第70話 デートじゃん
「それではルーナ知事。中に入りましょう。エスコートさせていただきますね」
アレンは私に対してゆっくりと手を伸ばす。とても洗練された動作だった。
「今日のドレスは本当に似合っていますね。とても素敵です」
彼は私の手を握るとそう言った。とても澄んだ目で見られている。ドキッとしてしまうわ。
「あ、ありがとうございます」
これはエスコートの鉄則よ。まずは女性に優しい言葉をかけて褒める。今までだってなんどもやってきてもらったじゃない。
「さあ、お先にどうぞ」
すっとドアを開けてくれた。やっぱり完璧なエスコートね。王都でも人気があったアレンが私のためにやってくれている。自尊心がくすぐられるわね。とても嬉しいわ。
そのまま椅子まで座りやすいように引いてくれた。
「ルーナが好きなシーフード中心のコースを頼んでおいたよ。甘いワインが好きだろうからヴォルフスブルクのアイスワインでよかったかな?」
「はい。それで大丈夫です」
アイスワインは、冬の寒さを利用して凍ったぶどうを使って作られる甘いワインよ。デザートワインとも言われていて甘くてさっぱりした味がするの。詳細な製法はヴォルフスブルク帝国が
同じように甘いワインに貴腐ワインもあるわ。こっちもヴォルフスブルク帝国が独占しているせいで少数しか市場に出回っていないわ。貴腐ワインはカビを使ってワインを甘くしているそうだけど……
「私をだましましたね?」
「極力、嘘は言っていないよ? 私は元副騎士団長で地元でも有力者じゃないか!」
「でも、本当のことは言ってませんでしたよね」
「本当のことを言えばディナーには来てもらえなかっただろうからね」
「……」
「ルーナは真面目過ぎる。ちゃんと事務所の人たちには連絡しておいたから大丈夫だよ」
「何も知らないのは私だけだったんですね……」
「事務所の皆もキミが働き詰めだから休んで欲しいと思っていたんだよ。だから、半日のデートに誘った」
「デート……」
そうよね、やっぱりこれデートなのよね?
一緒に服を買いに行って帰りに夕食をおしゃれなお店で食べる。
私がひっそり憧れていたデートそのものだった。
「そんなに怖い顔しないでくれよ。嘘をついたのは悪かったからここでしっかりエスコートさせてもらうよ。だから機嫌をなおしてくれ」
彼は苦笑している。まずい。初めてのデートで緊張していただけなんて言えない。
「わかりました。みんなが心配して作ってくれた時間なら精一杯楽しみますよ」
私たちの幸せな時間が始まる。
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