輝く町は近く遠く

清水らくは

第1話

 目指す部屋は三年C組。すでに一年生の姿は廊下にはない。

 迷っていても仕方ないのだけど、どうしても足が止まってしまう。

 一年前、僕は踊るような足取りで別の部屋に向かっていた。こんな未来は予想せずに。

 ぐずぐずしながらも、僕はその突き当りの部屋の前まで来てしまった。もう、入るしかない。

「すみません、遅れて……」

 扉を開けると、四人分の視線がこちらに向いた。男子二人、女子一人、そして絹屋先生。

「神野君」

 絹屋先生が入部希望の用紙を眺めながら、何度も頷く。少しぽっちゃりとした男子は、すぐに目をそらして窓の外を見はじめた。

「はい」

「二年A組、神野朝雄、と。これで全員そろったね」

「やった」

 観たことあるけれど名前が思い出せない女子は、跳ねるような声を出したあと前に向き直った。ポニーテールがぴょこんと揺れた。

「二年生が入部っすか」

 そして、ずっとこちらを向いているのは、髪をつんつんに立てた男子。目がギラギラしている。

「じゃあ、好きな席に座って。今からガイダンスを始めます」

 僕は、後ろの方に着席した。つんつん頭も前を向く。

「三年生が卒業してどうなることかと思ったけど、今年は三人の新入部員を迎えることができそうです。神野君、荒津君、久佐木君だね。この部はフィールドワーク部と言って、まあ、山とかに行って色々観察したり学んだりする部だね。そういえば神野君は去年まで登山部だったんだね」

「は、はい」

「登山部は大会に出たりしてるだろ」

「そうですね……」

 少し声が震えてしまった。絹屋先生が目を細めるのがわかった。

「技術や体力を審査したりするんだよね。フィールドワーク部でもそういうことは必要だけど、競ったりはしない。あくまで自然の中を歩くことをどう楽しむか、それを考えている部なんだ」

「先生、質問です」

 つんつん頭が手を挙げる。

「なんだい、荒津君」

「もてますか!」

 どうやら荒津君というのはユニークな子のようだ。

「そうだなあ、先生が寝ていたら、ふとんの中にトカゲが忍び込んできたことなるあるぞ」

「えー」

「大丈夫、もてなくても楽しければ」

「南宮部長の言う通り」

 そう、名前は南宮さんだ。

「神野君は、前は登山部だったの?」

 南宮さんのまっすぐな視線が、しばらく僕を金縛りにした。

「……うん」

「そうなんだ」

「先輩、あっちから来たんすか!」

 よくわからないが荒津君が興奮している。僕は沈んでいるのだけれど。

 登山部のことは忘れたい。

「はい、質問とかはこれからどんだけでもできるからなー。とりあえずは部活動の予定とか決めていくぞー」

 この部でやっていけるだろうか。もやもやした気持ちは、まだまだ続きそうだった。

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