてはいけないと。その線の先、彼女のいる場所は、間違いなく、死ではない。
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